妻のカコバナ
夫婦 40代
高校時代からの長い交際を経て、30代を目前に結婚。
妻の男性経験は自分のみ。当然、夫はそう思っていた。
妻もそう公称していた。
夫婦となり幾年月を経たある時。『寝取られ』に興味を持ち始めた夫。
実行までは考えていなかったが、妻にも興味を持たせようと、様々アプローチをする。
「ヨメが他人とするのを?」
「嫉妬しかなくない?」
「私は他人となんて嫌かなぁ。」
ごく普通の妻の反応。
「ホントに興奮するの?」
会話を切り上げようとした時に妻が言った。
何度か勿体つけるような、躊躇うような言葉を口にしながら、妻がある話を始めた。
「私達さ、高校からだからもう20何年でしょ?結婚してからだって、もう15年?」
「私もアナタも異性経験お互いしかない…じゃない?」
「それ、ホントは違うとしたら…興奮するの?」
「○○企業って覚えてる?」
妻の初めての勤め先。
就職難の当時、やっと決まった都内の会社だった。
「社長の弟が専務で、社長の長男が常務とかって同族経営の会社でさ。確か韓国の人だったんだよね。」
「韓国料理店とか貿易の仕事手広くやっててさ。」
「でね、就職できて一年くらい経った頃かな。」
「韓国料理店のマネージャー見習いみたいな業務についたのね。その時に指導してくれた上司がいてね。その人は社長の次男だったかなぁ。」
「その年の夏、暑気払いがあってね。私、飲み慣れないお酒で酔い潰れちゃったんだ。」
日が高くなって目覚めた時、自分の部屋でない事に気づく。
そして自分が裸でいることにも。
隣には上司である指導係の男性が眠っていた。
二日酔いの目眩と頭痛に苛まれつつ、微かな記憶を絞り出す。
二次会のカラオケ…
その後、何人かの同僚とともに上司の家で三次会…
裸でいるという事は、
そういう事なんだろう…
「状況を飲み込み始めたら、背中に氷を付けられたように血の気が引く感じがしたんだけど、反対に変に冷静になってる自分もいてね…」
目を覚ました上司は黙ってコーヒーを淹れた。
「記憶ないふりで通そうと思って。全然覚えてなくて、泊めてもらっちゃってごめんなさい…的なこと言って。」
「その人も何かあった的な事はその時言わなかった気がする。」
裸でいたのに、何もなかったってね…
妻は引き攣った笑顔でそう言った。
「時間が経ってくると、やっぱり色々考えちゃって。悩むっていうか。で、その人ときちんと話しておこうって思って。」
「聞いてみると、寝ちゃった私を残して他の同僚が帰って、その人は私を起こそうとしたのね。」
「私は全然覚えてないけど、酔った私は、どうもその人をアナタ…つまり当時の彼氏と思って、抱きついたり、甘えたりしたみたい…で、そうこうしてるうち…ね。」
妻の記憶はなく上司の証言のみで、実際のところはわからないが、今更どうこう言っても意味のない事だろう。
「事実確認ができたから、私はアナタ(彼氏)がいること言ったの。一夜限りの間違いですって意味でね。」
「本当に知りたいの?そんなこと。」
「その人、二十くらい年上だから、もちろん経験多いんだろうし、まぁ…比べたら上手かった…んじゃないかな。」
「本当にイクの知ったのはその人かな…」
「不思議なんだけど、初めてイクって知ってから、アナタとする時もイクようになったの。気づいた?」
「結局、一度きりってわけはないよね…」
「その人バツイチで、当時は彼女みたいな人がいたのよね。だから、私とそういう事するのは月に一回あるかだったけど。」
「19歳から22歳くらいまでかな。その人が再婚したりがあって、私も業務異動で会う機会も減って。しなくなった感じ。」
「もちろん、アナタにバレないように細心の注意はしてたよ。」
「で、こんな話聞いて、ホントに興奮したの?」
「ま、作り話だけどね。」
と締めくくる妻の笑顔が、少しいつもと違って見えた。