【和訳】韓国の『2022年 国防白書』を読む ~第1章 安保環境①~
今回からは『2022年 国防白書』の第1章(p.8-33)を翻訳していきます。国防白書の概要やダウンロードは概要編をご覧ください。[]内は訳者註です。
第1章 安保環境
第1節 世界安保情勢
<日本語訳>
米・中間の戦略的競争の激化、ロシアによるウクライナ侵攻などの安保[以下安全保障]環境の変化によって国際社会の安全保障の不確実性が拡大している。領土紛争、国家間の懸案などの対立要因による、地域別安全保障脅威が継続しており、感染症、気候変動、サイバー、テロなど、超国家的な安全保障脅威に対応するための国際社会の協調・努力が切実な状況である。
1.国際社会の安保の不確実性の増大(국제사회의 안보 불확실성 증대)
米中間の戦略的競争の激化、ロシアによるウクライナ侵攻など、大国間の力による競争によって、国際社会の安全保障の不確実性が増大している。
<日本語訳>
アメリカは2022年「国家安全保障戦略(NSS: National Security Strategy)」、「国防戦略(NDS: National Defense Strategy)」を通して、中国を「唯一の競争者」であり、「最も重大な戦略的競争者」と規定し、中国に対する全方位的牽制を強化している。また、アメリカは民主主義国家間の連帯を強固にすることを明らかにしつつ、インド・太平洋地域を対外政策において、核心地域として想定している韓国、日本、オーストラリアなどの域内同盟国を中心に協力する意志を披歴している。これに併せて、アメリカは半導体供給網の協力体制を構成し、同盟国間の安定的な半導体の生産と供給を図っている。
<日本語訳>
中国は急激に成長した経済力と軍事力を背景に、台湾海峡、東南中国海[東・南シナ海]などの地域のおいて影響力を強化している。「一帯一路」など既存路線を維持しつつ、地政学的影響力を拡大し、「核心的利益」に対し断固たる対応を基調としている。また、中国はロシアをはじめとした上海協力機構(SCO: Shanghai Cooperation Organization)(注1)加盟国と結束を固めていきつつ、中東・アフリカおよび中南米地域を対象に経済支援、インフラ投資拡大など、親中化政策を通し、国際社会での影響力拡大と自国の経済成長を図っている。
注1) 中国、ロシア、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、ウズベキスタンなどの6か国が、相互協力と域内安全保障増進のため、2001年6月15日に設立した多者[集団]安全保障協力機構
<日本語訳>
2022年2月、ロシアによるウクライナ侵攻によって始まった戦争が長期化するにつれて民間人の死傷者が発生しており、全世界のエネルギー供給と食料供給にも深刻な危機を招いている。アメリカおよびヨーロッパ地域の国家はロシアの脅威に対応し、北大西洋条約機構(NATO: North Atlantic Treaty Organization)を中心に結束を強化しており、ロシアも集団安全保障条約機構(CSTO: Collective Security Treaty Organization)(注2)、上海協力機構(SCO)などを通して安全保障協力を強化するなど陣営間の対立が激化している。
(注2)2002年、ロシア、ベラルーシ、アルメニア、カザフスタン、タジキスタン、キルギスタンなど旧ソ連共和国の6か国が締結した集団安全保障条約
2.地域別の伝統的安全保障脅威の持続(지역별 전통적 안보위협의 지속)
<日本語訳>
米中間の戦略的競争と、ウクライナ戦争に伴う国際社会の不確実性が深刻化している状況において、領土紛争[原語:領有権紛争]、国家間の懸案など対立要因に起因する、地域別の安全保障の脅威が継続している。欧州地域の国家などは、インド・太平洋地域の戦略的価値を再認識し、全体的なインド・太平洋戦略を立案(注3)するなど域内への を拡大させている。また、ロシアのウクライナ侵攻に伴い、自国の戦力強化および北大西洋条約機構(NATO)中心の軍事力再編を推進している。原則を規範とした国際秩序、普遍的価値、航行の自由など、第二次世界大戦以後、維持してきた規範と原則を強調しつつ、韓国・日本・オーストラリア・インド・ASEANとの協力を積極的に推進している。
(注3)フランス(2019年5月)、ドイツ(2020年9月)、オランダ(2020年11月)、イギリス(2021年3月)、EU(2021年9月)、チェコ(2022年9月)
<日本語訳>
東南アジアおよび南西アジア地域においても、安全保障環境を脅かす事件が継続的に発生している。インド・パキスタン間のカシミール地域をめぐる対立が継続しており、2021年2月、ミャンマー軍部による国家非常事態宣言の宣言、2021年8月、アフガニスタンにおけるタリバン政権の復権などによって、情勢の不確実性が継続している。このような状況において各国は自国の利益を優先して経済状況の悪化の解消および民生の安定化を図る[図りたい]一方で、米中間の戦略的競争に際して、実利外交を優先している。
<日本語訳>
中東地域においては、イラン・国連安全保障理事会5か国の常任理事国およびドイツ間のイラン核合意、包括的共同計画(JCPOA: Joint Comprehensive Plan of Action(注4))の復活を目的とした協議が再開されたものの、難航している。また、アメリカの中東地域に対する関与の漸進的縮小、中国とロシアの影響力の拡大、イエメンとシリアの情勢不安の継続、コロナ19[新型コロナウイルス]の長期化に伴う経済状況の悪化などにより、安全保障不安が増大しており、既存の宗派・国家間の協力と競争関係が再編される様相を呈している。
