【スエズ運河 座礁事故】 (離礁後確定版)何がヤバイのか?←まとめました
3/23朝、スエズ運河で大型コンテナ船「Ever Given」が座礁しました。
そして3/29午後、離礁に成功し、6日ぶりに運河の通航が再開されました。
今回の事故の情報を時系列でまとめ、何がヤバイのか解説しました。(※3/30最新情報に更新)
◼️本船「Ever Given」(エバーギブン)について
・船籍:パナマ籍 ←(下で解説)
・船主(所有):正栄汽船(日本)
・運航:長栄海運(エバーグリーン)(台湾)
・船舶管理:ベルンハルト・シュルテ・シップマネジメント(BSM)(ドイツ)
・全長:400メートル、全幅:59メートル
・2万TEU積載可能な大型コンテナ船(今回は、ほぼ満載に近いが、過積載ではない)
・今治造船(日本)が2018年に竣工(正栄汽船は今治造船のグループ会社)
※本船は「エバーグリーン」が「正栄汽船」から用船し運航。(定期用船契約(Time Charter) ←(下で解説)
【なんで船籍がパナマ籍?】
船も人間と同じように国籍があります。人間と同じように船もその登録した国籍の法律に則らなければなりません。
そして船の国籍は日本で竣工したとしても他国で登録することができます。
↓そのため
より条件の良い国に便宜的に船籍を移すことが可能となります。
パナマは条件が日本よりも緩やかなことが多いためパナマ籍が多いといわれています。
【パナマ籍の条件の具体的な例】
・初期の船舶登録料が安く、手続きが簡易的なため、容易にできる。
・賃金が安い外国人船員を乗せることができる。
(日本人船員の平均月給約60万に対して外国人であれば約20万で済む←今回も船員全員インド人ですね)
(日本船籍の場合:船長(機関長)は2人以上日本人でなければならない。←パナマ船籍であれば国籍は問われない)
・税金面でも優遇されている。
・為替リスクを低減できる。←いちいち円に換える必要がない。
【用船とは?】
船舶を貸与すること。
このケースだと正栄汽船(日本)がエバーグリーン(台湾)に船舶を貸与している。
【用船契約】3種類
・裸用船契約
乗組員のつかない船舶そのものの貸し借りを内容とする契約のこと。保険やメンテナンスは運用者側が責任を持つ。
・定期用船契約
船長その他の乗組員付きで一定の期間船舶を借り受ける契約のこと。保険やメンテナンスは船舶所有者側が責任を持つ。
・航海用船契約
特定の区域間の貨物輸送を目的とした運送契約のこと。
↓
今回のケースは「定期用船契約」なので
正栄汽船(日本)がエバーグリーン(台湾)に船舶だけでなく船長その他乗組員付きで貸与している。
◼️3/23朝 座礁事故
・紅海からスエズ運河を北上して航行中、紅海側の入り口に近い地点で座礁した。
(具体的に:船首が運河の浅瀬の砂地に底触し、乗り揚げてしまった。)
・インド人船員25人が乗り組んでおり、アジア―欧州航路でロッテルダムに向けて航行中だった。
・強風により航路から逸脱し、砂嵐による視界の欠如によって座礁したとの見解。(←3/27運河庁によると「技術的または人的なミスだった可能性もある」と話した。)
・船の乗組員25人(インド人)にケガはなく、貨物への影響や油の流出などもない。
・汚染、貨物の損傷などの報告はなく、機械、エンジンの故障もない。
◼️3/23午後
・タグボート2隻が到着し、離礁にトライしたが残念ながら成功せず。
◼️3/24時点
※写真のショベルカーは、日本企業「コマツ」のショベルカー!!砂を掘り出しています。日本企業の重機が世界で活躍しています。
画像引用:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR25E7A0V20C21A3000000/
・タグボート合計9隻で離礁作業を行ったが状況は変わらず、クレーンバージや浚渫作業船を2隻投入し、浚渫作業を行った。
浚渫(しゅんせつ)作業=水底をさらって土砂などを取り除くこと。
◼️3/25時点
・150隻超の船舶が足止めされ待機。
◼️3/26時点
複数タグボートで押してますね。
画像引用:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR24D9E0U1A320C2000000/
・200隻超の船舶が足止めされ待機。
・船首部付近の土砂を取り除く作業を続け、満潮時にタグボート10隻で離礁を試みたが、同日時点では成功に至らなかった。
・正栄汽船は今治市で、記者会見を開催。現地が満潮を迎える「日本時間27日夜の離礁を目指す」計画を明らかにした。
◼️3/27時点
※写真は、コンテナ船が自力で抜け出そうとスクリューを回転させ水しぶきが上がっています。
画像引用:https://www.youtube.com/watch?v=ILqgS-DB3bk
・250隻超の船舶が足止めされ待機。
・3/27時点で岸に接した船首付近の土砂2万トンが除去された。
・スエズ運河庁は、27日の会見で、船を安定させるため船底に入れている9000トンのバラスト水を抜いて、船を動きやすくしたことなどを説明。
・27日夜、船首周辺の土砂撤去を完了し、満潮をむかえたタイミングで、タグボートを14隻まで増やし作業を行なった。
↓しかし
船を浮かすことが出来ず、動かすことが出来なかった。
↓
今後、満潮の度に試みるとのことですが船を動かせる具体的な時期の見通しは立っていない。とのこと。
・タグボートが小さすぎるのでもっと大きな同等級の船で押したり引いたりできないの?
