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2023/03/23

 卒業式当日。それはそれはいつも通りの朝で、時間に余裕なんてあるはずもなく、その割にはスロウペースに朝食を摂る。
 満員でもはや揺れない電車を経て学校を到着し、式場に見向きもせず先ずは校舎へ。雨、降り始める。二つの用事を切れた息で済ませ式場へ向かうと、集合時間を過ぎても式場は開場せず、雨足は強まり、それでも父母間生徒間での井戸端会議が桜の木の下繰り広げられていた。傘も指さずにね。なーんだと力が抜けて、ゆっくりと動くゲジゲジのようにして話し掛けやすそうな人々の輪へ入る。思い出すのに脳のリソースを割くことが腹立たしい会話をした。確か、うなぎパイがなぜうなぎパイという名称なのか、という話。
 
 雨に体を濡らさないまま開場に入れる。指定された席へ着席し、誕生日が分からなかったためにプレゼントを渡せなかった友人へささやかなものを贈ると、想像していた以上にテンションが上がってくれていたのが嬉しかった。プレゼントは、長く持たないのが吉。渡したときの反応をあれこれ想像して、行動を先延ばしにしてしまう。
 その後、中学の頃からの友人に流麗な栞をいただく。この人は、人を慈しむということを意識しないままに会得しているな、という印象の友人。このまま縁が続くといい。
 
 式が始まり、一番聞かなければいけない方のお話だけすっかり眠ってしまう。いけない。
 慕う人々ばかり表彰されていて、久し振りに深く呼吸ができた。そのときの空気を出来るだけ吸っておきたいと思っての、無意識の癖。

 担任の先生方の話になんだか心が震えますね、散々授業中寝てたのにね、都合が良いです。多分、僕の気付かないところで支えてくださっていた場面があった。鳴かず飛ばずだったが、学生の短歌賞に応募する相談をしたときには、五クラスの担任全員が応援してくださった。学校の法人全体の文学賞で小さな賞を取ったときは、穏やかな笑顔でことほいでくださったな、と頭の中のスクリーンにその記憶を写しています。擦りきれないでほしい記憶のフィルム。

 式が終わって、幾人もの同級生と写真を撮る。着物に身を包んだ方々で華やかな会場のホワイエを駆け巡る。取り敢えず、そのときは撮りたい人全員と撮れた気になっていたが、いまこうして書いてみると、何人もの顔が脳裡に浮かび上がってくる。また会えるだろうか。これからは、会う約束をしないと会えなくなる。さみしいわけではないが、別れという言葉が、この二文字には収まりきらない欠落を予言している。それは一概に悪いことでも、残念なことでもないのだけれど。

 帰りに読みたかった本を買う。新宿紀伊国屋。山田詠美さんの『私のことだま漂流記』と三木成夫さんの『内蔵とこころ』。
 いまどちらも三割ほど読んだが、大切な本になる予感、予定。

 

 ヘッダー画像はハクモクレン。見掛けると嬉しくなる植物のひとつ。


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