短編小説 その思いは例えるなら淡い月の雫のよう
カテゴリー
①現代 ②ヒューマンドラマ
キャッチコピー
約3分ほどで読み終わる、軽快なマーチのようなショートストーリー
あらすじ
月野雫は深夜ホテルで本を読んでいた。
翌日のことを考えると眠れないし、純粋に読書が好きだったから。
もやもやとした気持ちを抑えきれず、彼女は深夜、目的地に出かけることに。
彼女の目指す目的地とは?
参考
アニメイトブックフェア2021『耳で聴きたい物語』コンテスト用作品
『小説家になろう』に投稿中→https://ncode.syosetu.com/n9889gz/
「……こうして少年と少女は旅立った」かあ……。
「あー、面白かった!」
背伸びをし、しばし、物語の余韻に浸る。
月野雫は小説を読み終え、体勢を仰向けから、勢いよく正面に向ける。
そのためか、ギシリ……と白いベッドからきしむ音が聴こえ、彼女の長いシルクのように滑らかな黒髪は夜の海の波の如く、静かに波打つ。
ふと、窓の外を見る彼女の黒い眼には、煌びやかな夜のネオン街の光、そして淡く輝く月が映っていた。
そして遠目で見ると、まるで蛍の光のように淡く緩やかに動く、複数のカーライト……。
綺麗で魅力的な風景なんだけど……ね。
しばし、目を瞑るつぶ月野雫。
ベッドから両足を勢いよく、天井に向け振り上げ、そのままホテルの床に勢いよく着地する月野雫。
白のスカートがマントのようにフワリとはためき、身軽で小柄な彼女の動きとその様は、さながらやんちゃな白猫のようであった。
「にゃんっと!」
本人も自覚があるのか、さながら猫のような口調。
そして、素早く白い靴を履き、好奇心旺盛な白猫のようにホテルの外に飛び出す彼女。
「正直、明日まで待ちきれないよね!」
彼女は目的地に向け、軽快なステップを踏み歩きだす。
彼女の目的地は通称『有明』と呼ばれるサンクチュアリ……。
気分は上々になり、軽快なステップと共に思わず鼻歌を口ずさむ彼女。
「フンフンフン♪ フンフンフン♪ フンフンフンフンっと♪」
明快なリズムを刻むその様は、さながら行進曲マーチのよう……。
しばらくすると、彼女は目的地にたどり着く。
逆ピラミッドが四つ並んだような、独特な形をした会議棟を目印にすれば間違えることはまずないのだ。
「えっ?」
彼女は思わず驚きの声を上げる。
それもそのはず、夜なのにそこ周辺が人の賑わいを見せていたからだ。
そのためか、周辺施設の青や黄色のネオンの輝きが一層煌びやかに見える。
「……もしかして、前夜祭のイベントかしら? なら、せっかくだから楽しまなきゃね⁈」
お腹がすいたら各コンビニが揃ってるし、流石に深夜にレストランは空いてないでしょうし……。
彼女は明々と輝く月を眺めながらそう思うのだった。
イベントが行われている建物の中に入り、人混みにまみれ様々なイベントとブースを見ていく彼女。
「この本はどうだい? 鮮やかな色と感情を感じ取れる作品だよ?」
「この作品はゲーマー目線で書かれた作品なんだ! どうだい?」
などなど宣伝も熱心的だ……。
電子モニターには販売本の紹介が流れ、客の購買欲を駆り立てていくし、彼女もその例外ではなかった。
「うわあ、どの本を買おうかなあ……」
散々迷った挙句、数冊の本を購入することに。
そうこうしているうちに、彼女のお腹が軽くクーッと鳴く。
そう言えば、本を読むのに夢中になっていて、夕飯代わりにちょっとしたお菓子しか食べていなかったことを思い出す。
急いでコンビニに入り、悩む彼女。
ふと、ドーナツに目が行き、無難なオールドファッションを買うことに。
彼女は外に出ると、月のようにまん丸いそれを手に取り、じっと眺める。
「では、いただきまーす!」
♢
「ん……」
シトシトと静かに降る雨音で月野雫は目を覚ます……。
「夢、かあ……。しかも、大分先の夢だよ……」
なぜならまだ梅雨があけていない。
そして、薄いピンク色の自室のベッドが現実を彼女に見せる。
(ホント、今年はどうなるんだろうね、ブックフェア……)
ただ、分かってることは何かしろの形で開催されるということ。
そして、今年も新しい本が沢山生まれるということ……。
月野雫は枕の横に置いてある本を見て、そう思うのだった……。