メレンゲを待ちわびて。
エルボルソンに着いた初めのあさ水道が止まって、宿の主人と彼と3人、おそろいのぼさぼさ頭で復旧作業に励んだ。
人の手のほんの少しだけ加わった場所に、世界中から人が集まる。ニュージーランドもパタゴニアも田舎の在り方が本当にうまい。うまいというのか、あまり頑張って余計なことをしていないというのが的確かも。寿命の来るコンクリートにお金をかけず、そこにずっとあるものを大切に維持して人を呼んでいる。人が来ると活気づくし、お金が入るから野山もケアできる。若い移住者も自ずと増えるし、個人事業主が多くなれば国や企業に媚びない町づくりができる。
永住者を増やすことにこだわる必要がないことは世界のいろんな田舎町が証明してくれている。その場所が好きで、ひとときでもそこにいようと思う人がアイディアをもって来る。活気のある町って人の出入りがちゃんとあって、自ずと癒着や馴れ合いのチャンスも少ない。自立しつつ寄り添える感覚が心地いい。
温かいシャワーは身に染みるしインターネットは新しい田舎暮らしの在り方を提案してくれる。そうゆうものを敢えて拒む理由はないけれど、おもしろいことに多くの人が、時々いろいろ手放したくなって山へ出かけたり断捨離してみたりするわけだから、土手をコンクリートで固めなくても、ケーブルカーを繋げなくても、国立競技場を建て直してオリンピックを誘致しなくとも、山や川をきれいに保ってちゃんと宣伝すれば、心配なしにいろんなところから人は来る。原発なんて入る余地もない。まーったくない。
その日の夜には水道サービスがもどって、私たちは順番に温かいシャワーを浴びた。夕食で残った卵の白身があったから、乾かしてあったローズマリーとラベンダーを少し入れてメレンゲにする。ガスオーブンは火加減が難しい。ドアを少し開けて焼いていると甘い香りが漂って、ソファで3人ワインを飲みながらメレンゲが待ち遠しい。