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「ただ苦いだけだと思ってた」コーヒーが飲めなかった彼女が、地元で喫茶店を開いた理由
扉を開いた瞬間に漂う、コーヒーのいい香り。明るい笑顔で迎えてくれる店主との会話を楽しみながら、ゆったりと落ち着ける空間。そんな、毎日でも通いたくなるようなお店を見つけました。
今回訪れたのは、機械などを使わず、手動で丁寧にコーヒーを淹れる方法「ハンドドリップ」のコーヒーと軽食が楽しめる、京都府京田辺市にある「Kon coffee」。
「実はまったくコーヒーが飲めなかった」と語る店主の今野さんは、なぜこの場所にカフェを開いたのでしょうか。彼女がコーヒーと出会い、開業するまでの夢路を辿りました。
今野さん:
2023年7月に開業した「Kon coffee」の店主。モーニングからランチ、カフェタイムまで誰でも気軽に立ち寄れるお店を目指し、日々試行錯誤しながら運営をしている。
Koncoffeeホームページ:https://r.goope.jp/koncoffee/
Instagram:https://www.instagram.com/koncoffee2023/
「ただ苦いだけ」だったコーヒーにのめり込んだきっかけ
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ーーまずは、今野さんとコーヒーとの出会いについて教えてください。
今野さん:
大学を卒業してから、和食料理店で働いていました。コーヒーについて学び始めたのは、料理屋を退職して、滋賀県にあるカフェへ転職してからのことです。
実は私、もともとコーヒーがまったく飲めなかったんですよ。
ーー!! そんな経緯が。
今野さん:
ずっと「ただの苦い飲み物」だと思っていたのですが、知り合いに声をかけてもらったことをきっかけにカフェに就職したこともあり、「これは飲めるようにならないとまずい」と(笑)。
ただ、そこで淹れていただいたコーヒーを飲んだときに、初めて「おいしい!」と感じたんです。そのカフェではハンドドリップにこだわっていたのですが、淹れ方によってこんなにも味が変わるのか、と驚きました。その衝撃的な体験をきっかけにコーヒーを克服し、どんどん好きになっていきました。
自分が淹れたコーヒーをお客さまに提供して、直接「おいしい」と言っていただけることが、何よりも嬉しくて。やりがいもあり、これが自分のやりたかったことなんだと気づきました。
その後、複数のカフェやコーヒー豆専門店で経験を積み、2023年7月に「Kon coffee」を開業しました。
ーー未経験からコーヒーに関する知識はどのように身につけましたか?
今野さん:
滋賀のカフェに就職してからは、まず基本となるコーヒーの抽出方法から学びました。あるとき、お店に並べていたコーヒー豆の表記についてお客さまに聞かれたときに、わからなくてすぐに答えられなかったことがあって。自分がいかにコーヒーについて知らないかを思い知ったんです。
その経験を機に独学でも勉強を始めて、コーヒー豆の種類の豊富さや、国ごとの等級の付け方の違いなど、知れば知るほどおもしろいコーヒーの世界にのめり込んでいきました。
「コーヒーマイスター」という資格の取得にも挑戦して、勤務前後や休憩時間、休みの日もとにかく必死に勉強をしました。受験のときよりも勉強したんじゃないかなと思うくらいに(笑)。とても大変でしたが、その時間が本当に楽しくて充実していたと感じます。
ハンドドリップ=自由でおもしろいパフォーマンス。「地元」にこだわりお店をオープン
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ーーさまざまなカフェやコーヒー豆専門店を経て、なぜ開業を決意されたんですか?
今野さん:
コーヒーを淹れるようになってから、近所でおいしいコーヒーが飲める喫茶店やカフェを探していたんですが、なかなか自分好みのお店がなくて。休みの日にわざわざ行きたいと思える場所が地元にないなら、自分でつくろうかな、と思ったのがきっかけですね。
だからこそ、地元である京都府京田辺市でお店を開くことにこだわりました。もちろん、もっと人通りが多くて、観光客の入りも良い場所は京都にはたくさんあります。それでも、「地元の方がたくさん来てくださるお店にしたい」という気持ちが大きかったんです。
ただ、いざテナントを探し始めてみても、心の底から「ここだ!」と思える場所にはなかなか出会えず……。当時は、「このまま地元で理想の場所が見つからなかったら、お店は開かない」と決めていましたね。
それほど、地元でお店を開くことは、何よりも譲れない私のこだわりでした。
ーー今野さん自身が地元に自分好みのお店を求めていたんですね。お店を開くにあたって、他にこだわっていたことはありますか?
今野さん:
とにかく、ハンドドリップでコーヒーを淹れることにこだわりました。
これまで機械による抽出やサイフォン式など、いろいろなコーヒーの淹れ方を学んできたなかで、 最初に教えていただいたのがハンドドリップだったんです。
その思い入れの強さと、自分自身が好きで1番しっくりくる淹れ方だと感じていたこともあり、「開業するときは絶対にハンドドリップのお店にする」と決めていました。
ーーハンドドリップならではの魅力は何ですか?
今野さん:
豆を挽くところから抽出するまでの一連の過程を、お客さまに目の前で見ていただけるところです。会話をしながら、淹れている間の香りを一緒に楽しんでいると、それをきっかけにコーヒーに興味を持ってくださるお客さまが本当に多いんですよ。
淹れる人によって味わいが変わるのも、ハンドドリップのおもしろさですね。
ーーコーヒー豆の種類や抽出するお湯の温度が同じでも、淹れる人によって味に違いが出るのですか?
