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#5魅惑のプリンセス
プリンセス・クルセイド #5 【魅惑のプリンセス】 5
焼きたてのバタートーストの香りが鼻をくすぐる。その誘惑に半ば負けるようにして、アンバーはパンを口に運んだ。じっくり味わうように咀嚼した後、呑み込んでからため息交じりに呟く
「……心配だなあ」
「私達にはどうしようもないことだ。待っているしかないだろう」
テーブル席の向かいに座るメノウが、彼女の呟きに答えた。
「そうそう、腹が減っては食事もできぬってね。じゃんじゃん食べていいからね」
プリンセス・クルセイド #5 【魅惑のプリンセス】 4
自分でも少しうんざりするようなきついアルコールの匂いを発しながら、ラリアは古びた屋敷の廊下に立っていた。
「なんだぁ……ここは」
まだ酒が残っているのか、はたまた酒が足りないのかと、ラリアは頭を振り、ここまでの記憶を辿る。
「あぁ……そうだった。プリンセス・クルセイド? あれをやってるんだったぁ……」
ラリアは虚ろな目で辺りを見回した。赤い絨毯が敷き詰められた広い廊下の脇に、等間隔で
プリンセス・クルセイド #5 【魅惑のプリンセス】 3
突然現れたその女性は、明らかに挙動不審だった。目は焦点がまるで定まらず、瞳が常に宙を泳いでいる。腕はだらんと垂れさがり、足を時折よろけさせては奇妙なステップで姿勢を保つ。端的に言ってしまえば、こうして立っていることがある種の奇跡にすら見えるほどに不安定な格好だ。
「えへへ……なんだぁ、お前。いい年こいて……英雄気取りかぁ?」
舌が上手く回らないのか言葉を繋ぐことができず、息も荒い。しかしそ
プリンセス・クルセイド #5 【魅惑のプリンセス】 2
赤毛の少女の姿をイキシアが捉えた瞬間、すべては手遅れになった。折れたダガーの刃が宙を舞う。メノウはその軌跡を目で追ったあと、対戦者を見据えて静かに手を差しだした。
「いい勝負だった。私が勝てたのは、紙一重の結果に過ぎない」
「あ~……そうかな?」
対戦相手の少女は曖昧に答えながら右手で頭を掻いた。彼女の黒髪のポニーテールが左右に揺れる。左手には、刃が折られたダガーの柄。
「……ま、盛り
プリンセス・クルセイド #5 【魅惑のプリンセス】 1
『敗北は常に尾を引く。いかに気丈に見える人間でも、時には涙に暮れ、ベッドから起き上がれないこともあるだろう。人生とはそういうものだ』
父の蔵書の一つである『剣聖――言葉の剣――』の132ページに記載された名言を横目に見ながら、アンバーはしおりのように挟まっていたメモを取り出した。
『アンバーへ。このまま負けてはいられませんわ! 闘いに行ってきます』
「もう……イキシアったら」
アンバ