初舞台
私は占いが好きだ。
今年は12年に一度の最高の年だと書いてあった。
そっかぁ!とホクホクした気分で浮かれていた。
けれど、私は学んだ事がある。
どんなに運が良くても、行動しないとチャンスは訪れない。
3月。
付き合っている人が出る朗読劇を観に静岡に向かった。
3年前、居ても立っても居られないぐらい舞台に立つ事に憧れていた。
けれど、コロナ禍になり舞台から離れた。
私はとても不安症で心配症で、極端に人混みに行く事を恐れた。
その間にあんなに憧れていた役者、演者への思いは小さく萎んでいた。
そんな自分に気付き、驚いたしスマホの見過ぎで頭おかしくなったかなと不安になったりもした。それぐらい、ぼーっと時間を無駄に過ごす日々を送っていた。
そんな日々から抜け出し、久しぶりにお芝居に触れるため電車に乗った。
会場に着くと、音楽隊が演奏していた。
会場にはお客さんや出店もあって、こんな感じなのかと感嘆した。
椅子に座り鑑賞した。
音楽隊が終わり、舞台にマイクが並んだ。
黒い服を着た人達が準備を始めた。
照明が変わる。
朗読劇が始まった。
……あぁ、やっぱりいいなと思った。
やっぱり舞台っていいな。
演じるっていいな。表現するっていいな。
明るい舞台に立つ彼らに近づきたいと思った。
彼に連絡した。
「よかったら、私も加えてもらえないかな。」
そこから、ミラミラのみんなとの活動が始まった。
快く受け入れてもらえて嬉しかった。
私が参加してすぐぐらいの頃に、10月に去年も参加した浜松で行われる劇突に今年も参加する事が決まった。
去年、私はその舞台を観に行かなかった…。
彼氏の初舞台だったのに……最低だ。
一からの作品作り。
いざ脚本家を決める際、私はやりたいの一言が言えなかった。
夢への一歩を…踏み出せなかった。
何のために加わったんだと、その時は自分に落胆した。
そして、何度も脚本を書いているメンバーが今回も書く事になった。
今思えば、新参者にいきなり大切な脚本を任せてもらえるかわからなかったし、結果的にこれでよかったと思う。
その後、役者とスタッフどっちをやりたいか聞かれて、どちらかと言えばスタッフをやりたいと答えた。
役者と答えていたら、今の自分がどうなっていたかわからないけど、案外新しい道が開けていたかもしれないけど、これに関しては後悔していない。
私はもともと、舞台裏に行ける人に憧れていた。裏方の人間かっこいい!と思っていた。
それが色々あって役者を目指したけれど、芝居をやるのはとても面白いし、脚光を浴びたいと思ったけど、でも、やっぱり裏方かっこいいで今は落ち着いている。
無事スタッフとしてのスタートを切ったが、私はふと我に返った。
私、スタッフやった事なくない?