今野さん:
全然違いますよ! コーヒーを淹れる人のちょっとした手の角度や、お湯を注ぐスピードでもまったく違う味になります。
コーヒーに関わるすべての要素を自分で自由に調整して、自分にしか淹れられない一杯をつくるのが本当におもしろくて。毎日淹れていて、とても楽しいです。
人によって好みが分かれるので、「今野さんのコーヒーを飲みに来たよ」とお客さまに言っていただいたときには、ものすごく感動しますね。
ーーすでに多くのリピーターの方がいらっしゃるんですね。
今野さん:
そうなんです。実はそんなお客さまの声に背中を押されて、今年(2024年)7月に開店1周年記念として、ずっと欲しかった焙煎機を導入し、自家焙煎も始めました。「いつか自分で焙煎をしたいんです」とお客さまに話したときに「それはいつになるの?」と言われたことをきっかけに、当初の予定より早く導入を決めました。
コーヒーを抽出する前の大切な工程が豆の焙煎なんです。ハンドドリップと同様に、同じコーヒー豆でも焙煎する場所や温度、人によって抽出するコーヒーの味わいは変わります。
「自分がおいしいと思うコーヒーか、それともお客さまがおいしいと思うコーヒーを提供するのか。 どんなコーヒーにしたいかによって焙煎度が変わるから、自分で見極めて焙煎するとおもしろいよ 」と、過去に焙煎方法を指導していただいた方に言われたことがあって。
お客さまが喜んでくださる姿を想像しながら自分で焙煎をするのは、自由度がより広がる反面、難しさも感じますが、そのぶんやりがいがあって楽しいです。
声に出してまわりに宣言する!夢を叶えてきた秘訣
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ーーひとりでお店をオープンさせるのは大きな決断だったかと思います。夢を叶えるために、今野さんが意識されていたことはありますか?
今野さん:
夢や目標を声に出してまわりに宣言すること、自分のなかで期限を決めることが大事だと思います。私の場合も、「お店をやりたい」と周囲に言っていたら、それを覚えていたまわりの方々がテナントの空き情報や求人情報などを次々に提供してくれたんです。
そして、具体的な期限を決めるとつねに目標を意識しながら生活するようになるので、行動のハードルが下がり、結果的に予定より早く目標を叶えられたと感じています。
ーー期限を決めたとしても、うまく実行できなかったら…と考えると不安になります…。
今野さん:
もちろん、誰でも不安や心配事はあると思います。私もお店を開くまでは「お客さんが来なかったらどうしよう」「 売り上げが伸びず、お店を続けられなかったらどうしよう」などたくさん悩みました。
でも、無責任な発言かもしれませんが、 行動したら意外となんとかなるんです。実際に私も思い立ったときに行動に移してきたことで、理想の物件が見つかってお店を開いたり、焙煎機を予定より早く導入できたりと、とんとん拍子に目標が実現していきました。
人との縁を大切にしながら、長く愛されるお店であり続けたい。Kon coffeeのこれから
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ーーKon coffeeでは、お客さまにどのように過ごしてもらいたいですか?
今野さん:
Kon coffeeは「落ち着ける空間」をテーマにしています。コーヒーを飲んでほっと一息つき、ゆっくりしていただけるカフェを目指してきました。 なので、何時間でもお店にいてくださって大丈夫です(笑)。それだけ落ち着く場所なんだなと感じることができるので、ありがたいですね。
以前、ここで経営されていた喫茶店の内装は、薄暗くて落ち着いた雰囲気でした。外観は当時のままですが、より気軽にお店に足を運んでもらえるよう内装をガラッと変えて、白や爽やかなブルーを基調とした明るい店内に仕上げています。
「外とイメージが違うね」と言っていただくことが多いので、ぜひそのイメージチェンジも楽しみに来ていただけると嬉しいです。
ーー最後に、今野さん自身が次に叶えたい夢を教えてください。
今野さん:
1番の目標は、お店を長く続けることです。そのために何をしたらいいか、つねに考えながら日々運営しています。
最近はお客さまに「来月はどんなメニューが食べたいですか」「新メニューのアイデアはありますか」と聞いて、その素敵な意見を実際に取り入れています。
これまでは、作業からメニュー考案まですべてひとりで行わないといけないと思い込んでいたのですが、人に頼ることをやっと覚えました。Kon coffeeはたくさんの方に助けられ、ここまで続けられています。今後も周囲の力を借りながら、地元の方に長く愛されるお店を目指していきたいです。
また、コーヒーのセミナーなどのイベントも開催したいです。先月、コーヒー関係の資格を持っている方をお招きしたセミナーを開催し、たくさんの好評をいただきました。誰かと一緒に何かをすることも楽しいと思えるようになったので、今後はコーヒーに対して同じ想いを持つ人と関わる機会を増やして、できることの幅を広げたいです。
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笑顔が素敵で優しい雰囲気を持つ今野さん。落ち着いていて控えめながらも、コーヒーに対する情熱や、お客さまへの思いやりが伝わってきました。また、チャンスは逃さずに掴む決断力と行動力で、夢を実現されてきた姿にとても勇気づけられました。
一杯一杯にこだわり丁寧に淹れられたコーヒーを飲みながら、時間を忘れてゆっくり一息つける「Kon coffee」へ、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。
Kon coffee
住所:京都府京田辺市大住大欠7-3
営業時間:8:00~17:00
定休日:毎週木曜日
ホームページ:https://r.goope.jp/koncoffee/
Instagram:https://www.instagram.com/koncoffee2023/
〈取材・文=藤木このみ(@konomi_tabizuki)/編集=いしかわゆき(@milkprincess17)〉