→約200M幅しかない通路のため、同等級の大きさの船をつけることは難しい。
・向こう岸から車で引っ張れないの?
→船の前方だけでなく後方もギリギリの位置のため単純に引っ張ることが出来ない。
単純に引っ張ると今度は後方が座礁してしまう危険がある。
ましてや船の後方にあるスクリューが砂に埋まったら、自力走行できなくなりさらに難航するでしょう。
◼️3/28時点
・320隻超の船舶が足止めされ待機。
◼️3/29時点
・420隻超の船舶が足止めされ待機。
・朝、タグボート11隻によるけん引作業で一部離礁し、着底していた船首部が運河中央寄りに約20メートル移動した。
この時点では完全離礁には至っていない。
・タグボートの付け替えを目的に離礁作業は一時中断され、タグボートの付け替えを行った上で、同日昼ごろの満潮とその後の引き潮のタイミングに向けて作業を再開した。
・29日午後:離礁に成功。
座礁から6日ぶりに運河の通航が再開されました。
※離礁時の映像がありました。喜びの汽笛が鳴り響いています。
(映画化決定ですかね^^)
◼️今後の動向(3/30時点)
・座礁したコンテナ船は、運河の中ほどにある湖で待機。
そこで船体自体に損傷はないかなど検査を受けることになっています。
・待機していた船などが続々と航行。
・スエズ運河庁は、通常の状態に戻るには数日かかるとしています。
・スエズ運河庁は記者会見で「今後、調査が行われる。補償やその責任は調査の中で明らかになるだろう」と述べて、今後、事故原因の究明に向けた調査が進められるという見通しを示しました。
・なぜ通常の状態に戻るのには数日かかるのか?
今回の場合、待機していた船が数百隻ありますが、この数百隻が一気に動き出すこととなります。
スエズ運河を一度にまとめて通れるはずがなく1隻ずつ通航することとなります。
そして欧州航路というのは、どの船会社も似ており、次の寄港する港が同じだったりします。次の港に数百隻いっきに押し寄せたところで処理できるはずがありません。この数百隻が少しずつ枝分かれしていき徐々に遅延が解消していくイメージです。
(高速道路の渋滞と似ていますね。)
(下記は船社ONEのFP1って航路)
◼️船主「正栄汽船」の責任
(本社写真)
画像引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/正栄汽船
今回のケースは「定期用船契約」なので、原則、船主(所有者)である「正栄汽船」が保険やメンテナンスの責任を持つ。
そのため、救助に掛かった費用や船の修繕費用は、「正栄汽船」が負担する可能性が高い。
(一般的には船主が契約する船舶保険でカバーすることができる。)
↓しかし
貨物の損害に関するカーゴクレームは、「ヘーグ・ヴィスビー・ルール」に基づき、「正栄汽船」は免責される。
さらに今回の事故により他船に生じた遅延による損失は、「ヘーグ・ヴィスビー・ルール」に基づき「正栄汽船」の賠償責任は負わないとみなされそう。
「ヘーグ・ヴィスビー・ルール」とは?
貿易に関する国際条約で、運送会社の責任について定めた条約です。
B/L約款に記載されている内容と言った方が分かりやすいかもしれません。
日本ではこの「ヘーグ・ヴィスビー・ルール」を基盤として「国際海上物品運送法」が規定されております。
◼️スエズ運河情報
画像引用:https://www.cruiseplanet.co.jp/tour?id=9991
・最も狭い川幅は約200メートル
・通行料は平均約30万ドル(3260万円)
・スエズ運河庁によると、19年の船種別同運河通航量は、コンテナ船が5375隻で最多。タンカーが5163隻、バルカーが4200隻で続き、この3船種で全体の8割弱を占める。年間1万8000隻超の船舶が航行し、1日の平均航行隻数は約50隻。
・世界の海上貿易の約12%を占める航路。
・ロイズリストの評価に基づくと1日あたり約96億ドル(約1兆円)相当の海上交通が停止している。とのこと。
↑いかに今回の事故によって与える影響が甚大だということが分かります。
◼️別ルートの検討?
