救ってくれた笑顔と葛餅
もうかれこれ10年以上前の話になります。
母が大病をし、その直後気持ちの面から一切食事が摂れなくなった時期がありました。いろいろ検査をしましたが、これと言って悪いところも見つかりません。(大病は手術のおかげで経過も良好でした。)先生も「申し訳ないけどお手上げ」と言った感じで、これからどうしようかと途方に暮れていました。
何でもいいから食べてもらいたい、何だったら食べられるだろう。
喉越しの良さそうなもの、栄養豊富なもの、あれこれ買って来てみても、一口食べるか食べないかで全く受け付けてくれません。その時ふと目に留まったのが、近所の老舗の和菓子屋さん。吸い込まれるようにお店の中へ入るとご年配のおかみさんが笑顔で出迎えてくれました。
すがるような思いで「母が食べられそうなものを探しています」と伝えると、勧めてくださったのが葛餅でした。言われるがまま購入し急いで家路に着き、母に差し出すと今までのことが嘘のように食べることができました。しばらく毎日和菓子屋さんに通い、葛餅を買って帰るのが日課になりました。一度二日分をまとめて買って帰ったら、何故か二日目の葛餅は食べてもらえませんでした。不思議な話ですが、出来立てがおいしかったのでしょうかね。
今はお店も跡継ぎに譲らずに畳んでしまわれ、跡地にはビルが建ちました。葛餅を見るたびに、あの時のおかみさんのことを思い出します。そして「母を助けてくれてありがとう」と心の中でお礼を言わずにはいられないのでした。
母に食べさせることしか頭になかったので、よく考えたら一度も口にすることがなかったな。どんな味だったのかな、あの和菓子屋さんの葛餅は。
皆さんは、思い出の食べ物はありますか?
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