夢の仕組み
夢の仕組みを知りたい。彼女はそう言っていた。
だから目覚めないのだろうか。今も夢の仕組みを夢の中で追いかけているのかもしれない。
白い病室でそんな想像を働かせる。すぐ目の前のベッドで彼女は眠っている。もう一と月も眠りっぱなしなのでずいぶんと痩せたようだ。
それでも彼女はたまに寝言を言う。
「ふむふむ、なるほど」
「そうだったのか!」
けっこう元気そうだ。夢の仕組みの解明も進んでいるのかもしれない。
もしすべてがわかったときは、彼女は再び目を覚ますに違いない。そんな予感がある。
そんなある日、彼女が話しかけてきた。眠ったままだ。
「夢の仕組みを見つけたよ」
最初はいつもの寝言かと思ったのだけど、違った。彼女は閉じていた瞼をするりと開いてぼくの方へと向けたのだ。
でもその目玉は仕事中の洗濯機のようにぐるぐると回っていて、何も見てはいなかった。
「目が、回ってるよ?」
他に言葉が見つからなかったのだけど、口にしてみるとものすごくマヌケな響きだった。でも彼女は笑わず、
「そう、これが夢の仕組み」
真面目にそう答えた。
「子供のころにトンボを捕まえたことがある? トンボの目の前で指をぐるぐる回すでしょう。夢はあれ。目が回っているときに見えるものなの」
冗談にしか聞こえなかったけれど、眠っている人間が冗談を言うはずがない。それに実際、彼女の目玉はぐるぐる回っているのだ。
その目をじっと覗き込んでいたら、ぼくも目が回ってきてしまった。やがてそれはどんどんひどくなり、立っていられなくなったぼくは彼女のベッドに倒れ込んだ。
白い天井がぐるぐる回っている。そしてその手前には、久しぶりに見る起きている彼女の笑顔があってぼくを覗き込んでいた。
ああ、本当にこれが夢の仕組みなんだと感動しながら、
「夢の仕組みを見つけたよ」
ぼくは彼女にそう告げていた。