見出し画像

大人になっても友達のできる町

大人になって友達を作るのは難しい。

……と思っていた。

この場所に来るまでは。

僕は人口4万人程度の町、糸魚川市というところに住んでいる。

約二年前に移住して来た。

僕の印象ではど田舎というところまではいかず、適度に田舎だと思う。

チェーン店はほとんどないが、地域で幅を利かせているスーパーマーケットがあったり。

映画館などのレジャー施設は皆無だが、パチンコやカラオケはあったり。

おおよそ観光地とはいえないが、ちらほらと観光名所と呼ばれるところがあったり。

古い建物が多いが、火事の焼け跡に東京にもありそうなモダンな施設があったり。

田舎は田舎だ。

けれども、人口も4万人程度はいるし、過疎地域というほどでもない。

新幹線駅もあれば、金沢や上越につながるローカル線が走っていたりもする。

ちょうどよい田舎なのではないかと思っている。

そこへ住んでいると、けっこうな確率で顔見知りに遭遇する。

何かの集まりに出ようものなら、

「あれ?この人どっかで見たことあるな?」

という人が、必ず一人や二人はいる。

そうすると、

「あのときの〇〇さんですよね?」

というところから他愛もない会話が始まり、人となりが垣間見えてくる。

それを何度か繰り返しているうちに、自然と友達になっている。

ということが、往々にして起こっている。

今日も町のコミュニティスペースでパソコン仕事をしていると、友人に偶然出くわした。

何も約束をしていないのに、ふらっと友達と顔を合わせられるのがこの町だ。

そんなことは、学生時代にしか起こらない。

大人になってからは、職場が違えば飲みの約束などをしないと基本的にはエンカウントしない。

会うためには約束が必要なのだ。

けれども、この町では約束なしに出会う。

それが僕の気に入っているところだ。

先週の木曜日はカレーを食べていたらふらっと友達が現れて、そのままカフェでお茶をした。

今度どこそこのカフェでお茶をする、という約束もいらないのだ。

「あそこに行けば誰かがいる。」

というような感覚がどの場所にもあって、行くと大抵その人がいるか、あるいはそうでなくても別の誰かがいる。

そうしてそのまま駄弁ったり、お茶をしたり、飯を食ったりする。

(僕はあまり飲まないので、そのまま飲みに行くことは少ない。少ないが、多少はある。)

その行き当たりばったりな感じが、心地よい。

行き当たりばったりでも行けるように、あまり予定を詰め過ぎないようにしているまである。

というよりも、行き当たりばったりでどうせ会うので、予定をしようという気にならない。

今日会えなくても、明日会える。

そんな感覚が常にある。

それがとても心地よい。

僕は予定を入れるのが苦手だ。

なぜなら、その日のその時間になるまで、自分の気持ちがわからないからである。

飲みの約束をしたとする。

数日前から楽しみにしていたのに、その当日に突然めんどくさくなったりする。

そして、その気持ちに抗うのがかなり苦痛である。

だから、約束をあまりしない。

とくに遠くの予定になればなるほど、約束をしたくなくなってしまう。

結婚式などはその典型で、下手すれば半年後くらいの予定をロックされる。

「半年後なんて、自分がどうなっているかもわからないのに……。」

そんな気持ちがどーっと押し寄せてきて、お断りをしてしまう。

しかし気持ちがないわけではないので、結婚祝いだけ包ませてもらう。

それで許してほしい。

ビッグダディじゃないが、俺はそういう人間だ。

その結果、大好きなミュージシャンのファンクラブも退会した。

コンサートのチケットを取るのも、数ヶ月も前に決めなければならないからである。

そしてさらに、当選するか落選するかの結果が出るまで、そのスケジュールを空けておかなければならない。

ファンクラブを退会したら、身軽になった。

会報誌もとどかないし、ライブのお知らせも来ないし、会費の請求もこない。

あらゆることから解放された。

僕は身軽であることが何よりも心地よい。

予定はできるだけ入っていない方が嬉しい。

やるべきことが何もなく、今から何をやってもいいという状態が僕にとっての幸福だ。

そんな僕からしたら、この町はとても心地がよく住みやすい。

わざわざ打ち合わせの予定を入れなくても、ちょっとしたことなら2,3日以内には伝えられる。

どうせどこかで会うからである。

そういえば今日も偶然取引先の人と会い、スケジュールを決めたり、ざっくり話したりした。

そういうことが結構な頻度で起こる。

たぶん明日も誰かに会う。

わざわざ約束をしなくても、ぶらっと会えて、気が付けば友達になっている町。

大人の友達が自然にできる場所というのは、意外と貴重な環境なのかもしれない。

いいなと思ったら応援しよう!

今野直倫
良かったらサポートしていただけましたら幸いです!記事更新の励みになります!