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SNS 恋愛小説/MAYBE〜糸電話〜 第7話

《休日に出勤する常盤君》


飴玉のことが頭の隅に引っかかりながらも、出勤準備をすませると、少し時間が空いたのでMAYBEを覗いてみる。

【ビート】
K氏
「おはよう」

みつけた!K氏のビート。

返信】
まあ
「おはよ、今日もバイト?」

すると、すぐにDMが入ってきた。

【DM】 
K氏
「今日は休み。バイトは月水金だけなんだ」
まあ
「そうなんだね」
K氏
「今日は短大の方行ってくる」
まあ
「頑張ってね!わたしも仕事行ってくる」
K氏
「気をつけてね、いい男には特に」
まあ
「小夜子✡さんみたいに?笑」
K氏
「あんなこと聞いて、まあのことも心配になってあれからちょっと眠れなかったよ」

あぁ〜、わたしは嬉しくて眠れなかったのに。
ちょっと独占欲?
付き合ってないのにそこまで言っちゃうとこも好き!!
K氏
「あ、それから。俺の方はそんなこと絶対ないから、心配しないでね」

あ、そっか。バイト始めたんだし、いい先輩達もいるって言ってたな。こっちも心配するべきなのか…。もしかするとってこともあるんだよね。
未来のことなんて誰にもわからないんだし。
それにしても、「心配しないでね」とか、まだ返事聞いてもないのに…安心させてくれるとこもいいな。
わたしも何か安心させるべきなんじゃない?これ。
受け取るばっかりになってる。でも返事になっちゃダメだから。

まあ
「そういえばね、わたしの所にもバイトの子入ってきたけど全然 "いい男" じゃないよ。小夜子さん✡みたいにはなりませんから〜笑」
K氏
「あははっ、それならよかった!」
まあ
「じゃ、行ってくるね」

K氏、嬉しかったのかな?安心できたかな。
わたし達、いい調子だよね!
彼も本当に気が変わったりしないよね。
そんなふうに小さな不安が浮かんできたけど、
「それならよかった!」と言った彼の言葉を思い出して、それはスッと消えていった。

今日、土曜日は出荷関係も事務も少ないので隔週で、果鈴さんと交替の出勤になっている。
明日はお休みだし、果鈴さんはいなくてさびしいけど、仕事量はいつもの3分の1。気楽にいこう。

出勤者の少ない土曜の事務所内は、いつもより時間もゆったり流れ、昼休みも極めて静かだ。
いつもより軽く詰めてきたお弁当をさっさと食べ終えると、さあ
MAYBE、MAYBE♪
何か変化はなかったかなぁ。
すると、あった。しかも、とんでもないビートがっ

【ビート】
ナッキー
「おい!信じられるか!?オレ初めて男できたよ!!」

えっ!!? 

ナッキーが、初めて男として立派になにかを成せた…てことではないのは、ビィ友には分かったと思う。
嘘でしょう!?そんな…、それは凄い!!

【返信】
ドラコ
「今までは女できてたみたいに言うな」
K氏
「え、告白したのか?」
飴玉
「え、え、すごーい!本当に?」
まあ
「ねぇ、どういうこと?」

ナッキー
「向こうから告白された」

ドラコ
「さすがにそれは、信じられんね」
K氏
「本当に!?凄いじゃん」
飴玉
「おめでとう!! よかったね☆」
まあ
「それ、詳しい話あとで "DMで伝言ゲーム" しようよ」

ナッキー
「後でな!笑笑笑」
ドラコ
「あたしアンカーでいいよ〜。最後には話変わってるかもしれん笑」

返信のやり取りは終わり、わたしはナッキーの告白話を聞けるのが凄く楽しみだった。
なんだか、幸せの先を越されたような気もしたけど笑
それに、ナッキーのおかげで飴玉までちょっと元気出たみたいで、よかった。

午後4時半頃、今日分の出荷準備をすませてしまうと、製品伝票を持って出荷口へ降りていく。
すると、外から誰かが走ってくる足音が聞こえた。
え、配送業者さんが来るにはまだ早いし、いったい誰だろう?

