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MAYBE〜糸電話〜 2
第2話
「シズ、そこ違う。その横だよ、シズってば。」
はっ、とした。
果鈴さん(職場の先輩)が隣から、わたしの記入している伝票を指差していた。
「なにボーッとしてるの?簡単なミス…無反応…これは怪しいな」
「あっ、いや怪しくなんて…。なにがですか?」
わたしは、急いで製品の伝票を書き換えた。
何気なく昨夜のK氏のことを思い出しぼんやりして、作業に集中できてなかったのだ。さすが先輩は鋭い。
「なになに、教えてよ!好きな人でもできたの?」
果鈴さんは恋心に経験豊富なだけあって、ド直球できた。
でも、「好きな人」と言ってしまうには、まだよく自分でもわからない。相手が少し好意を示しただけで、こっちも少し嬉しい気持ちになった、それだけのことだし。
SNSでちょっと気になる人がいるとだけ話した。
「シズ、ネットで知り合って付き合うなんて、どんだけリスクあると思ってんの?相手、どんなヤバイ人かも分からないんだよ?あたしは反対!」
「まぁ、そうですよね…」
はっきり言われちゃった。
ここまで反対の感じだと、K氏の話はもう今後しにくいな。
わたしたちは、そこからは製品検査課の誰がまた検査不良大量に出して怒られただの、製造課のあの2人は怪しいだの、いつも通りの会話で盛り上がりながら、製品の伝票記入をすませ専用の棚にしまいこんだ。
これで午前中分の事務作業は終わり、あとはお昼休みまで、次の製品出荷のための準備をしながら待つのが日課。
そうしているうちにお昼の12:30、皆休憩に入る。
いつもは果鈴さんもわたしもお弁当で、一緒に食べるんだけど、今日は果鈴さん製造課の滝山さんとランチに行く約束があるってことで、わたしは1人でお弁当。
果鈴さん、
「滝山達(怪しい2人)、どうなってるのか聞いてくるね~♪」
とこっそり耳打ちして出かけていった。
わたしは、お昼を食べ過ぎると眠くなるため、小さめのお弁当にしてる。ゴマふりかけののったご飯や卵焼きやソーセージ、ブロッコリーを急いでパクパクとたいらげてしまう。
空いた時間でMAYBEをひらくため。
あ、ナッキーのビートをみつけた。
ナッキー
「今日も絶好調だぜ!先輩と仲良しトーク中〜」
ナッキーはバイト先の先輩に片思い中だ。
といっても相手は男性で、同性愛者の彼は恋多き男でありながら、いつも早々に振られている。正直者だから、すぐ勘付かれちゃうのね。
【返信】
ドラコ
「その先輩はノーマルなあんたと仲良くしてんの!笑」
まあ(わたし)
「まだあきらめないよね?」
ナッキー
「あったりまえだっ」
ドラコ
「Fight!笑」
わたしはその返信をしながらも、自然とK氏のビートがないか探していた。
すると、2、3分後、
K氏
「明日からバイト入ることになった」
K氏からビート!! 思ってたより、嬉しい。
ドキドキした。何て入れよう!
さり気なく、普通に、よかったねってことを返信すればいい。でも何かちょっと一言…ないかな。
そんなことを20秒程考えているところへ、果鈴さんがルンルンなな様子で戻ってきた。
「ねぇねぇ聞いて!あの2人…やっぱそうだった!!」
K氏に返信したいんだけどなぁ、果鈴さんのこの話したくてたまらないオーラ。とても回避できなそうだし、返信内容もうまくまとまらない。一旦MAYBEはとじよう。
というわけで、果鈴さんと話すうちに昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
その後の仕事は順調にこなし、18:00までにはお気に入りミライース(車)に乗って会社を出た。いつも通り、近くに住んでいる果鈴さんも乗せて帰る。
「シズさ、さっき話してたネットの彼のこと、やっぱ気になってるでしょ?距離に気を付けなよ?」
「はい…、でもネット内だけとかなら、いいかなって…思うんですけどね」
言った!また怒られちゃうかな…と思ったが
車内、数秒沈黙。
「そうだね、シズが気になってるなら、本当にいい人かもしれないよね。あたし、ちょっと言い過ぎたかなとも思ってたんだ。様子見てみるのもいいかも」
え、まさかの賛成意見。
ちょっと気持ち楽になった。あぁ良かったぁ。
「でも、もしちょっとでも相手のヤバそうなとこ見えてきたら、すぐ相談するんだよ?気ぃ使わなくていいから」
「はいっ!」
わたしは嬉しくて声が弾んだ。
すると果鈴さんは、逆にじっと眉を下げてこちらを見つめた。でもそれだけであとは何も言わず、彼女の家の付近まで何か考えるような表情のままで、「じゃ、ありがとう」と降りて行った。
自宅に帰り着いてホッとすると、肩かけバッグをおろす。ベッド用マットレスに座ると、棚の上に残しておいた小袋のビスケットを1つあけて糖分補給。
アルファベット型のビスケットをポリポリかじって、今日あったことを考える。果鈴さんの言うことは最もだ。車を降りる前の表情が気になった。
と、その時つまんだビスケット、「K」型…。
はっ!
昼休み、K氏のビートに返信せずそのままだったということを思い出した。
そこで、またドキドキがはじる。
なんて返そう…バイトが明日からだって言ってた。
とにかくMAYBEをひらく。
ドラコと飴玉のビートも目に入ったけど、先に見てたK氏に返そう。
【返信】
まあ(わたし)
「明日バイト!?始まるの早すぎない?でもちゃんと決まったんだね!よかったよ♪」
その後、飴玉の「来週試験つらー!」とドラコの「キートンのLIVEチケの抽選当ててやる!!」にも返信した。
数分待ったけどK氏からの返信はなかった。
気にはなるけど、明日から忙しくなるようなこと果鈴さんが言ってたから、今日はいつもはしない明日の業務が最短で出来るように内容チェック。
さっさと夜ご飯とお風呂をすませ、ベッドにジャンプした。
MAYBE、MAYBE♪
K氏からの返信きてるかなぁ。
と探すけど、きてない。
あ〜ぁ、明日からバイトだから準備とか緊張とかでMAYBEどころじゃないのかな…?
それとも、わたしナッキーの返信しか出来なかったから、気分害しちゃったかな。
それだと困るな…。
そう思ってた時、ドラコからDM(ダイレクトメール)がきた。DMは直接送られてくるメールで個人チャットみたいなもの。
わたしは、DMを受け取るのは初めてで、でも相手がドラコだし、そんなに緊張するわけでもないけど、いったいなんだろう?
不思議に思いながら初めてあけるメール✉️マークをタップしてみた。