●「喜望峰ルート」
スエズ運河を経由しない場合、南アフリカ・喜望峰経由のルートがあるが?
・スエズ経由と比較して10日程度航海時間がかかってしまう。
・その分距離を走ることになるので燃料がかかり、結果的に運賃が4割ほど高くなってしまう。
●新注目!「北極海ルート」
画像引用:https://media.monex.co.jp/articles/-/7838
ロシアは25日、「代替ルート」として北極海航路をアピールしました。
同航路を利用すれば、アジアまでの航海日数を従来のスエズ運河航路よりも短縮できるとのこと。
通行料もかかりません。
↓しかし
現在この航路は限定的な利用にとどまっています。
整備が十分でなく、氷の海を渡っての航海となるため氷に耐えうる強固な船体が必要なためリスクがあるのでしょう。
リスクが高いとみなされているため海上保険もその分高くなる傾向があるみたいです。
今後の航路整備に期待しましょう。
※現時点では通行料も取られないみたいですが、ロシアは北極海航路の開発に多額の投資を行ってきております。
航路が増えれば通行料を取ることが容易に予想できます。
◼️通航できない日が続いたら、何がヤバかったのか?
画像引用:https://www.sankei.com/photo/daily/news/210325/dly2103250006-n1.html
・迂回(うかい)を余儀なくされる船が増え、欧州航路のスケジュールがさらに遅延する。
↑実際に航路を変更した船が複数あるとのこと。
(マースクとMSCによる2Mは28日までに、スエズ運河を経由する予定のコンテナ船15隻を喜望峰経由に変更したことを明らかにした。)
(ONEなど29日までに、欧州サービス3隻と北米東岸サービス3隻の計6隻を喜望峰経由にルート変更することを決めた。)
・原油の先物価格が大幅に上昇。(コンテナ船の座礁で、原油運搬にも今後支障が出るとの懸念が広がり、原油が買われた)
→ガソリンの価格にも影響を与える。
→プラスチックなど石油を使う幅広い商品への影響を与える。
・天然ガス価格が上昇する可能性がある。
・食料品のサプライチェーンに影響を与え価格が上昇する可能性がある。
・日本を含むアジア諸国にも大ダメージを受ける。
スエズ運河は世界中の船が航行しており、さまざまな物資を運ぶための重要な通路となっています。
このまま船舶が動かなければ、ヨーロッパだけでなく、日本を含むアジア諸国にも大ダメージを受けます。
→これは日本へ入ってくる輸入貨物に影響を与えることとなるため、私たちの暮らしにも影響を与えるということです。(食品や自動車や家具など入ってこない。←物価高騰につながる)
・コンテナ不足が再び悪化する懸念が高まっており、さらに海上運賃が急騰する可能性がある。
・復旧に時間がかかれば海上から航空にシフトする貨物が増え、航空貨物市場の運賃押し上げも予測される。
・コロナ禍からの経済回復への影響。
このまま船舶が動かなければ物流が止まる可能性があるということ。
物流が止まれば経済も止まります。例えば食料や生活必需品の十分な供給ができなくなり国や都市は機能しなくなりやがて死んでしまいます。
それだけ物流業界だけではない深刻な問題だと言うことです。
◼️まとめ
24時間体制で作業にあたっていた作業員の方は本当にお疲れ様でした。
そして今後調査が行われ、原因や補償、その責任が明らかになると良いですね。
最近だと「ONE APUS」コンテナ海中流出事故(下記まとめ記事)もありましたが大型コンテナによる事故が続いています。
近年コンテナ船の大型化が進んでおり、コンテナ船の大きさは過去10年で約2倍になっています。
コンテナ船を大きくしコンテナをできるだけ多く積むことができれば、それだけ1本あたりの運賃を分散することができ効率的だからです。
ただ、大型にすればするほど船体自体の管理運用が大変になります。
今回の事故によって大型化によるリスクが浮き彫りになりました。
(今回の事故でいうと、大型化するほど風の受ける面積が広がるため、横風の影響をダイレクトで受けてしまいます。)
効率を重視するあまり事故が増えないことを祈ります。
◼️最後に
以上ここまで読んで頂きありがとうございます。
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