ある、宇宙人の話 『反』
序章 ある、路地裏の話
夏。暑い部屋。うるさいテレビ。もう何もやる気にならなかった。時間は17時。夕食がない。買いに行かないと、夕食がない。ジメジメした部屋は気分を気怠くする。少しずつ立ち上がり、財布を持って外へ出た。
「寒ッ…え雨?」
なんで室内は暑いのに外はこんなにも寒いのだろうか。この季節に上着を着ることになるなんて。最悪すぎる。
傘を持って外へ出る。アパートの下の道には誰もいない。向かい側の家の塀に猫がいた。少し焦げ臭いにおいがした。
意外にも、商店街には沢山の人がいた。ここに来るまで全く人に出会わなかったからか、安堵のため息をついた。そこから5分も立たないうちにスーパーにが見えてきた。
レトルトカレーを沢山買う。一週間分の食事が欲しかった。これでしばらくは来なくても大丈夫。あとは飲み物を買えば…
「ぐえ」
突然スマホがなった。法政オカ研のグループチャットで何かあったようだ。
『法政大学オカルト研究サークル ツチノコ探索合宿夏季 参加者募集のお知らせ』
どうやらツチノコを探すらしい。面白そうだと入ったオカ研だが、宇宙人やUFOに興味がある僕と妖怪や幽霊を研究するオカ研ではすれ違いがあり、参加する気にはならなかった。
スーパーを出たが、雨は変わらず降っていた。水たまりを斬って進む電車。騒音。人々の声。足音。湿気が全てを”存在する意味のない物”として処理する。それが正しいのか、僕には見当もつかないはずだった。
かえってきて、テレビをつけた。
『…ぃ、こちら現場の坂本です。雨の影響で、炎はあまり広がっていませんが、度々みられる爆発によるひがぃ…』
横浜市、菊名。僕の住む町。で、山火事。外に行けば見えるだろうか。飯食ったら行こう。
『…ぃんせきを見たという証言もぁ…』
「うわぁ…グロ…」
先の焦げ臭いにおいはこれだったのだろう。鼻につくにおい。最悪だ。山が赤く染まる。非日常。人生で一度見るかどうかの光景。そうだ、映像に残してツイートすればバズるんじゃ…
…カサ…カサ…ゴトンッ
え?なに?…ぇ?
「…ひ、人…?」
路地裏に立つ女性。体は傷だらけ。服を汚れたり、破れたりしてボロボロだ。こっちに向かって歩いてくる。
バタ…ゴンッ
倒れた。
倒れた?
倒れた!?
傘を放り投げ、女性に近づく。辺りも騒ぎ始める。
「大丈夫ですか!!!?」
壱章 ある、女性の話
「栄養失調ですね。」
「え、あっそうですか!」
「はい、こちらでも食事を与えてみたのですが、少し怪しんだはいましたがしっかりと食べていたのでおそらく体調も少しずつ回復するでしょう。」
あの時、周りにいた人が救急車を呼んでくれたおかげで、すぐに病院に連れて行くことができた。あの女性は、今は意識も回復して病院のベッドにいるらしい。
「…ただ、一つ問題がありまして、」
「は、はい?」
「彼女の身元を確認できるものが全く見つかっていないんです。名前も年齢もどこから来たのかも不明なので退院させたところで行く場所がないんじゃないかって…」
「…本人から聞き出すことはできないんですか?」
「失語症なのか意識が戻ってから一度も言葉を話していません。おそらく聞き出すことは難しいでしょう。」
「…それなら、僕が引き取ります」
「え、いいんですか。」
「はい、もう覚悟はできました。彼女が喋れるようになるまで、僕が様子を見ます」
そんなこと、できるわけがない。でも、放っておくわけにはいかない。だから、
「では、お大事に」
ドアを開けると目の前にはあの女性がいた。
暗くてわからなかったが、青い髪をしている。表情は無く、赤い瞳で僕を睨みつけている。
「…あ、」
「…」
「どうも…」
「…」
本当に喋らない。表情も一切変えずにこちらを見続けている。
「名前は?」
「どこから来たの?」
「好きな食べ物は?」
いくら話しかけても何も返さない。外国人か?
と、突然こっちを向いた。そした表情を変えた。今考えると、これは何かの合図だったのかもしれない。その顔に浮かべたのは笑顔だった。
頬を赤らめ、こちらをじっと見つめ、僕を認めてくれたような気がした。
まばたきをすると、すでに表情はもとに戻っていた。不思議そうに僕の顔を見つめていた。
「⁂⁑⊛⁑**⁂」
え?
