往く日々と夜(9)(R18)
第九章 創作実験(下)
作者MiyaNaoki 翻訳sekii
城戸は三本のろうそくに火をつけ、ずらりと一列にならべた。ろうそくがきらきらと、ぎっしりと詰められた道具戸棚を照らした。ろうそくの火がゆらゆらとゆれて、城戸の心もそうだ。
木島の弱々しい呼吸音が、彼の背後から伝わってきた。この異常な実験を続けるかどうか、城戸は木島の体を少し心配し、自分の行為の正当性を疑い始めた。また、この変態に近い行為の中で、自分の興奮と衝動が本当に合理的かどうか、彼にもわからなかった。
「これを使うのぅー」
木島の声が羽根のように飛んできて、城戸の考えをかき回した。彼は黙ったまま、返事をしなかった。
木島はその時間を長く感じて、またあっという間にすぎたような気がした。
「使いたいならば、かまいませんよ .....」
その言葉は、まるで呪文のように、城戸の心を射止めた。目の前のろうそくのほのが、ぴくりと動いて、この薄暗い室内で、ますます何かの合図のように見える。
彼は木島の無頓着さに動悸を覚え、また怯えることもある。木島がそう口にすると、城戸の負い目はますます濃くなり、調教者としての立場をますます失ってしまう。ただ、さっきの言葉に無視してはいけない真意は、あなたの好きなようにしていいよ、ということだった。
まったく…人を残虐にする呪文だ。城戸はろうそくでタバコに火をつけて、肺の奥まで吸いこんだ。城戸の理性が燃やしつくされたようだ。それによって、彼はようやく、このプレイにおいての役を忠実に遂行していった。
「あれが欲しいか?」
城戸は振り向いて、黙ってタバコをふかしていたが、タバコがほぼ全部灰に化して落ちてから、さっきの低い声で尋ねた。木島はあおむけになって、開いたままの姿勢で、手足の縛りは解けていたものの、さっきの姿勢を保っていた。黒い浴衣がぐちゃぐちゃに下敷きになって、責められた乳首はまだ赤く腫れていて、体に何かの跡が残っていた。あれほど狼狽して穢れていた模様だが、その青い唇と漠とした表情のために、どこか超越した神聖さを示していた。木島は城戸の方を向いたまま、何も言いなかったが、その澄んだ瞳には、ろうそくの灯りのように、切実な光が輝いていた。
城戸はタバコの火を乱暴にもみ消すと、口もとをつりあげてにやにや笑いながら、これまでのさまざまなプレイで乱れた袖口を直しながら、再びあの呪いをかけられた椅子に近づいていった。一歩、二歩と、まるで末日のカウントダウンのような足音が、部屋の中でははっきりと聞こえた。
彼は俯いて木島のあごを持ち上げ、二人の唇をぎりぎりまで近づけさせる。木島は引きずられた人形のように、必死に近づいてきて、ふんと唇を少し開いて、今にも起こりそうなキスに合わせようとするが、それは起きなかった。城戸は妙に冷静そうで、余裕たっぷりに木島を見ながら、少し曲がった口許には、どこかでけなすような笑いが湧いている。
木島は少し戸惑ったように城戸を見つめ、唇を引き結んでゆるめ、また引き結んだ。呼吸が再び荒くなった。それは道具や手段のせいではなく、単に見慣れない城戸の暗い気配のためだった。
「木島先生は節操がないね……創作のために」
城戸が手を離すと、木島は魂が抜けたように無気力に倒れた。それでも城戸は少しも止まることない。木島は開脚させられ、骨盤までガタガタと音を立てた。また、城戸は驚くべき大きさの道具を、さっき引玉でごちゃごちゃになった穴に突き立てた。
「い…いや…うむ」
木島はその異様な太さを感じて、本能的に身をすくめて逃げようとしたが、その太ももが乱暴に押さえつけられた。
「だまれ!」
城戸の冷たい声は木島の心を痛めつけて、体全体がギュッと締まった。そのとたん、穴の入り口にあてられていたものが、いきなり、横暴に突き刺さってきた。
「ああっ…うむ…ふん」
木島は悲鳴を上げて泣き出し、丸まってぶるぶる震えた。目が涙でいっぱいになり、頭の中では何かが鳴いていた。肉が切り取られ、皮膚が剥がされ、繊細な神経だけが剥き出しになり、さらなる暴虐の洗礼を受けていた。痛みと興奮のリンチの現場だった。
