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プロの仕事

僕の考えるプロの仕事とは、内容を正確に把握する目を持ち、現場を清める繊細な心を持ち、必要な所に最も適した材料や道具を用いて過不足ない工程で依頼内容に見合った期限や時間を見積もり、定められた時間の中で最高のパフォーマンスを発揮して業務や納品を完了して、依頼主であるクライアントに満足して頂くことに尽きるのではないかと思っています。

僕のフィールドである写真撮影においてもフィルム時代では使用用途や撮影環境に応じてフィルムのサイズが選ばれ、必要なカメラやレンズが決まり、フイルムの枚数や本数までをある程度見積もり、事故などの場合も想定して予備機材やフィルムはもちろん、撮影に必要な照明機材から小物まで撮影パートで考えられる準備を事前にします。時間が切迫している場合には現像所と現像の仕上がり時間の交渉までしていました。全ては「時間内」に最高のパフォーマンスを発揮して納期に届けるためにです。

デジタル時代の昨今、業態は大きく変わりました。「デジタルは簡単に撮れる」これは誰もが錯覚している大きな間違えです。若手編集者から「チャチャっと撮って下さい」と言われると笑ってOKといいながら心で涙しています。だって写っていればいいのかなぁとか、その場でカメラに向かうタレントにだって失礼だと思うのです。使用機材も新人やベテランの垣根はありません。駆け出しくんは大は小を兼ねるとして用途を考えることもなく不相応な高解像・高画素カメラを持ち出し、とめどなく大きなデータで撮影します。データの変換〔現像〕も大きなデータでは時間が余計にかかるでしょう。夜通しパソコンを稼働させて一般のパソコンでも表示出来るデータへの書き出し処理を行い、撮影データをセレクトしやすい縮小サイズのデータを作成して、ますは一次納品の完了です。現場でクライアントとの確認を終えてある商品カットは、カットが決定しているので、この工程がスキップされるケースもありますが、人物などバリエーションや表情、動感なとカットごとに変化が大きいので、使用権限のある責任者がセレクト用に必要なのです。そしてどこでどの写真を使用するかが決定します。ここまではほとんどみんな同じ流れかと思います。

エディトリアルの多くの場合、修正など以前は印刷所が担っていたパートも、撮影者に求められるケースが増えてきました。広告など予算に余裕がある場合にはレタッチャーと呼ばれるデータ管理の専門家と二人三脚で仕上がりから逆算した最も効果的なデータを得るための設定・セッティングを撮影時から現場で一緒に構築して撮影に臨みます。

ここではエディトリアルや、WEB媒体のケースをお話しします。印刷とwebでは解像度も、必要なピクセル数も全く違います。従って撮影しようとする案件がどのような媒体に使用されるのか正確に把握する事が後に大きなポイントになってきます。現在販売されているカメラのほとんどが、ポスターをも余裕で印刷できるほどの高画素機ですので、これらの機材で撮影して多くの場合、一次納品用に縮小データを作成して納品します。

編集担当者は納品された写真を自分でセレクトする人、後にデザインを任せるデザイナーに任せる人など様々ですが、時にはセレクトすることなく事務所に丸投げして、NGカットを先に選別してもらい残ったカットの中から使用カットを選ぶという編集者もいるようです。最近は特にそういった編集者が多いと事務所のマネージャーからよく聞きます。我々撮影者からすると、せっかく自分達〔楽しみにしてくれる読者やユーザー〕のページなのになぜ使いたい写真を編集者自身が選ばないのか、そして選んだ写真に難色を示された場合に、使わせてもらうよう交渉しないのかと思いますが事実昔の「戦う編集者」とは異なり、事を荒立てず余計な手間をとらないようにタレント・モデルの所属事務所のいうままに、事務所の許した写真から使用カットが選定されているようです。
しかも交渉もしていないのにここで要する時間が一番掛かるのです。勿論、写真の判断をする事務所担当者も、様々な媒体の写真を確認しなくてはならず、膨大な写真確認の作業もあるので仕方ないことは理解していますが・・・・・・。

事務所から編集者を経由して使用カットがリストになって送られてきます。その多くが印刷所に写真を届けなければいけない「入稿日」と呼ばれる期日の3-4日前に使用カットが送られてくることが多いのです。僕たちはそのメールで初めて正確な納期を知る事になるのです。その際セレクト用データを、もとに修正箇所や指示のリクエストも同時に来ることが多く、タレントによっては顔が真っ赤になるくらい指示が入ります。そのほとんどが肌やメイクの粗を補うもので、どうして僕らがヘア・メイクの下手を誤魔化さないといけないのだろうと思うこともしばしばです。

リストに沿って本番データの作成です。今一度画像の再調整を行ってtiffデータを作成し、レタッチ作業へと進みます。カット数に関係なく期日は決まっているので、その期日に間に合うように作業開始です。しかし日々撮影はあるので、日中撮影して事務所に戻って、アシスタントと手分けをして機材メンテ、片付け、撮影データのコピーやセレクト、翌日の機材準備を終え、それから修正作業を再開するので、その時間はどうしても深夜になってしまうのです。この時印刷用かWEB用かで、データの大きさが全然違うので、最初に確認しておいた情報が活きてきます。つまりWEBで使用する軽いデータは修正も解像度の範囲でパフォーマンスを高めれば良いので印刷データに比べ作業効率も高められ、早く仕上げることができデータ送信も容易です。一方印刷データはより慎重な作業が求められ、作業も納品時間もそれなりに要します。しかし納期は納期・・・。何としても守らねばならないので日々スキルアップは欠かせません。
一度納品してしまうと不特定多数の目に触れ、写真が勝手に独り歩きを始めてしまう怖さは常にあるので念には念を、しっかり時間をかけて一つ一つの作業に向き合いたいのですが、納期という制限時間があるのも僕たちプロの宿命で、その限られた時間内で密度濃く、品質に責任を持つためには解像度や使用サイズに合わせて必要な処理、加工を施すことがポイントになります。つまり使用サイズが10cmの写真に対してポスターでの使用に耐えうるような処理は過剰であり、結果から見ると時間に対する効果が薄いことになります。もちろん時間に余裕があってスキルアップのレッスンなら良いのですが・・・。そうした効率まで正しく見積って画像処理をしてい必要な仕上げにより時間をかけられるようにバランスをとりながら見て頂くための作品を磨き上げています。

プロって、理解しながら仕分けることであり、責任を背負うことであり、続ける力を持つことが出来てはじめて、冒頭で述べたような仕事のクオリティーへと続くのかなと今は思っています。まだまだ長く険しい道のりですが僕も頑張りたいと思います。

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Photographer 河野英喜
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