「*⁂**⁑」
しゃ、
「⁑⁂⁂⊛⋆*⁑⁂」
しゃべった!?のか!??
もしかしたら会話ができるのかもしれない。しかし、日本語を喋らない限りは、どうしようも…
「…よし、決めた」
自分にできることをやるしかない。自分から引き取ると言い出したんだから。責任を持って接しなければ。会話を成立させるためには…
「君に日本語を教えるよ」
「と、いうことで」
「今から日本語を教えまーす」
「*」
「ここは…」
ドオォォォォォォオン
何!?窓の外には煙を出す山があった。また爆発した、ということなのだろうか。
「じ、じゃあ続きやろっか?」
「…うん」
「おぉ、早速喋ってる。頭いいな」
それから一時間軽く日本語を教えると、すぐに日本語を喋り始めた。
「ありがとう」
そう、彼女は言った。
弍章 ある、迷子の話
「これが散歩というやつでございます」
「たのしい」
しばらく雨続きだったが、今日は快晴。彼女が外に行きたいと言っていたので散歩をしてみた。
「あれ、なに?」
指をさした先にあったのは惣菜屋。ちょうど昼だったので食べることにした。
「あつい」
「おいしい」
「あつい」
いろいろな言葉を言いながらコロッケを食べている。喜んでくれてよかった。
「これは芋が入ってるんすよ」
「いも、おいしいね。あ、ねこ」
コロッケは美味い。惣菜の中でもトップレベルの美味さだと思う。何個か家に買って帰るか。
「これ買ってかぇ…」
「…?」
そこには誰もいなかった。まさか、迷子になったんじゃないか…?
それか…
ぜんぶ…
ぼくの…
幻覚…?
「**※**」
どうしよう
まいこになった
ここどこだろ
そういえば
まいごになったらこうばんにいくっていってた
「こうばん」
「どこ」
「あった」
「ごめんなさい」
「まいご」
「お名前をお願いします」
「なまえ」
「フェ」
「こまです」
「住所をお願いします」
「じゅしょ?なに?」
「…えー、では保護者のお名前は」
ほごしゃ
あのひと!
「えっと、あの」
あれ
あのひとのなまえ
しらない
え
え
え
どうすれば
たすけて
たすけて
「⁑⊛⁑*…!」
「いたァァァァ!!!」
「*」
やばい、あの女迷子になりやがった。よく考えたら名前も知らないし、探しようがないんじゃ…
「あ、」
そういえば、交番に行くように教えた気がする…
一か八か行ってみようか、行かないよりわマシなはず。
交番ってどこだよ。スマホも忘れてきたし。もうおしまいだね。
…あれ?ここどこだ?
二人とも迷子。最悪。でも…この道…見覚えが…
『カノンちゃん』
『カノンちゃん、こっち』
あ、
「いたァァァァ!!!」
「あ、あのひと!」
よかった。ちゃんと交番に言ってくれてたんだ。
「保護者の方でよろしいですか?」
「はい、すみません"妹"が」
「いえいえ、よかったです。」
「いもうと…?」
それにしても、まさかここに行き着くなんて。運命というやつなのか。変わらなすぎるだろ道が…
「なまえなになの?」
「…俺は栗山だ、ちゃんと名前を教えておくべきだった。申し訳ない」
「ぼくはこま」
こま、というのか?名前?苗字?そんなことは関係ない。今すぐにここからいなくなりたい。
「すみません。ありがとうございました」
「いえ、お気を付けて」
ドンッ
「ぇ」
赤い体の…何?何が僕の目の前にいるの?人の形なのに、人じゃない?なんだ?この気持ち悪い感じは?
「」
「」
「」
「**※*」
こまが喋ってる。
は?なんで?
赤い体の"何か"が手を上にあげた。何をする気だ?
ゴッ
「ぎゃ」
あれ?壁に背中がついてる。扉の近くにいたはずなのに。背中が熱い。痛い。
「大丈夫ですかッ!?」
痛い。痛い。今まで経験したことがない痛み。
「」
「」
「」
あれ
もしかして
いまからころされる?
「救助要請が交番から来たってことか」
「そういうことになります」
「襲撃でもされたか」
「わかりません」
今年で30年間、刑事として働いているが、交番からの救助要請は初めてだ。不審者か犯罪者が暴れ出したのだろうか。
「総員、構え」
とりあえず中の様子を見んことには…
「なんだこれは…」
「嫌…」
殺される。間違いなく殺される。死にたくねぇ…
「お前が」
「死ね」
ガッ
赤い何かが突然消えた。え?なんで?