ようやく混沌とした意識を取り戻した時には、木島は首に赤い糸が巻かれたのに気づいた。目元に涙が残っていたが、口元には薄ら笑いが浮かんだ。どんなにつらくて低俗なことであっても、城戸に自分にひどいことをしてもらい、狂気をもって互いを苦しめること自体が、けっこう芸術性があることを木島は認めなければならないのかもしれない。
「うむ…うん…」
下半身が満たされているのに動きのない停滞感と、ますます欲望の淵に沈みたくなる強力な誘惑のせいで、木島は思わず鼻息を漏らした。
城戸は木島の水が溜まる鎖骨のところで結びを結んでいた。木島の気配に気づくと、城戸はふふんと笑って手を離し、小さなスイッチを入れた。木島の股間から、ジッジッ、またブーンという音が聞こえてきた。冷たくてうるさい音とともに、小さな電流が木島のもう敏感に調教されてきた内壁を刺激し続けた。我慢できず、どこか致命的な突起に突き当ると、急に滅頂の快感が襲われた木島は唇を噛みしめようとしたが、放蕩な呻き声を封じ込めることはできなかった。
「こちらが完成するまで、こいつに面倒を見てもらうぞ」
城戸は電流の大きさを調整して、木島の体内の振動棒が絶えずに刺激を与えても、満足にいかせないという微妙な周波数になるようにした後、持っていたロープを引いて木島を立たせ、縛る作業を続けた。
木島は体中に流れる電流の震えに打たれて、足が柳の枝のように弱くなって、とても踏ん張りようがなかった。足が地面についたとたん、心を痛めるような痺れが這い上がってきて、それで倒れ込んだ。木島は呻きをしながら、黒い浴衣に半分覆われた胸が波を打っていた。
「起きろ」
城戸がロープを引いた。冷たい声だったが、あまり力は入っていなかった。それを聞いて、木島は顔を上げた。涙に濡れた目で、しばらく城戸を見つめていたが、自分の首に繫がれたロープを見てから、ゆっくりだが、順従に膝を開いて、地面にひざまずき、手を地面について支えた。再び顔を上げて城戸を見ると、その目には媚びるようでいとしさが溢れる。
「これで…いいんですか。」
城戸は心の中で溜め息をついてから、木島の濡れた前髪を揉んだ。
「じゃあ、自分から動くぞ。ほら、通せ」
木島は言われたとおりロープを受け取ると、まるで従順な奴隷のようにその真っ赤な刑具を自分の股の下に通して、後ろにいるご主人様に渡した。
浴衣が城戸によって引きちぎられ、袖だけがぶらさがった。木島の裸の肩や背中は、明滅する光の中で魅惑的に輝き、赤いロープが締めつけられ、肌の中に深く入り込んで、血と肉の一部となりそうだ。城戸はわざとゆっくりと引っ張り、いじりながら、頑丈で粗いロープが木島の股をくぐり渡って、二つに分けてちょうど木島の欲棒を挟み込むようにした。そもそも体内の絶え間ない痺れでわずかに立っていたところを、ロープの摩擦で、欲棒は急に大きくして、紐の間にしっかりと食い込ませた。
突進してきて抑えつけられた快感に、木島は思わず前のめりになった。突然、城戸は木島の欲棒に透明なリングをはめ、きつく拘束した。欲棒がパンパンに腫れ上がったが、解放できない悶絶で、木島はたまりかねて地面に突っ伏すと、しめつけられたロープによろよろと引っ張られた。
「うむ…ああ…うん」胸の結び目からロープが繰り返して通され、巻き戻され、引っ張られた。その度、玉袋の両側にはめ込まれたロープが、最も敏感な部分を擦って、いちいち痛めつけ、錆びた鋸のように、引っ張り続けていた。
木島は自分が少しずつ真ん中から切り離されていくのを感じていたが、拷問のリズムに合わせて頼りなく砕けた音を立てる以外には何もできなかった。自らが求めた実験だから。
肩の下にもう一本のロープをつけて木島の腕の自由を奪うと、城戸は後ずさりして距離を取り、作品を鑑賞した。彼の欲望はもう満杯になっていて、息が熱くなっていた。すぐにでも実験を中止して、完成するまで本題に入らないように、ずっと辛抱をしてきた。
しかしいま、城戸が夢中になっている様子は、わざとしたものではなく、赤いローブに縛られた木島が異常に美しく、ロープの絡み合っているのと、清楚で美しい肉体と相性がよく、体が熱いせいか、木島はうっすらと汗をかいて、赤玉のように透き通っていて、まるで努力とインスピレーションの凝縮された芸術品のようだった。
この画面をさらに美しくする責任があると、城戸が考えた。
