留学先でまず歌を覚えた話
大学4年の8月、私は留学先のインドネシアに着いた。学校の新学期が始まるまで時間に余裕があったので、下宿(コス)の周りを歩いて探索してみることにした。
コスのある通りを抜けるとモールがいくつか並ぶ大通りに出る。車はなかなか止まってくれないので道路を渡るのも一苦労。一緒に渡ってくれる人が来るまで待ってみる。
結構歩いたと思う。どこのお店かは思い出せない。ただ、モールの端の方に本屋があった。インドネシア語の読めそうな本を見たり文具を探したりしていると、ふと、もうすぐ独立記念日だと気づく。8月17日。大学はまだ始まっていないので時間もあるし、なにかイベントがあれば参加したいなと思う。そしてまた、ふと、インドネシア国歌を留学生の私が歌えたら盛り上がるのでは、と思う。そこで、本屋で音楽の本を探してみると、あった。しかも楽譜付き。私はピアノを習っていたので楽譜があったほうがわかりやすかった。すぐに買ってコスに戻った。
開いてみたが歌の雰囲気がわからなかったので、Youtubeで音源を聴いてみる。そして気づく。めちゃくちゃ楽譜が間違っている。気になって仕方がないので、聴きながら書き直す作業に入る。絶対音感はないので何度も聴き直し、口ずさみながら少しずつ進めていく。誰に見せるでもないのだが、おかげさまで終わる頃にはメロディーが頭に入っていた。次に辞書を引き、歌詞の意味を調べていく。楽しい作業であった。
8月17日。コスの共有スペースにはテレビがあって、朝から式典の中継をしている。その様子を見ていると、近くでイベントやってるから見に行こうと管理人さんに誘われ、楽しそうだなぁとついて行く。徒歩数分の細い路地を少し入ったところに、たくさんの人が集まっていた。式典のようにカッチリしたものかと思っていたが、そこにはパン食い競争をしている子どもたちと盛り上がる大人たちがいた。どうやら独立記念日にパン食い競争は定番らしい。
本当のところはわからないけれど、私は「そうか、独立って喜ばしいことだから思いっきり楽しんでるのか」と感じた。そして、第二次大戦中、日本がインドネシアを支配していた事実に気づく。私は外国人であり「日本人」なのだ。ここにいる日本人は私一人。その立場で目の前の人たちにどう関わっていいのかわからなかった私は、その場の高揚感を肌に感じつつ、パン食い競争を見るだけで参加はしなかった。
結局この日、覚えたインドネシア国歌を私が歌うことはなかった。ただ、後日インドネシアの友人の前で歌ったところ、「なんで歌えるの!?」と驚かれた。私は単純に、「インドネシアのことを知りたくて」「みんなと仲良くなりたくて」と答えた。友人たちがどう捉えたかはわからないけれど、それが私の素直な気持ちだった。一方で、私のこの気持ちを相手に届けるために、日本とインドネシアの歴史を学び続けることが必要なんだと感じている。
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