(注4)2015年7月14日、オーストリア・ウィーンにおいて、P5[国連安保理常任理事国]+1(米、中、露、英、仏、独)とイラン間で締結された、イランの核活動の制限とイランへの制裁の解除を包括した合意文書
<日本語訳>
アフリカ地域は、コロナ19[新型コロナウイルス]の長期化、政治勢力間の権力闘争、経済成長の停滞、宗族[部族]間の対立に起因する内戦、暴力的極端主義[過激主義]によるテロが続いており、地域内情勢が依然として不安定な状況である。特に、2020年11月に始まったエチオピア内戦が休戦と再開を繰り返しながら2022年11月、再び劇的に休戦したなか、マリ・ブルキナファソなどのサヘル地域における暴力的過激主義の武装団体などの攻撃など、流血紛争が継続しており、西アフリカ・ギニア湾海域での海賊活動も一部減少傾向を見せているものの、持続的に続いている。
3.非伝統的な安全保障の増加と国際社会の協調努力(비전통적 안보위협 증가와 국제사회 공조 노력)
<日本語訳>
伝統的な政治・軍事紛争が常に存在するなか、感染症、気候変動、サイバー、テロなど非伝統的な安全保障脅威がまた激化している。2019年末に始まった、コロナ19[新型コロナウイルス]の[感染]拡大が長期間継続し、国際社会の経済的・社会的危機を招来しており、海水面上昇、国土地形の変化、異常気候など気候変動は多様な社会的被害を発生させるのみならず、軍事作戦の遂行にも影響を及ぼしている。海抜高度が低いフィジーを始めとする太平洋島嶼国は、気候変動を国家の存立と安全保障に直結する問題として認識し、軍財産[資源・リソース]を気候変動対応に積極的に投入している。また、北韓のグローバル暗号貨幣[暗号資産]市場に対するサイバー攻撃、国際ハッカー組織のランサムウェアの流布[攻撃・拡散]とDDoS(DDoS: Distributed Denial of Service)攻撃など、各種サイバー脅威による社会的混乱も増加している。
<日本語訳>
このような、非伝統的な安全保障脅威は個別の国家や一部地域の努力によって解決することは出来ないという認識のもと、世界各国は共通の危機を克服するため、国際協調と相互協力を強化している。
<日本語訳>
国際社会は、2022年11月に開催された、G20首脳会議とASEAN+3首脳会議、アジア太平洋経済協力体(APEC: Asia-Pacific Economic Cooperation)首脳会議を通して、気候変動とコロナ19[新型コロナウイルス]などの感染症対応、食料およびエネルギー市場の安定[化]努力などを通して国際機構と協力し、努力することを決議した。同月開催された、第27次国連気候変動枠組条約締約国会議(COP27: Conference Of the Parties 27)においては、温室効果ガス排出量減少に向けた即刻的[即時の]で、迅速で持続可能な措置の内容を含めた最終宣言文[合意文]を発表した。
<日本語訳>
2022年6月、北大西洋条約機構(NATO)は、首脳会議を通して、2022(新)戦略概念(New Strategic Concept)を採択し、サイバー脅威を、今後NATOが対応していかなければならない、主要な安全保障脅威として提起した。同じ年の11月、ASEAN拡大国防長官[相]会議(ADMM-Plus: ASEAN Defense Ministers Meeting Plus)内の、サイバー安全保障専門家会合(Experts’ Working Group on Cyber Security)において、加盟国はハッキングなどのサイバー脅威に対し、共同で対応するサイバー国際遠隔訓練を初めて実施した。その他にも、国際社会はサイバー空間総会、国連政府専門家会合(GGE: Group of Governmental Experts)、ソウル安保対話(SDD:Seoul Defense Dialogue)サイバーウォーキンググループなどを通して、サイバー安全保障脅威に対する協力を継続している。
<日本語訳>
併せて、大規模災害が発生した場合、救助および復旧支援のために、ASEAN地域(安全保障)フォーラム(ARF: ASEAN Regional Forum)、地域災害支援協力センター[地域人道支援・災害救援調整センター]、国際連合人道問題調整事務所(UNOCHA: UN Office for the Coordination of Humanitarian Affairs)傘下の地域協議体など、多国間協議体を活用し、国際社会間の協力モデルを継続して協議している。2022年11月、ASEAN拡大長官[大臣][これが何の会議を指すのかが不明。ASEAN+3首脳会議か?]の加盟国は、人道的支援・災害救援分科会を通じて、今後開催される図上および機動訓練(TTX/FTX: Table Top Exercise/Field Training Exercise)の実施と、域内災害対応に関する協力モデルについて議論した。
第2節 インド・太平洋地域安保情勢
次回更新です。
第3節 北韓情勢および軍事的脅威
更新をお待ちください。
参考
ASEAN日本政府代表部HP
https://www.asean.emb-japan.go.jp/itpr_ja/11_000001_00022.html