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武田先生

リップの付いたストロー


リップの付いたストロー


リップの付いたストロー



リップの付いたストローを見ると、
武田先生を思い出す




武田先生は、小学生のときの音楽の先生


女性ベテランだった

ベテラン女性ではなくて、
女性ベテラン

ベテランが主の女性



武田先生はすごく口紅が濃くて、
武田先生の唇は、
あのジャングルジムよりも目立ってた


ジャングルジムは、
色んな界の目立つ色を使って
スペシャル目立ちをしていたのに、


武田先生の唇は、
一色のみで勝負して
ジャングルジムに打ち勝っていた


ジャングルジムより目立つ唇でリコーダーを吹くので、
そりゃあもちろん、
リコーダにもしっかり口紅がついていた



そりゃあもちろん、リコーダーも、
ほんのりジャングルジムに打ち勝っていた




武田先生は楽器を人として見ていたから、
リコーダーを落とした人がいたら
まず1回その場を沈めて、

「リコーダーにごめんなさいは?」

とみんなの前でリコーダーに謝罪を求めてきてた



だから、リコーダーを落とす音がしたら
けっこうピリついてた


友だちと喧嘩してもあんまり謝ることができない子の
「ごめんなさい」も
武田・リコーダーペアは引き出せてた


あと、武田先生は
リコーダーを落とす音に特化しすぎていたので、
聞き間違えがめちゃくちゃ多かった


少し損をしていた



武田先生は
リコーダーを落とす音に特化しすぎていたので、
生徒の名前も全く覚えられなかった

よく、渡辺くんっていう
クラスで1番背が高い子の名前を
「渡貫(ワタヌキ)くん」
って呼んじゃって、泣かせてた

背が高い子の涙も引き出せてた




武田先生は小さな声が嫌いだから、
運動会の開会式で
みんなの校歌のボリュームに物足りなさを感じて、
マイクを持って校歌を歌い始めて
演歌会場にしちゃってた


かわいい子どもの声を一瞬でかき消しちゃってた



校歌も、太いビブラートをかけ続けられて
びっくりしてた


親御さんたちは、
この日のために有給を取って
かわいい我が子を収めようとビデオを回してたのに、

いつの間にか、
有給を取って
武田先生の独唱を収める人に変わってしまっていた




武田先生は
音楽室に「席替え」を持ち込むタイプだった

音楽室は基本名前順で座るシステムだけど、
3ヶ月にいっぺん、なぜか席替えがあった

武田先生が名前を覚えられない要因の1個だったと思う


席替えの仕方も、かなり「武田先生」だった

まず、音楽室の前方にステージがあるんだけど
そのステージに生徒全員を並べて
武田先生に指名された人から順に
端から席を詰めて座っていくシステムだった


でもこれコツがあって、
目を合わせると、必ず指名される

だから、私は、仲良い子が呼ばれた直後に
ひたすら目を合わせにいって、最高の席を確保してた

なかなか呼ばれなくて
最後の方までステージ上に残された子たちは
知らない感情に包まれてしまってた

でも、そういう子たちは
「喜怒哀楽ステージ残り」
っていう感情が5個になる見返りがあるから、
それなりに得はしている


武田先生は、
ステージ上に残されたうろ覚えの名前の子たちを
がんばって発音してた







武田先生は、強い



色んなものに、勝っていた



でも、

そんな武田先生にも、唯一勝てない存在がいた








鍵盤ハーモニカ





鍵盤ハーモニカは、強かった



だって、
武田先生のあの唇からどれだけ攻撃を受けても、
鍵盤ハーモニカは、凛としていた


全く屈せず、固い黒を保ち続けてた


武田先生のあの唇が、ほんのり
固い黒になってしまうほどの影響力もあった


白いホースだけだったら
絶対に負けていたところを、
固い黒が完全に抑えていた

さすがの武田先生も、鍵盤ハーモニカには怖気付いてた



武田先生は、
あなたにとってのライバルは誰ですか
って質問に、
真っ先に「固い黒」を挙げてた



でも、武田先生は負けず嫌いだから
悔しさで
白いホースの方を攻撃してしまったこともあった

白いホースは隙だらけだから
簡単に、
ほんのりジャンジム勝ち色に染まってしまった


武田先生は、白いホースには、簡単に勝てる

でも、
「白いホースの方を咥える」って行動をしたもんだから
さすがに変な空気が流れて

さすがに変な空気が流れてるってことを察して、
武田先生は、
拭いてた



武田先生は、
白い旗を上げた











今、強くなりたい君





今、何かに勝ちたい君





私から言えるのはこれだけだ












「固い黒を身に付けろ」



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