…違う。消えたんじゃない。
吹き飛んだんだ。
「」
「」
「」
「」
「」
赤い何かは壁に横たわっていた。壁にはヒビが入っている。よほどの力がなきゃ…え?
「こま!?」
まさかこれ、こまが…ッ
「なあに」
「どおしたの」
こまはいつも通りに無表情で立っている。
「だいじょうぶ」
こまが手を差し伸べる。痛い。背中から血が出ている。
「!!!」
赤い何かがゆっくり立ち上がったのが見える。こまが殺される!
「こッ…」
声が出ない。まずい。こまが殺された後、次は自分だ。死ぬ。しぬ。
足に思いきり力を入れる。立ち上がらないと。みんな死ぬ。のに…
「ゥ」
早く立ち上がれ。早く。死ぬ。早く。早く!!!!!
「ああああああああああああ」
置いてあるパイプ椅子を持ち上げる。大きく振りかぶる。そして…
参章 ある、地球人の話
「おい。立て。」
「午後二時時三十七分、殺人容疑で逮捕する。」
「…ぇ?」
警察がいる。手には血がついてる。なんで?
「あの…何事ですか?」
「何事?お前が殺したんだろ。」
「え」
振り向くとそこには"病院で話を聞いた医者"が頭をぐちゃぐちゃにして倒れていた。これを僕が?
「あ"」
思い出した。赤い何かをパイプ椅子で殴った。赤い何かは笑顔を浮かべた。そのあとは…
…ひとごろし くそやろう おまえのせいで ■■■ちゃんは…
「…なるほどな」
手錠をされ交番を出る。マスコミがたくさんいる。テレビでよく見る光景。
「青い髪の女性がいませんでしたか?」
「黙って歩け。詳しいことは署で話せ。」
「おかえり」
「うん…」
釈放された。交番にあった監視カメラの映像から、医者が僕に暴行をしていたことが判明し、同時それが証拠になって正当防衛が成立した。
問題は"映像には赤い何かは写っていなかった"ことだ。僕が見たあれは何だったのか。
それを聞くために帰ってきた。
なぜ、あの状況で僕が死ななかったのか。
なぜ、こまはあれと会話ができたのか。
なぜ、赤い何かは防犯カメラに映らなかったのか。
「こま…?」
「なに」
「お前は何者なの?」
「…ん」
赤い目が光った。怖い。恐ろしいオーラ。こまは…
「こまは…」
「ちきゅうじんじゃないよ」
「ごめんね」
こまの髪の毛がこっちに飛んでくる。意識が…
「栗山。栗山。栗山。」
「何ッ?」
「やっと話せる。騙しててごめんね。」
暗闇からこまの声が聞こえる。自分の体がない。少ししてから暗闇からこまが出てきた。
「よっ!栗山!」
「こま…?お前…?」
「私は地球人じゃないんだよ。でも、宇宙人でもない。」
何を言っているんだ?
「寄生虫といった方がわかりやすいんじゃない?」
あ?は?
「この体の女、三羽歌楽っていうんだけど…」
「僕がこの子の体を乗っ取ってたっていったら分かる?」
宇宙人?こまが?三羽うたら?って?
「でもまだ体を返すわけにはいかない。」
「ツチノコ捜索合宿、面白そうだね」
合宿のこと?なんで知ってんの?
「一緒にキャンプ行こうよ。」
俺は参加してないよ?
「じゃあ」
「なんで…合宿行くことになったんだ…」
合宿は不参加にしたはずなのに…こまのせいで…
「いいじゃんよ」
「良くない」
宇宙人とキャンプなんて…
「宇宙人好きって話だったけどねぇ?」
「なんで知ってんだよ…」
こまが宇宙人だと知らされてから一週間。慣れというのは恐ろしいもので、何も感じなくなってしまった。医者にもこまの仲間の『バケオ星人』というのが寄生していたらしい。
「お前準備自分でやれよ」
「はいはい。僕は何も持ってかないから。栗山が頑張ってるのをみるだけ」
それまでは言葉も片言だったのに、あの時の会話以来喋り方が流暢になって、性格も少し明るくなった。本当の自分の性格を隠していたらしい。
「明日から五日間楽しもうね」
「ちゃんとツチノコ探してくれよ?」
「い~~~~~よ」
はぁ…
とはいえ、こまとの暮らしもそう長くは続かないだろう…