さっき火をつけられたろうそくは、もう盛んに燃えていて、きらきらと光る涙をたたえている。城戸はろうそくを傾け、自分の手の甲に垂らした。焼けるような痛みに冷気を吸い込み、彼はまた少し躊躇した。
「何を待ってるんだ……」
木島はかすれた声で促したが、弱々しいが、それでいて彼なりの高潔さと強情さがあった。
よし…今日は理知も何も燃やしてやろうと城戸は思った。彼はすばやく木島のそばへ来て、しゃがんでろうそくを近づけたが、そのろうそくの跳ねる光が木島の顔に映った。明滅の中で、木島は両眼を少し閉じて、睫を呼吸のように震わせながら、その滲む熱気に身を浸していた。
赤い、熱いロウが、木島の剝き出しの肩や、鎖骨や、胸や、下腹に落ちた。木島は最初歯を食いしばり、震えながらそれを受けていたが、その暴虐の雨しずくが、ますます熱く、ますます激しく、鋭敏な欲棒の先端にまで落ちてくると、彼は訴えることもできず、本能的にもがいて避けようとした。逃げる場所がないから、ひりひりとした痛みが皮膚の上で裂け、広がり、連なり、まるで全身が爛れていくように痛んだ
錯乱した意識の中で、木島は床に押し倒されているのを感じた。腕と一緒に縛られた浴衣が引き裂かれ、最後の遮るものを失った。多くのロウが滴り落ちるのにつれて、激痛が臀の隙間に入り、バイブの震える痒みと合わせて、木島は恐怖に喘ぎながら逃げようとしたが、縛られてどこにも逃げられないことを忘れた。
城戸も痛みを想像した。木島が涙を浮かべてうずくまっているのを見ても、サディストとしての快感を感じていなかった。ついさっきまで少し納得していたはずなのに、その奇妙な愛の楽しみ方に直接的な生理的反応まで感じていたのに、ここまで来ると、もう行き止まりのような気がした。
「うん…うむ……」
木島は床に伏して、息を切らしていた。その縛られた体には、赤黒い色が一面に広がっていて、皮膚から滲み出た血のように乾いて跡を残した。
城戸は、その衝撃と、自分の心の震えを感じながら、ため息をつき、手にしていたろうそくを吹き消した。あたりの闇が、ふっと深くなった。いま何時なのか、いったい何時間、罪の部屋にいたのか…を、城戸は思わず考えた。
「さっきから木島先生は、何も感想を言ってねいね…これからは、ちゃんといわせないと」そう言いながら城戸は、部屋の反対側まで来て、あぐらをかいて、少し離れたところから、苛められている木島を眺めた。木島は起き上がれなく、肩を地面に押しつけてもがいていた。
「おいで」
城戸はその日の最後の命令を言った。木島をこれ以上待ちきれなかったのだ。城戸の心臓の騒いでいる鼓動と転がる喉仏は、無限の渇望を訴えていた。
木島はやっとの思いで顔を上げ、城戸の方を見たが、ぼんやりとした影のようなものしか見えなかった。もともと視力はあまり良くなく、こんなに長い間振り回されていたせいで、目は涙で赤く腫れていて、見渡す限り、霧がかかっていた。しかしそんなぼんやりとした姿でも、木島に心が安らかで懐かしく感じられた。これは創作のための実験に過ぎないが、木島の心の奥底には、あの人に支配され、突き動かされたいという欲求があるような気がしていた。
木島はその影に向って、すこしも恥辱を感じない卑賤の奴隷のように膝を這わせた。ロープにしばられて、体が動きにくい。黒い木綿に蔽われた二本の長い白い足が力を入れて這って、擦られた膝の皮膚や、痛むばかりの欲棒、縄でしめつけられて腫れた突起まで、地面を擦ったり引っぱったりして、そのたびに体が震え、気が狂いそうになった。後穴の振動がさらに強くなったらしく、にじみ出た汁が、体の下に水の跡を残した。絶え間なく続く、セクシーな息づかいは、木島の心と体の、それぞれの苦しみや喜びから生まれたのだ。
木島は終始城戸に向けて、その瞳には深い哀しみと耽溺の色があふれていた。
この過程は、二人の関係にいる木島の境遇に似ていた。こんなふうに情けなく束縛され、ボロボロになっても、体面を顧みず、必死にその人のところへ行こうとしている。プライドが地面まで落ちて、粉々に砕き、尘にまみれた。それでも、この幻想の楽園に甘んじて囚われて、城戸の哀れな同情と欲望に頼ってかろうじて妄想を満たしていた。
自分が哀れになればなるほど、向こうは手放さなくなるということを、彼はよく知っていた。それは本質的には、感情の自虐商法なのだ。それは愛か。木島も戸惑っていた。それが愛ならば、なぜ世の人は愛を称えるか。
