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MOA美術館に行ってきた話
所用で静岡のあたりを通りかかり、せっかくだからと思ってMOA美術館に寄った。ずっと「モアビジュツカン」と読むのかと思っていたが、正しくは「エムオーエービジュツカン」だったらしい。館内放送を聞いて初めて知った。
施設内のお蕎麦屋さんでお昼を済ませた。静岡なのに、長野の戸隠のパンフレットが置いてあって、なにかと思ったら戸隠そばのお店だったらしい。美味しかった。
展示室に入る。版画家の特別展示をやっていた。
いやあ、すごいね。何がって、ガラスがすごい。反射がほぼない特殊なガラスで展示スペースと客のスペースを区切ってあって、本当にガラスが見えない。「頭をぶつけないように」という注意書きまであった。ガラスとガラスを繋いでいるパーツと、おそらく子供がおでこか鼻をぶつけたものであろう汚れがなければ、きっと僕もぶつかっていた。
当然、展示そのものも面白かった。ジャンルとしては風景版画で、水の表現やグラデーションが綺麗で、版替えをして同じ図柄で時間帯の差異を作った版画や、風景版画の作品と、モデルになった場所の現在の写真を比較できる構成になっているコーナーがあり、実写の方は画角まで版画に合わせていて面白かった。版画は専門外だから、技法に関しても作家に関しても本当に基礎の基礎、みたいなことしか知らないんだけど、それでも楽しかった。
後半には常設展と思しき色々な人の作品が展示されていた。国宝や重要文化財などもあり、すごかったんだけど、少し考えてしまったことがある。器系の展示品についてだ。キャプションには、花器や硯箱、菓子器などという器の種類も併記されていたんだけど、本当だろうか、と思ってしまった。たとえば、当然だが展示されている花器に花は活けられていない。文化財に指定された経緯を何も知らないからなんともいえないけれど、もしも作られた途端に登録されていたとしたら、一度も花を活けられないまま、僕の目の前のガラスケースの中に収まっているのかもしれない。そうだとしたら、花器としてのアイデンティティーを獲得できていないのではないか?その場合、あの器は花器を名乗ってもいいのか?あの硯箱に、常用されている硯が入ったことはあるのか?あの菓子器の蓋を開けて、お煎餅か何かを入れたことはあるのか?うわ、俄然気になってきた。入れるとしたら、なんだろう。少なくとも、スーパーのお徳用せんべいとかではダメだろうな。どこかしらから叱られそうだ。