【週刊プラグインレビュー】UVI / SHADE
今回はUVIから発売されているクリエイティブフィルターEQ「SHADE」についてレビューしていきます。
製品の詳細、マニュアル、15日間の試用期間の申請はこちら。
簡単なウォークスルーの動画はこちら。
製品の詳細な操作方法に関してはこちらを。
実際の出音や特徴に関しては以上の資料を確認していただければ伝わるはずです。今回は細かな機能の説明は行わないので、必ず一度ご確認ください。
動画や他レビューではバンドパスフィルターやフランジャーなど、DJライクなサウンドが取り上げられがちですが、SHADEはその自由度の高さから、周波数にまつわる事であればなんでも実現できます。
簡単なブースト・カットはもちろん、オートワウやステレオイメージャー、サイドチェインコンプとしても駆動しますし、アナログEQ独特なスムースなブーストサウンドの再現も可能です。
今回のレビューでは特にミックスエンジニア視点から SHADEによる「デジタル領域でしかありえない処理」を行うことで、デジタルのサウンドメイクによって失われたエナジーやグルーヴを取り戻す方法を紹介していきます。
平たくいうと、ベタ打ちのMIDIやサンプルループに動きを加えたり、楽器ごとに相関関係を作ったり、レイヤーされた楽器をランダマイズ・ヒューマナイズしたり、素材により濃く表情をつけていったり、といった音楽を本来あるべき有機的な姿にしていく操作を紹介します。
概念を理解するまでがかなり難しいのですが、本当に器用でなんでもできるツールなので、このレビューで見識を深めて活用していただければと思います。
SHADEの特徴
モジュレーター
SHADEを正しく理解するためにはモジュレーター、その中でもまずはLFO(Low Frequency Oscillator)の理解が欠かせません。
一旦遠回りにはなりますが、「EQにモジュレーターが搭載されている」とはどういう状態で、どんなことが可能になるのか考えていきましょう。
LFOに関してはこちらのYAMAHAのサイトや
kindle unlimitedでも利用可能な松前公高さんの「シンセサイザー入門」を読んでみると理解しやすいと思います。
松前さんのお言葉を借りてざっくり説明するとLFO(≒モジュレーター)は「肩もみ機」に似ています。
音になんらかの変化を与える振動で、何にアサインするかで効果が変わります。
「音程」にアサインすればビブラート
「フィルター」にアサインすればワウ
「音量」にアサインすればトレモロ
といった具合です。
LFOはその名の通り、オシレーターの一種なので、基本はサイン波やノコギリ波などの周期的な変数を吐き出して、音に変化を加えます。
SHADEにはLFOを含めて音をもむ原動力といえる10種類のモジュレーターが搭載されています。
一般的なAttack / Decay / Hold / Releaseスタイルの[Envelope]や、インプットの音量からダイナミックな効果をもたらす[Follower]や、ランダムな値を吐き出す[Random]などです。
一つ一つの説明は冗長になるので、オフィシャルサイトをご覧ください。
SHADEのモジュレーターはEQ内の全てのパラメーターにアサインすることができますし、他のモジュレーターのパラメーターにアサインすることもできます。
具体的な例を挙げます。
最近皆さんにもお馴染みになってきたダイナミックEQ、これをフィルターとモジュレーターを用いてSHADE内で作成してみます。
まずはフィルター[Peak Eq-ing]で2.5kHzを6dBをブースト、このままではこのEQの変化はスタティック(静的)です。
インプットされる音がどうであれ、ひたすら2.5kHzを6dBブーストし続けるだけです。
これをモジュレーターを使ってダイナミックEQに変化させます。ダイナミックEQは一般的にはインプットされる音の音量が大きければ大きいほど特定の帯域をブースト・カットします。つまりSHADE的に考えると、インプットされる信号によって動作するモジュレーター[Follower]をフィルターの[Gain]にアサインするという事です。
しかしこのままではインプットされる全ての信号を元に[Follower]の値が決定しているので、オプションのフィルターリンクをONにして、フィルターで指定した帯域のみを取り出して[Follower]の値が決定するようにします。
