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プリンセス・クルセイド 第3部「ロイヤル・プリンセス」#3 【フローラ、華のように】 4

「さすがはフローラ姫。いかなる場合でも全力でいらっしゃる」

 水晶玉に映る闘いの様子を見守りながら、ルチルが嘲笑混じりに呟いた。

「ですが普段よりも、どこか感情的に見えますわね。何か……思うことなどあるのでしょうか」

「普段よりも? 知ったような口をきくんじゃない」

 呟きに乗じたイキシアが意見を述べると、ルチルは噛みつくように語気を強めた。

「私たちは、もう3年もまともな会話をしてないんだ。お互いにどんな感じ方でいるかなんて、知るはずもないだろう?」

「……そうですわね。ごめんなさい、ルチル」

 半ば理不尽とも思えるルチルの怒りだったが、イキシアは一も二もなく謝罪した。それでもルチルはフンと鼻を鳴らすと、水晶玉へと視線を落として苛立たしげに口を閉ざした。話し相手を失ったイキシアだったが、手持ち無沙汰に視線を泳がしていると、ジャスティンと目が合った。

「……普段と違うと言えば、貴方もフローラに対してやけに攻撃的でしたわね。どういう風の吹き回しですの?」

「別に。僕はただ……」

 答えながら、ジャスティンは一度言葉を切り、隣に座るキララの目を見た。キララが曖昧に微笑むと、ジャスティンは改めてイキシアに視線を戻した。

「僕はただ、責任とか義務って言葉が、あの場で口にするのは強すぎるって思っただけだよ」

「……そう。まあ、なんでもいいですけど」

 特に感慨もなく会話を終わらせたように見せかけながらも、イキシアはジャスティンから望んでいた言葉を引き出せなかったことを歯痒く思った。だが今は、そちらを気にしているべきではない。そう考えたイキシアは、より差し迫った問題――アンバーのプリンセス・クルセイドに集中するべく、手元の水晶玉へと視線を戻した。

――

「はあっ!」

 上空に飛び上がったアンバーは、剣を振り下ろしながら急降下し、フローラの聖剣を打ち砕こうと試みた。だがフローラが狙いどおりに剣を横に構えた瞬間、その勢いが大きく減じ、アンバーの身体は風に舞う羽毛のように空中に取り残された。

「なっ!?」

 驚くアンバーをよそに、フローラはこの隙に大きく踏み込むと、アンバーの身体を下からかち上げにかかった。

「はあっ!」

「ぐうっ!」

 剣の柄に当たった横薙ぎの一撃は、アンバーの身体を撃ち落とすのに十分な威力であった。いな、それどころか、アンバーは自らが降下してきた軌道を逆に辿るかのように、上空の遥か彼方へと弾き飛ばされた。

「なっ……!?」

 立て続けに起こる尋常ならざる現象の数々に、アンバーは圧倒されていた。身体には痛みをまったく感じないどころか、剣が当たった手応えもさほど劇的なものでもない。それなのに、自分の身体がどこまでも吹き飛ばされていく。そう感じた瞬間、今度は不意に身体が重くなったのを感じた。

「……ハイヤー!」

 その意味を瞬時に感じ取ったアンバーは、自らの斜め上前方に斬撃波を放った。身体は反動で地面へと急降下していったが、激突の寸前になんとか受け身を取り、着地に成功した。片膝を突き、顔を上げると、フローラが遠方の岩場で超然としている姿が見えた。

「冗談じゃない……」

 立ち上がりつつ、アンバーは吐き捨てるように呟いた。この一連の流れは、おそらくフローラの聖剣の能力によって引き起こされたものだろう。先程まで闘っていたインカローズのような、何らかのエレメントの力に違いない。

(そうなると厄介な相手だな。一体どうすれば……)

 沈思黙考する間も、フローラは間合いを詰めてはこなかった。余裕を見せているのか、それとも何か考えがあるのか、ただこちらを見据えるばかりで微動だにしない。アンバーはその姿に甘え、徒歩で距離を詰めていくことにした。やはり何らの動きもないまま、アンバーはフローラと同じ岩場にたどり着いた。

「さっきから、本気を出して闘ってないって感じがするんだけど」

「ああ、それはそうでしょうね」

 対峙したアンバーの問いかけに、フローラはすげなく答えた。

「あなたは私の実力を見せるに――いえ、この闘いにふさわしい存在ではないですから」

「へえ……言ってくれるじゃない」

 挑発的に言葉を返しながら、アンバーは剣を構えた。

「だったら、私だけ本気を出させてもらうからね。言っとくけど、さっきみたいな様子見じゃ済まないよ」

 アンバーの剣に魔力の光が宿ったのを見て、フローラ表情がわずかに険しくなった。それを見て、アンバーは口の端を歪めた。根拠のないハッタリとしては、上々の成果だ。

5へ続く


 

 

 

 

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