トヨタ生産システムと映画「ゴジラ-1.0」の共通点を考える〜戦略的読書日記を読んで〜
こんばんは。コウイチです。本日のテーマは「トヨタ生産システムと映画「ゴジラ-1.0」の共通点を考える〜戦略的読書日記を読んで〜」です。
アカデミー賞で山崎貴監督の「ゴジラ-1.0」がアジア映画で初めて視覚効果賞を獲ったことが話題になりました。私はこの映画について監督が話されていたことで面白いと思ったことがあります。それは、低予算で「ゴジラ-1.0」を作ったことに触れ、「お金があればあるほど考えることをやめてしまう。制約の中で、どうすればいいか考えるときに面白い方法やカットが生まれる」と話されていたことです。
このインタビューを見て、「戦略読書日記 (楠木 建 著)」という本の第16章で学んだ「トヨタ生産システム」を思い出しました。今では世界に冠たる「トヨタ生産システム」も、生まれた当時は様々な制限を受け、やむを得ない事情の中から「怪我の功名」として生まれたものだったと聞くと、とても意外ではないでしょうか。
ということで今回はトヨタ生産システムが生まれた背景、そして本書で書かれているトヨタの競争力の正体について書いていきたいと思います。
1,トヨタ生産システムとは
トヨタ生産システムとは、トヨタのホームページでは下記のように記してあります。
この記述から見ると、トヨタ生産方式は「自働化」、「ジャストインタイム」という二つの考え方により確立されたということができます。ここでは「ジャストインタイム」について詳細を見てみましょう。
ジャストインタイム(JIT)は、「必要なものを、必要な時に、必要な数だけ」生産する方式です。自動車工場の生産ラインを思い浮かべてください。原材料から最終製品までをベルトコンベアで繋げた生産ラインで同一の製品を大量に生産すればコストを抑えつつ質が高い製品を製造できると考えられます。実際、これは後で書きますように、フォード方式という生産方式で、トヨタもこれが理想の生産方式と考えていたようです。
しかしこの方式は、効率が良いことの裏返しで、同一の製品を作りすぎ、過剰在庫に陥りやすい、という欠点がありました。一方、ジャストインタイムでは、後の工程で使った分だけ前の工程から引き取ります。後工程から引き取るため、作りすぎを減らし、生産リードタイムを短縮することができます。まさに「必要なものを、必要なときに、必要な分だけ」供給するという考え方です。なお、かの有名な「かんばん方式」とは、後工程引取方式を実現するための情報伝達の手法です。
2,トヨタ生産システムが生まれた当時の背景
本書ではトヨタ生産システムが生まれた1950-70年頃のトヨタには内部と外部の両面での制限があったことが述べられています。
内部要因
日本では経済が急激な成長により、労働力のインプットに量的な制限がありました。またこの頃のトヨタには資金が不足しており、新規の設備投資をする資金的な余裕がありませんでした。外部要因
当時の日本はアメリカと比較して、まだ所得水準も低く、道路も整備されていませんでした。そのため、日本の自動車市場はまだまだ小さく、さらにいきなり細分化されたニーズに対応するためのモデル多様化を強いられていました。
3,競争力獲得に至るまで
ありとあらゆる制限を受けていた当時のトヨタにとって、いかに生産プロセスからムダを取り除くかが当初からの課題でした。1950年代、アメリカの自動車工事を繰り返し見学に行っていた当時のトヨタにとっては、原材料から最終製品までをベルトコンベアで繋げた生産ラインが理想でした。しかし当時の生産量の少なさや品種替えの多さから、コンベア方式の固定化された生産を導入するよりも、変化する需要に対応するためラインの柔軟性を優先するしかなかったのです。そこで生まれたのが後工程引き取り方式です。後工程で必要とする数量だけを前工程で生産して、順次納入する。これがジャストインタイムの「必要なものを、必要な時に、必要な数だけ」生産する考え方につながったのです。
そしてこのようにして偶然生まれた問題の解を「怪我の功名」に終わらせず、経営の強い意志によって組織に定着、改良、普及させ、一つ一つを組織能力に転換していく。これこそがトヨタの競争力の正体であると書かれています。そしてシステムを創発させ進化させる源泉は「日頃の心構え」だと結論づけられています。
まとめ
今回、映画「ゴジラ-1.0」の監督インタビューから想起されたトヨタの生産システムについて書きました。制限を乗り越えた先に得られた解決システムをさらに組織的能力までに磨き上げた経営者の意志の強さがひしひしと伝わる内容でした。最後の結論は著者も書いている通り、一見シンプルすぎるように見えますが、長い年月でひたすらに磨かれた能力は、ちょっとやそっとでは真似できない独自の強みになりうるのだと思いました。
なお、この記事は日本の映画制作を取り巻く状況(低予算で制作せざるを得ない状況)を肯定する意図はございませんのでご了承ください。
お読みいただき、ありがとうございました。