これで一般的なダイナミックEQの完成です。
なんとなく仕組みを理解していただいたところで、ここからSHADEの本領を発揮してみます。
一般的なダイナミックEQではGainの上げ下げしか行えませんが、SHADEではモジュレーターをどのパラメーターにもアサインできるので、インプットされる音が強ければ強いほど、ゲインと共にQが狭まるという挙動も可能です。
さらに今度はモジュレーターを変えてみます。
[Envelope]を使えばキー入力されるたびに特定の帯域をブーストするEQに、[LFO]を使えば曲のテンポに合わせてブーストされるEQに、[Pitch Tracking]を使えば、フレーズが高いメロディーになればなるほどブーストの値を高めることだってできます。
すごくないですか?アナログシンセを触って育った自分はこの時点でかなり興奮しました。
これまでのDAWのEQになかった直感的かつ音楽的なダイナミック処理がいくらでも実現できる!しかもモジュレーターのアサイン次第で無限の可能性があるから、2Mix聴いただけでは絶対に逆算できないサウンドメイクができるぞ!と・・・。
続いて音作りの実践編に入る前に、他に取り上げておきたいSHADEならではの特徴を列挙します。
スロープ
SHADEのスロープは最高で2000dB/octまで設定することができます。
一般的なパラメトリックEQは6dBあたりが基本なのでとんでもない値です。
ほぼ凸状態です。
一体いつ使うのかという極端な値ですが、2000dBまで上げることで他の帯域に全く影響を与えずピンポイントでブーストカットするユニークなサウンドメイクができます。正直聞いたことない音なので、これだけでも楽しいです。
レゾナントフィルター
[Peak Resonant]などのレゾナントのついたフィルターでは、カットオフポイントの強調をコントロールできるQ-down / Q-Upを搭載しています。
これによりアナログEQ特有のブーストポイント周辺に緩やかなカットが発生するという挙動が再現できます。
単なるピークブーストよりスムースな聞き心地です。
モジュレーターのプリセット保存
SHADEではプラグイン全体ではなく、モジュレーターだけのプリセット保存が可能です。複雑なルーティングを保存しておくことで、思い立った時に時間のロスなく音作りが可能になります。
フィルター部とモジュレーター部が別でプリセット保存できるのは地味便利です。
モジュレーションの極性
バイポーラーかユニポーラーの切り替えが行えます。
例えばサイン波のLFOを使ってパラメーターを操作したい時、指定したポイントを中心点にしてプラス・マイナスするのでは理想の音作りとは異なる場合があります。
その際に極性をユニポーラーに設定することで、片側だけのパラメーターの変化に留めることができます。
個人的にユニポーラーはローパスフィルターやハイパルフィルターで多用します。
GUIの分かりやすさ・操作感
SHADEは直感的な音作りを妨げないプラグイン設計が行われています。
GUIの分かりやすさもその一つです。モジュレーターをパラメーターにアサインする際はドラッグドロップで行えます。
逆に「このパラメーター動的にしたいなぁ」と思った時はそのパラメーターを右クリックすればモジュレーターを呼び出せます。
これがとにかく早い・分かりやすい。
シンプルなツール設計を更地から丁寧に行なった賜物ですね。
同じようにモジュレーターを使用できるEQとしてMeldaのMAutoDynamicEqなどがありますが、パラメーターのアサインが非常に難しく、LFOをアサインするまでに思いついた音のアイデアを忘れてしまうこともしばしばです。
マクロ
SHADEで複雑な処理を行なっていくと、一つのノブで多数のパラメーターを操作したい場面に遭遇します。その際に便利なのがマクロモジュレーターです。複数のパラメーターを一つのノブで操作できるようになります。
Ableton Liveなどに慣れているとGUI的にもかなり扱いやすいかと思います。
音作りの実践
さて、細かい説明をしていくともう終わらないので、
ここからはSHADEの仕様を生かした私の実際の音作りを紹介していきます。
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