と、それは
昨日からきたバイトの常盤ときわ君、だった。
彼は、わたしの前のドアを大急ぎで開けると、わたしを見ると
「あっ!あのっ、ここに…!!」
そこまで言って、ゼェゼェと息をつく。
なんだろう?
「おちついて、常盤君。なにかあったの?」
「あの、ここにっ…、メモ帳、置いてなかったですかっ!?」

このくらいの…といって、昨日彼がポケットに入れていた大きさの四角い穴を両手の指でつくって見せた。
「昨日、常盤君の作業着のポケットに入ってたやつ?」
それをどこかで無くしたのかな?
彼は、うんうんうん…と首を振って真剣な目だ。
っていうか、常盤君、作業着は着てないし、今日出勤じゃないのかな?わざわざメモ帳を探しに来た?いや、まさかね。

わたしは、彼と一緒に出荷台の上、下、周りを探してみる。
「あ!!あった…」
常盤君の声で屈んだままのわたしが振り向くのと、台の下を見ていた彼が振り返るのは全く同時だったらしく、わたし達は額の横辺りを結構な勢いでごっつんこした!
いったぁあい!!!! タンコブができる!!
これはっ青タンできるっ!!泣
「あぁっ!!すっ、すいません!!」
そういう常盤君も、頭を押さえてる。
「いいよ、大丈夫、大丈夫」凄く痛いけど。

彼はすまなそうに、でもその右手には、見つけたメモ帳をとても大事そうに握りしめていた。
「見つかってよかったね。でも、今日って業務入ってなかったんじゃない?」
わたしは、何もなかったようにつとめて明るい声で尋ねた。
「あ、はい」
えー まさか、本当にメモ帳だけを探しにわざわざ来たんじゃ?
「メモ帳を無くしたこと、気がついたから。来ました」
「なんで?次のバイトの日でいいじゃん」

わたしがそう言うと、常盤君は少し困ったように黙った。
「まぁ、べつにいいんだけど。あったからよかったね」
彼は、少し呆れた様子を隠しきれなかったわたしを見て、視線をさまよわせた末に、口を開いた。
「昨日作業を教えてもらったあと、ここに残って、忘れないうちに手順を書いていたんです。その時、ちょっと余計なことも…書いてしまっていたんで…それ見られるのが嫌で。急いで来ました」
あー、そういうことだったのね。
でも、そんなに急ぐなんて、何か先輩の愚痴でも書いてたのかな? そんなの見られたら気まず過ぎるもんね笑。
そう考えると慌てて来た彼のことが余計におかしくて、わたしはくすっと笑った。
すると、常盤君は少し心外だというように顔を傾けて、メモ帳のページを開き、こちらに差し出してきた。
え、なに?
彼の開いたページには、出荷の手順が丁寧に順番通り書かれてあり、その一番下には
《良い先輩達がいて働きやすい。先輩方有難うございます。
 まあ有難う》

と書いてあった。
何?このメモを見られて何か悪いことってある?
たしかに、最後の《まあ有難う》はちょっと、おかしいけど。
わたしがハテナの顔で見上げると、彼は何かちょっと迷ったような目をしてから、
「あ、俺、もう帰らなきゃ…」
そう言い、急いで出荷口のドアの方へ向かった。
あ、そっか。わたしが笑ったから見せたんだっけ。
「常盤君、有難うね!それ誰かに見られたって恥ずかしくないよ。ごめんね、笑っちゃって」
と、声をかけた。すると彼は少し走り出してから振り返って、
「まあ有難うは、間阿しずおか先輩へじゃないですから」
と言い残して去っていった。
あぁ、親とか家族かな?それか、バイトを勧めてくれた友人とか?

って、そんなこと考えてる場合じゃなかった!出荷作業!!
わたしは大急ぎで製品を箱詰めにかかった。
数は少ないのにギリギリセーフ!非常に危なかった!!
あとは、事務所に戻って後処理をして、伝票をしまえば終わりっ

そうしてわたしは、作業を今度こそきちんと手早くすませてしまうと、今日は1人社員用の更衣室へと向かった。
着替えようとロッカーのドアを開けた時、手が当たってポケットの社員証が床に落ちてしまった。
あ~…と思いながらそれを拾い、わたしはハッとした。

昨日、常盤君に名前クイズを出した時、彼「まあ、まあ」って答えたんだった。そうだよ、だから彼は《まあ有難う》をわたしのことだって勘違いさせないように、ああ言って帰ったんだ!

なるほど。
そんなの気にしなくてよかったのに。
でも、彼にとってはそう思われるのは大問題かもね。
気まずくなったりしたらいけないっていうのもあるし。
けど、それの為に必死で休日の夕方、走って取りに来たんだ?
そんなに誤解されたくなかったのか。

とかいって、本当はわたしのことだったりして… あはははっ
んなわけないか、あんな一途な男子見たことなかったもん。
見せなくてもよかったのに。
けど…、笑っちゃって、本当ごめんなさいだわ。


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