Facebookの特許条項付きBSDライセンスが炎上している件について
先月あたりから、オープンソースソフトウェア(以下、OSS)のライセンスのあり方について、Facebookを火種にして侃々諤々の議論が起こっているので解説してみる。
ASFがFacebookにNOをつきつける
ことの始まりは、Apache Software Foundation(以下、ASF)という著名OSSプロジェクトを多数保有する非営利団体が、Facebookが自社OSSに付加している独自ライセンス Facebook BSD+Patents license を「Category-X」リスト(禁忌リスト)に追加したことだ。
ASFプロジェクトは、Category-Xに含まれるOSSに依存してはいけない決まりがあるため、Facebook製のOSSに依存しているプロジェクトは、8月31日以降はそれらの依存を取り除いてからではないと新しいリリースが出来ない。影響を受けたプロジェクトは少なくとも Cordova, Superset, TrafficControl, Ambari, Allura, Whimsy, Spot, Myriad, CouchDB, Lens, SensSoft, Slingと多岐にわたる。
いきなり頼りにしていたライブラリが使えなくなり、代替を探すか再実装を迫られるわけで、ASFプロジェクトの当事者としてはたまったもんではない事件である。CouchDBのissueを見ると混乱が生々しく伝わってくる。
もちろん、FacebookがライセンスをASFに認められたものに変えることで解決もできるので、Facebookがどういう反応をするかが業界で注目されていたのだが、結局8月18日に出したブログで、今後もライセンスについて「方針を変えない」とはっきりと表明し、OSS界隈で炎上したのであった。
Explaining React's license
https://code.facebook.com/posts/112130496157735/explaining-react-s-license/
何が問題だったのか?
FacebookのライセンスはBSDに独自の特許条項が付いたもので、今回はこの特許条項が問題になった。「Facebook及びFacebookの関連会社を特許で訴訟した場合、ライセンスは破棄され、Facebookのコードを使う権利を失う」というものだ。
Apache Licence 2.0も似たような特許条項があるのだが、対象がそのライブラリに閉じずFacebook社全体に及ぶ点で異なっており、ASFから問題視された。
つまり、Facebook発のOSSを多用して自社プロダクトを構築し商売している場合、事実上Facebookに特許訴訟をすることは出来なくなる。Facebookの訴訟をした時点で、Facebook発のOSSを使う権利を失ってしまうからだ。実際、Googleを初め、社内でFacebookのOSSを使うことを禁じている会社がいくつもある。
Facebookの言い分
Facebookの言い分をざっくりまとめると、「自分たちはOSSに貢献して業界全体の発展に寄与したいが、無益で多大なコストのかかる特許係争に巻き込まれたくない。バランスをとって、BSDに特許条項を付けて自社を守ることにしました」といった感じだ。
FacebookのOSSを利用する殆どの利用者はFacebookと特許争いをするつもりはないだろうから、関係ないと言えば無い。しかし、FacebookはVRを始めとする他分野にどんどん進出していくことが予想されるので100%安心だとは言えない。極端な話、自社プロダクトの内容次第では、FacebookのOSSを使うことがリスクになってしまうケースも無くはない。(あくまで米国内で事業を起こす場合ですが)
FacebookのOSSにいままで無償でコントリビュートしてきたエンジニアにとっても、Facebookの特許戦略に加担してきたような感を受け、あまり気分がいいものではないだろう。
そんなこんなで、Hackers NewsやGithubでは「Reactは終わった」「Vueに乗り換えるわ」「FacebookはEvil」「愛してたのに...」など、悪口雑言がすごい勢いで飛び交っていたのだった。
私感
結局のところ、今後のリスクとFacebookのOSSから得られる利益のトレードオフだ。特許を取ろうとしている独自技術があって、Facebookの事業領域と被りそうじゃない限り、ReactやPrestoを使える利益のほうがはるかに勝ると感じる。
追記
「Facebookと張り合えるハイパークールなSNSをFacebookのOSSで作ったらFacebookからライセンス消される〜!」という話ではないです。https://code.facebook.com/pages/850928938376556