短編小説 『猫とクリームソーダ』
(1168文字)
※お好きな猫の姿を思い浮かべながらお読みいただけると幸いです。
「はぁ……」
午後のとあるひととき。
お気に入りのベッドで微睡んでいると、ご主人さまが重いため息を吐きました。
よろよろとした足取りでソファーの元へとやって来ると、そのまま倒れ込みます。
グッタリしてソファーに体を埋め、ピクリとも動きません。
その上にはどんよりとした灰色の雨雲が漂っているよう……。
どうやら心も体も相当お疲れのご様子。
おやおや、あっという間に灰色の雨雲は真っ黒な雷雲へと変わりました。
これはいけません!
早くなんとかしなければ!
「ニャン!」
そうとなれば、ワタクシの出番!
ワタクシは立ち上がって自慢のヒゲをピッと伸ばすと、身なりを整えてキッチンへと向かいました。まずは食器棚を開けて、涼しげな透明のグラスを取り出します。
続いて冷凍庫から氷を取り出してグラスに数個落とすと、カランカランと涼しげな音が辺りに響きました。
そこへ、とろりとした透明感のある緑色のシロップを適量、グラスに注ぎます。
その様はまるで草原の雫を注いだかのよう。
そして冷やしておいたソーダ水のフタを開けると、プシュッという音とともに炭酸が弾け出しました。
グラスに注ぐと、たちまち草原に清々しい風が吹き抜けます。
さらに甘くて冷たいバニラアイスをディッシャーですくってその上に乗せ、最後に真っ赤なかわいいサクランボを添えれば……。
はい!あっという間にシュワシュワと炭酸弾けるクリームソーダの完成です!
ワタクシはお盆の上に出来立てのクリームソーダを載せ、ご主人さまの元へお届けします。
「ご主人さま、どうぞお召し上がりください。きっと元気が出ますよ」
ご主人さまはムクリと起き上がると、しばらくそれを見つめた後、クリームソーダのグラスをそっと手に取りました。
ストローに口をつけたご主人さまの喉を、冷たいソーダが通り抜け、モヤモヤを洗い流していきます。スプーンでバニラアイスをすくって舌に載せると、優しい甘さが疲れを包み込みます。
クリームソーダを口に運ぶご主人さまのお顔が徐々に明るくなり、瞳にも輝きが戻ってきました。ワタクシはそんなご主人さまの様子にホッと胸を撫で下ろします。
「ごちそうさまでした」
クリームソーダのグラスが空になった頃には、ご主人さまのお顔に晴れ間が戻っていました。
「とってもおいしかったよ。ありがとう」
そう言うと、ご主人さまはワタクシの頭を優しく撫でてくださいました。
ワタクシはうっとりと目を細めます。
うれしくて思わず喉がゴロゴロと音を立てました。ご主人さまに笑顔が戻ってよかった。
ご主人さまの笑顔が何よりもワタクシの大切な宝物なのですから――。
もしもまた心と体に雨雲がかかってしまったその時は、ワタクシがまた心を込めて、ご主人さまのためにとっておきのクリームソーダをご用意いたしますね。
おわり。