音響、照明、アシスタント……全くの未経験だ。
すいません、やりたいと言ったけれど、私全く戦力になりません…と心の中で懺悔した。
演出家も含め、3人体制のスタッフで進める事になった。
同じくスタッフをやるメンバーは
決断力、経験値、発言力、スケジュール管理力、メンバーのみんなに対する理解力…
それらを持ち合わせている人達だった。
少しでも学ばねばと思った。
しかし、さぁお前がやれと言われたら、今現在もできる自信は……ない。
台本が上がり、オーディションを行い、稽古日程を決め、役が決まったら役への深掘りも個人個人と話し合う時間を設けた。
それを経ての初稽古。
久しぶりだな、稽古。今回は役者じゃないし。なんて楽観的に稽古場に向かった。
まだまだみんな手探り。それでも頑張って台本を手放して演じる。
私は、演出家でもないのに偉そうに言いたい事を言った。
言いたくなってしまうのを止められない…子供なのだ。
そんな稽古が何度か続いたある日。
その日稽古場に向かうと、なんだか雰囲気が違った。
みんな床に座り話し合っている。
おや?と思ってそこに加わった。
話は思わぬ方向に進んでいた。
脚本を変える。
本番まで…
あと1ヶ月。
驚いた。
けれど、また言いたい事を止められない子供が顔を出し、気づいたらホワイトボードの前に立ち、率先して新しいストーリーを考えていた。
後々、この行動に対して後悔する事になる。
私は、脚本家でないのだ。
脚本を書くメンバーを指導権を握ってもらうべきだった。
脚本を書いてくれた人は、神様みたいに優しくて良い人だ。
私は、書きたくなると書いてしまう子供なので、私なりの脚本を書いたりもしてしまって、それを読んでみんなに共有してくれたり、今回の書き直しも前向きなに捉えてくれていた。
……と思っていたけれど、心のうちを知った時、私は激しく後悔した。
私はやっぱり子供だった。
1ヶ月を切ったとき、新しい脚本が仕上がった。
みんなで意見を出し合う時間も設けて、キャラクター設定もガラッと変わったものになった。
本番に間に合わせるために稽古時間も週2回に増やした。
果たして間に合うのか……どうしてもそう思ってしまった。
そんな思いを拭いきれない中、一度、みんなでご飯を食べに行った。
メンバーそれぞれの思いをそこで話した。
演出家であるメンバーの思いもそこで聞いた。
あぁ、私はほんとにただいるだけの存在だったんだなと気づいた。
半年前に戻りたいと強く思った。
けれど、時は戻らない。
やるしかない。間に合わせる。
みんな、脚本も向き合い役と向き合い、時に自由に演じてくれた。
日に日に本番が迫る中、それでも稽古場にはいつも笑顔が絶えなかった。
ミラミラは、みんな同じ立場で、良くも悪くも突出したリーダーがいない。
リーダーがいればまた違ったかもしれないけれど、私はそれがミラミラらしくて良いと思った。
メンバーの1人が同じくnoteに綴っていたが、仕事の辛さやストレスを稽古場に行ったら忘れられる。気持ちが晴れる。
共通の話題があり、趣味があり、目指すものが同じ同士に、大人になってから出会い、作品を作り、笑い合える。
こんな事、奇跡だ。
私は奇跡の端っこに座らせてもらえてる。
小道具をかき集め、衣装を決め、通しで何度も稽古が出来るようになった。
形になってきた。
みんな凄い。
演技プランを色々試し、より良いものを追求していった。
迫真の演技。その人にしか演じられない。同じ役でも変わるものだなと感嘆した。
私は稽古に参加しつつも、座っているだけの時間を過ごしいた。
下手に口を出さない。学んだ。
そんな姿を見て、神様がお前もなんかやらんかい!アホ!と試練を与えた。
初めての音響……。
タブレットの操作の仕方を教わった。
これをやったら、このボタン押して、ここを下げて、ボタン押して……んだぁ!
私不器用なんだよぉぉ!すいませぇぇぇん!!
と叫びたかったが…堪えた。
あれ?おかしい。
みんな本番に向かって仕上がってきてるのに、私は自分の不器用さを実感するに留まっている。
まずい、まずいまずいまずい!!
そして、そんな不安が的中してか、最大の危機が訪れた。
本番前日。
本番会場での場当たり、音響チェック。
再生ボタンを押す。
音が……スピーカーから流れない。
プロの音響スタッフさんが言った。
「外部への出力が出来るか確認しましたか?」
……確認していない。
考えられる原因としては、繋いだカードがiPadに対応していないという事だった。
しかし、これ以外コードを持っていない。
貴重な場当たりの時間をストップさせて、演者のメンバーもこちらに集まってきた。
まずい、どうしよう…。
しかし、奇跡が起きた。
照明スタッフさんの持っていたコートがギリギリ対応したのだ。
最初の音が低くなるというデメリットはあったが、そんなの気にしてられない!
