「百英雄伝」が発売された話

【本編のネタバレはありません】

「幻想水滸伝1&2」をメインモチーフにした新作「百英雄伝」が発売された。村山吉隆氏に多大なる感謝を。

「百英雄伝」というタイトルが発表されるまで。もしくは「幻想水滸伝シリーズ」を取り巻くそれまで。ここに至るまで、一ファンの目線でも、本当に色々あった。

無事、発売されて良かった。

"「百英雄伝」というタイトルが発表されるまで。もしくは「幻想水滸伝シリーズ」を取り巻くそれまで。"の色々…の話を少しだけ。
自分の気持ちが強く出ているところは別枠にしている。


まず今作は(メインモチーフとしている)「幻想水滸伝シリーズ」の発売元である「コナミ」による開発・発売ではない。

ではどこかというと開発は「Rabbit & Bear Studios」。
聞きなれないと思うが端的にこの「百英雄伝」の為に旗揚げされた会社だ。

そして発売は「505Games」。
Dead by Daylight」や「DEATH STRANDING(PC版)」の販売元としての認知度が高いだろう。

「DEATH STRANDING」側の事情に明るい人からすると察した部分があるかもしれないが、今作は「当時、幻想水滸伝シリーズを開発していたメインスタッフ」がコナミを退社したあとに新会社を立ち上げ、資金や販路を自力で獲得して発売に至ったという経緯の作品だ。

この「メインスタッフ」とは主に冒頭で触れた村山吉隆氏を意味する。
明確にコジマプロダクションにおける小島秀夫氏のポジションだ。

村山氏は「幻想水滸伝シリーズの企画立ち上げ、ディレクション、シナリオライター」を担当しており、幻想水滸伝シリーズの「1」と「2」が高い評価を受けている理由の殆どを担う製作者であった。
特に「2」は時代性や地域性が本当に良い意味で混然としており、世界的にも「JRPGの代表作」として知られている。
(アメリカAmazonでは高評価・プレ値が継続している。☆3以下は「プレ値が高い」と「コピー品掴まされて動かない」によるものが殆ど)

「幻想水滸伝シリーズ」は合計8作出ているが、村山氏は3作目の開発途中でコナミを退社しており、3作目のクレジットには名前が掲載されていない。

よって3作目の途中から開発体制が大きく変わり、ゲームとしてのプレイ感やシナリオに共通点こそ見出せるが、おおむね別シリーズのような毛色となった。

もちろん以降のナンバリング作「3」「4」「5」が駄作かというとそんなことは全くないし、個人的は「4」もすごく好きなのだが、『「1」を成熟させた「2」が誇る完成度の高さ』という項目からは外れたアプローチであった。

その後の新章と銘打たれた発売された「ティアクライス」と「紡がれし百年の時」の2作に直接の続編はなく、売上の面でいえば実質的にシリーズを終了させることになった。

「ティアクライス」と「紡がれし百年の時」は「過去にシリーズ中で存在が示唆されていた異世界」の物語であり、人物相関やシステムなどが刷新されていることでシリーズとしての色合いはかなり薄い。
(「5」までは漫画「火の鳥」シリーズにおける猿田一族のような、全ての物語に関与する人物がいた。)

この相互異世界観は、「1」「2」あたりの時期の作品で言えばアニメ版の「ロスト・ユニバース」と「スレイヤーズ」くらいの関係性だ。

ゲームとしても、例えばアルファ・システムによる無名世界観(「高機動幻想ガンパレード・マーチ」や「式神の城」など)では類型の構造が採用されている。

全く受けない訳ではない…と書こうとしたが、冷静にみると既に例に挙げてる両シリーズの関係性がオタク的でニッチだ。いずれも各作品は人気作だが、関係性としてみると「受けない」のかもしれない。

そんなこんなで、村山氏が開発から退いてもしばらく続いた幻想水滸伝シリーズは「紡がれし百年の時」が発売された2012年を最後にしばらく音沙汰がなくなった。

どのくらいなかったかというとこれだけファンのついている長期シリーズにも関わらずPSゲームアーカイブス配信なども全くされなかった。


時折幻想水滸伝のことを思い出すようなファンに
「メーカーは幻想水滸伝というIPに期待していない」
という気持ちを多かれ少なかれ抱かせるには十分な時間と出来事だった。

個人としては、現行世代のゲーム機で遊ぶ方法が全くなかったので、その為だけに残してあるPS2を数年ごとに起動して「1」と「2」を懐かしんで遊んでいた。

そんな中、2020年、クラウドファンディングサイト「kickstarter」にて村山氏の名前が掲載される。

要約すると、村山氏が「1」のキャラクターデザインをつとめた河野純子氏らキースタッフと組んでみずからゲームを出したいという内容であった。

「PlayStation時代のJRPGらしさを再現するプロジェクト」
「幻想水滸伝の精神的続編を作りたい」

「タイトルは"百英雄伝"」


そして本当に色んなことを伝えたかったのだろう3分の動画

そこには世界に「JRPGの代表作」として知られた時代の幻想水滸伝を今この時代に自分の手で作り直したいという気持ちが示されていた。

シリーズ最終作「紡がれし百年の時」から8年。
ナンバリング最新作「5」から14年。
最高の完成度とうたわれた「2」から22年。

長い時を経たあと、ファンの前におもむろに「求めていたものよりももっと求めていた形」が示された。

そして世界中の潜在的なファンたちがいっせいに支援した。
5000万という決して低くない目標金額を開始2時間でクリアし、1か月で支援された累計金額は4.8億に届いた。ほぼ10倍だ。

そのうちのほんとに少しだけだけれど、支援した。以降はファンであり、1支援者として様子を見守るようになる。

「百英雄伝」プロジェクトが、物凄い注目を浴びながらのスタートとなった。

―…というのが「1人の普通のファン」から見た"「百英雄伝」というタイトルが発表されるまで。もしくは「幻想水滸伝シリーズ」を取り巻くそれまで。"のほんの一部分の話だ。

そしてその4年後。

村山氏が発売直前となる今年2月に多臓器不全で逝去した。
ご冥福をお祈りします。

―そうして村山氏が不在の中、世界的にもあまりにも本当に色んなことがあった中で―

2024年4月23日、「百英雄伝」が正式発売となった。

正直、発表後に支援者として開発進捗の報告を受けてきたなかでも色々なことがあったし、これだけ世界情勢が変わったなかで、いくらでも開発が頓挫する可能性はあったと思う。

「百英雄伝」発売、おめでとうございます。






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