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カムアウトしたけど、カムアウトしなければよかったと思った話

最近、誰にも言えなくてモヤモヤしていることを整理したい。

私は、女だが女性が好き。彼女がいる。
ただ、家族や会社、友人にはカムアウトしていない。
カムアウトするのは怖いから。

ただ、私が学生だった頃に比べて、世間がセクマイに対して寛容になったと感じる。ニュースでもテレビでも、LGBTQがなんだといっている。いろいろな意見はあるけれど、受け入れられ始めたのだと思った。


今年の初め、グループ会社による合同研修に参加するよういい渡された。
初対面の人と班を組まされ、1年間、課題に取り組む研修だ。
研修の目的は、会社同士の横のつながりを作るものらしい。

班の人々と顔を合わせ、研修が始まった。
それなりに頑張ろうと思い、何もできないなりに、班の飲み会などには積極的に参加していた。

班には5名の男性がおり、女は私1人だ。
リーダーと斎藤(仮名)さんは、よく飲み会に参加していた。
実質、私とリーダー、斎藤さんの3人で飲むことが多かった。


班のリーダーは、兄貴的存在の頼れる男だ。
面倒くさい面もあるが、課題を中心になって進めてくれる。
この人の機嫌を損ねてはいけないなと思いながら、ただ、勉強になる部分も大いにあるため、積極的に彼の話を聞いた。

斎藤さんは、自分のことをなんでも話す男。
気になっている女性が複数名いることを、あけっぴろげに話す。
斎藤さんの女性関係の話は飲みの場の定番のネタだった。
しかし、内容はそこまで下品ではなく、男女ともに笑ってツッコミ、相談に乗れる。男女から人気がある『人たらし』を体現しているような人だ。


飲み会を重ねて仲よくなるにつれ、仕事や課題についてだけでなくプライベートな話もするようになった。
趣味の話や、これまでの恋愛、結婚についてなど。

当然、私の恋愛事情も聞かれる。
実際には彼女がいる。しかし、打ち明けるのは怖い。
だから、彼氏がいると話していた。

そうすると、「彼氏がいるのに男と飲みにきて大丈夫?」「結婚はいつ?」「子供は考えてるの?」など、そういう質問に発展していく。
誤魔化しながら話を進めても、詳細を話すとボロが出るからあまり話せない。彼氏の写真を見せてといわれても、見せることができない。

そうすると、2人にとっては、一線引かれているように感じるんだろう。
なんだか残念そうな顔をされる。
「仲よくなれたと思ったんだけどな」「比野ちゃんは、自分の話をしてくれないね」といわれる。

私も仲よくなれたと思った。そして、もっと仲よくなりたいと思った。
この2人になら、カムアウトしてもいいかもしれないと思った。
もし何かあっても、どうせあと半年で縁が切れる人たちだし、2人ならノリで受け入れてくれるかもと思えた。
だから勇気を出して、初めてカムアウトしてみたのだ。

「実は、女性と付き合ってるんですよ」
「小さい頃から女の人が好きで、生粋のビアンなんです」

リーダーは初め、困ったような反応をしたけど、「そうだったのか」とうなずいてくれた。「比野ちゃんにもいろいろあるんだね」と。
斎藤さんもうんうんとうなずいていた。
深夜2時の居酒屋で、初めてのカムアウト。
本当によかったんだろうかという気持ちと、予想通り困らせてしまったこと、でも、事情を飲み込んでくれようとしていることも感じた。

その日の帰り、リーダーは「話してくれてありがとね」といってくれた。
斎藤さんも「今日はより仲よくなれたと思う!」といってくれた。

中学生の時、ビアンであるとウワサされた時期のことが脳裏に浮かんだ。
面白がる目や、ニヤニヤした顔。
あの頃とは違う、時代も違う、みんな大人だと思った。
受け入れてもらえたのかなと思った。
少しの不安と、嬉しいような。

これからは周囲の人にカムアウトしていってもいいかもしれないと思った。



班で課題を進める中、班員全員での飲み会が開催された。
私の性的指向を知っているのは、リーダーと斎藤さんのみ。

別におおっぴろげにカムアウトする必要もないし、特に仲よくなれた2人が知ってくれればいいかと思って、特にほかメンバーにはカムアウトをしなかった。

話はいつもの通り、斎藤さんの女性関係の話になった。
今、気になる女の子が複数いるらしい。
斎藤さんには結婚願望があり、はやく誰かとゴールインしたいとのこと。
話を聞いている分には面白い。
私もほかメンバーと一緒になって、なんやかんやと茶々を入れる。

そこで「選択肢の多い斎藤さんのため、結婚したい相手を整理しよう」という話に。
斎藤さんの手札(関係のある女の子)の中から、結婚したい女の子ランキングをつけることになった。

現在の状況を整理して、斎藤さんは『真剣に結婚したい相手』を考えた。

1位、2位、と発表されていった。
するとなぜか、3位に私の名前が呼ばれた。
ほかのメンバーは盛り上がる。
「おお~!」「ここで比野ちゃんか」など、さまざまな声が上がった。

斎藤さんは「いやまじで、結構リアルにアリだと思ってる」といった。
「実際、比野ちゃんと俺、相性いいよね。話とか雰囲気とか」って。

なんで?この前の話聞いてた?

リーダーをちらりと見た。ニヤニヤしている。
「俺は結構お似合いだと思うけどな」「比野ちゃん的に、斎藤はランキング何位なの?」といわれた。

なんで?何位とかないよ。
彼女がいるって話したじゃん。
生粋のビアンだって話したよね。

私は、リーダーやほかのメンバーと同じ立ち位置で話に参加していると思っていた。
でも結局、女という記号でしかないんだなと思った。
ここにいるのは、比野ではなく、記号としての女。

私がここで、「私はビアンなので」といえる強い女だったらよかったんだろうか。
「ないですよ、ないです」と笑いながら誤魔化すしかできなかった。
誤魔化しながら、この2人はこの前の話をどう捉えているのか分からなくて混乱した。

その後も、リーダー含むメンバーの悪ノリは続いた。
帰り道、斎藤さんと2人になるように仕向けられたり、リーダーに「この後、2人はホテルだよね?」みたいなこともいわれたりした。

なんで?



結局、LGBTQがニュースによく取り上げられるようになっても、それは画面の向こうの話なんだろう。
目の前の女が「ビアンだ」と打ち明けても、受け入れられないらしい。

女は女でいなければならない?男の恋愛対象でなければならない?
飲みの席の場で、女でいなければならない?

私が男だったら、ここに性別という記号がなければいいのに。
別に男になりたいわけじゃない。
でも、男だったら、と思う。

「比野ちゃんについて知りたい」といわれた。
だから私はありのままを伝えた。
でも彼らは、私を私として見ることなく、『女』として扱う。

安易に、カムアウトなんかするもんじゃないなと思った。


彼女とは仕事の関係で、月に2回ほどしか会えない。
せっかくの限られた楽しい時間に、こんな話したくない。

イヤだと思っていい話なんだろうか。
私が考えすぎなんだろうか。

モヤモヤしすぎて分からない。

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