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長い歴史を紡ぐ駅

「…入っていきますか…?」

「あぁ…ありがとうございます。」

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少し前に近所に越してきた、私よりも2つ年上の彼。
結構離れたところだけど、どうやら同じ県内からやって来たらしいとか、兄弟が多いらしいとか。田舎だからそういう情報はすぐ回ってくる。
でも挨拶をしたこともないし、こちらとしては『引っ越してきた男の人』という認識があっても、向こうからしてみれば私は全く知らない人だと思う。

この辺はお店もすぐに閉まるし、夜は街灯も少なく真っ暗になる。そこにぽつんと小さな駅が1つ。学校の行き帰りにはその駅を利用するしかない。彼も電車通学らしく、必然的に毎朝顔を合わせることになったけど、学校も違うし、関わることなんてないと思ってた。

……✿……✿……✿……✿……✿……✿……

ある日の夕方、学校帰りにその最寄り駅に着くと、土砂降りの雨が。

「えーースカート濡れるんだけどー…」

そう思いながらカバンを漁って折り畳み傘を出そうとすると、ふと、その近所の彼が困った表情で立ちつくしていた。どうやら傘がないらしい。繰り返すけど、私からすれば彼は『引っ越してきた男の人』という認識があるけど、向こうからすれば私は完全にただの知らない人でしかない。
なのに…

「…入っていきますか…?」

つい声をかけてしまった…。
いきなり知らない人に話しかけられたら絶対びっくりするよね…。
嫌がられたんじゃ…。
とか色々考えてると、

「あぁ…ありがとうございます。」

小さな折り畳み傘を半分こして家に向かって歩く。
思わぬ下校になったけど、スカートが濡れていることなんて全然気が付かないほど話が弾んだ。

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というのが、うちの祖父母の出会いだそうで。
その日から大体50年が経った今日、雨の中下校中の私は、同じ学校の彼と話を弾ませながら、その駅へ向かって歩いている。

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