試供品は現品よりちょっといい…のか?
試食品があんなにおいしく感じられるのは、ほんのひとくちだけ食べるからだろう。
お腹が空いていればなおのこと。そのひとくちに誘われて、財布の紐がゆるくなる。
ところが家に帰って、さぁごはんとなったとき、「あれ?こんな味だった?」ということが、たまに起こる。試食ではあんなにおいしかったのに、量が増えると甘すぎたり辛すぎたり。味覚って、案外簡単に騙されてしまうものだな、と思ったり。
薬局や化粧品売り場でもらう試供品も、これに似ていないだろうか。
例えば、シャンプーの試供品をもらう。使ってみたらすごくいい感じ。さっそく現物を買ってみる。ところが使い続けてみると、髪質に合わなかったり、地肌が荒れてしまったり。1回だけのお試しでは、わからなかったことが起こることもあるものだ。
試供品って、現品と本当に同じものなの?
ときどき、そんな疑問が湧いてくる。そういえば以前、こんなことがあった。
仕事でたまに顔を合わせる女性カメラマンがいる。数カ月ぶりに会うなり、その人はいった。
「木野花さん、今日はいつもより高級なファンデーション使ってるでしょ?」
人物の撮影も得意とする彼女は、人の顔色やメイクにも普通の人より敏感だ。
「そんなふうに見えます?」
「うん、肌質がいつもと違って見える」
彼女はきっぱりそういった。
実はその日、わたしは試供品でもらった新作ファンデーションを使っていたのだった。
「カメラマンに褒められるくらいなら、けっこういいかも」
わたしは顔のつくりはけっこうブスだが、そのころはまだ若く、肌の調子だけはよかった。このファンデで肌をアピールすれば、ちょっとくらいはキレイに見えるかも。気持ちが浮き立った。
カメラマンの見立てほど、高価ではないのも幸いした。この値段なら十分手が届く。わたしはその新製品を買うことに決めた。
しかし。しかし、だ。
購入した現品を使ってみると・・・あれ? なんか違うぞ?
褒められたほどの効果は、出ていないような・・・気がした。気がしただけかもしれない。しかし明らかに、試供品と現物は使い心地が違っていた。
もっともっとキレイになるはずだと欲張り過ぎて、期待が過剰すぎたのかもしれない。あるいは、試供品を使った日は、たまたまいつもより肌の調子がよかっただけなのかもしれない。それにしても、違いすぎるんじゃ…
諦めの悪いわたしは、それでも思ってしまうのだ。
あの現品は本当に、試供品と同じものだったのだろうか。
あれからわたしは、試供品、というものを心のどこかで疑っている。
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