スピーカーから流れただけで、心の底から感謝しかなかった。
やっと本格的に始まった場当たり。
初めて触るフェーダー。
機械装置にいっぱいいっぱいで舞台を見る余裕がない。
ここは役者やスタッフが舞台からはけたら音を下げる。
ここら暗転と同時に音を下げる。
ここは音量はこのぐらい。
ここは台詞のこのタイミングで流す。
次はこの曲。
再生ボタンを押したらここを下げて、次は…。
全く余裕がなかった。
まずい…明日本番なのに。
不安しかなかった。
その日の夜、彼に付き合ってもらい練習した。
なぜか彼の方が把握する速度が早く、ここはこうでしょと教わる事になった。
なぜだよぉ!どうせ私は脳みそツルツルだよぉ!
不安を抱えたまま迎えた、本番。
出番前、1人で扉の前に立つ。
始まってしまう…。
前の人の出番が終わり、機械をセッティングする。
最初に流す曲を用意。
舞台が暗転し、演者が舞台の立ち位置につく。
よし、と思い再生ボタンを押した。
すると、目の前のiPadから大音量の音が流れた。
えっ…
まずい!と思い、すぐに曲を止めフェーダーを下げた。
なぜだなぜだなぜだ…
やばいこのままスピーカーから流れなかったら、音無しで舞台をやるのから、iPadから音を流すわけにはいかないよな…
頭の中で一瞬にして色々な思考が巡った。
パニクル私の横で、プロのスタッフさんが言った。
「コートがちゃんと刺さってないです。」
えっ……
触るとコードがほとんど刺さっていない状態だった。
嘘だ……
ぐっと奥まで刺し、iPadの表示が変わったのがわかった。
最悪だ……
よりによって本番。
初回。
初っ端でトチるなんて……。
絶対、演者は出鼻くじかれた。
最低だ……最低だ……
なんでスタッフが演者の足引っ張てるんだよ!!
馬鹿じゃないの!!
泥になって溶けてしまいたかった…。
フェーダーを下げる手が震えた。
私の動揺を悟ってか、隣に座ってくれていた演出家のメンバーが、丁寧に次の曲への切り替えなどアシストしてくれた。
申し訳ない…。
その後は、なんとか大きな失敗もなく終わったが、私の性格上簡単に立ち直れないでいた…。
それでも立ち直らないと。
本当はこういう考えはよくないけれど、後2回ある、と自分に言い聞かせた。
3回公演全ての舞台に出て、出ずっぱりでセリフも多い彼に弱音を言いまくり、励ましてもらった。
演出家のメンバーと彼で、はたから見たら、高身長男性に恐喝されているチビという構図で励ましてもらった。
見た目はともかくとしてありがたかった…。
もう失敗は許されない。
そう思って挑んだ2回目の公演。
なんとか無事終わった……。
その後、その日朝食以来の食事を取った。
最終日。
最後の公演。
緊張は取れないまま…。
大きな失敗なく終わった。
終わった時足が震えた。
終わった……。
控え室に戻った時、ちょっと泣きそうになった。
なんで本番前からちょっと頑張ったぐらいの私が泣くんだよと思い引っ込めた。
一つ言わせて欲しい。
演出家が選曲した曲のセンスは最高だった。
抜群だった。
なかなか言う機会がなかったのでここで言った。
それから、3日目、眠たくて、せっかく持ってきてくれたボードゲームの参加を断ってしまった事、感じ悪かったかなと深く反省した…。
ぜひ、今度やる機会があったら、よかったら参加させてください。
ルールは何となく把握しております。
すいませんでした。
終わった後、次から次へと、LINEグループのアルバムに写真が追加された。
どの写真もみんな楽しそうで、個性が溢れていて……ミラミラのメンバーってやっぱり最高だなと思った。
そんなグループに参加できて幸せだ。
失敗したし、貢献度は低かったけれど…
それでもみんなと舞台を作れてよかった!
図らずも、あいさつの際、舞台の中央に立ちライトを浴びた。
みんなこんな眩しい中演技してたのかと思った。
私はこんなライトを浴びなくても良いけれど、ライトを浴びる役者を輝かせる脚本を書きたい。
拍手に包まれる役者の笑顔を1番後ろで見たい。
いつか、この素晴らしいミラミラのメンバーみんなをより輝かせる脚本を書きたい。
私の夢だ。
今年は12年に一度の最高の年らしい。
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