木島は自分が行き過ぎ、その極端な境地に迷いこんでいることを知っていたが、その卑屈さと自己憐憫に身も心も包まれて、傷つきられると同時に、楽しんでいる。城戸が見えた。城戸の姿がだんだんはっきりするようになり、城戸の葛藤しながら慈しむ表情が見られると、木島はあなたはもう嫌なんだろうね、もう終わらせたいだろう、と心の中でこの親しくて変な関係を嘆いていた。
そうだ、感覚を言わせられた。じゃ、いうよ。
「ほしい…ほしい……ここで死んでも、死んで悪魔になっても、いまはほしい……ほしい……死ぬほどほしい…」
木島が心を惑わせた呪文を言い出し、拘束された姿で城戸の股間に這いずり、見上げていると、城戸は欲望の波を抑えることができず、木島の首のロープを摑み、木島を自分の胸に引き寄せた。前のタクシーの中で急に感情が動いたかのように、力いっぱい木島を抱きしめて持ち上げ、股間に座らせた。彼の鉄のように固い肉棒と密着させた。
城戸にとって、木島は吸引力が強すぎてすべてをを飲み込むブラックホールようだ。木島は一瞬にして城戸に自分の理性や形、この世界で存在する理由を失わせることができる。木島と一体になる以外、城戸は他の選択がない。
木島はとっくに欲望に燃えきっていて、目つきが熱くなり、呻き声を漏らし、腰をくねらせ、立った欲望で城戸の腹部の筋肉に触れ、淫靡な線を描いた。
「ふう……ふうふう……うん」
城戸はますます呼吸を荒らげ、立った肉棒が荒々しく騒いでいる。木島のアソコに入った振動棒を素早く抜き取り、自分のものに取り替えた。十分に調教されたアソコは、城戸のふとい肉棒をすんなりと受け入れ、経験を積んだ柔らかい肉が、やわらかくまとわりつき、城戸をさらに熱く湿った奥へと誘った。
たまっていた感情が城戸の意識の中で爆発した。それまで、城戸が直視できないような、自己嫌悪的な、木島への加虐的な欲望が、洪水のように一気に溢れ出した。彼は木島の背中のロープをつかみ、引っ張ってから押し、ぐいぐいと彼の体を出入りし、木島が最も抵抗できない点に向かって、まるで木島を突き破るかのように、正確に、そして乱暴に突き抜けていった。
情事の渦の中で乱され、蹂躍されながら、木島は自分が柔らかいクラゲのように感じられた。考える力もなくなった。どんなに激しくて下品な道具も、城戸の肉棒には敵わない。城戸が自分の中にいると思うだけで、木島は興奮して頭がくらくらして体が縮んでしまう。城戸だけが木島にこのような心身二重の快楽を与えることができる。木島は果てしのない幽霊のように、輪廻を顧みず、肉身を顧みず、絶頂の歓愛だけに耽溺した。
満たされた充実感、体内の熱波の激しい流れで、木島はたちまち欲望の頂上へと押し出されたが、束縛された欲棒は解放されなかった。浮き立つような、切迫した痒みが、骨を蝕む小さな虫のように、彼の背骨を這い上がってきて、彼の残り少ない意志をかじった。
彼は暴走したように首を振り、腹立ちまぎれに城戸の肩に噛みつき、唇の歯の間に鉄の匂いを浮かべました。彼はその固い肩に埋もれ。その夢中させられる体の匂いを呼吸していた。
「お願い…お願い…」
何を願ってのかは言い出せなかったが、その人ならわかると木島は信じる。
恐ろしいほど深く突き刺しの後、城戸は唸りながら熱い情液を木島の奥に注ぎ入れた。それと同時に、城戸はそのリングを外し、木島を失神したような震えの中、彼と一緒に欲望の頂点に登らせた。
彼らはあの恐怖の深淵の縁から再び逃げた。疲れや幸い、解放した後のショックの余波で、二人は下半身はしっかりとつながったまま長い間抱擁の姿勢を保っていた。
「ああ…なんでここまで…」
混沌の中からゆっくりと目覚めた木島は城戸のがっかりした呟きを聞きながら、ゆっくりと目を開けると、そばに置かれた汚れた浴衣や、汗と体液で濡れたロープが見えた。セックスでバラバラになった木島の体は、無理やり集まり、城戸のさらりとしたコートに包まれ、城戸の腕にもたれかかっていた。妙に幸せそうに、木島は唇の端をつり上げた。
「それはもちろん、本を書くためだ…」
木島は自分でも信じられないような軽い調子で、わざと気のない返事をした。城戸のふところに身をすくめて、まだ使われていない壁にかかったムチや、手錠、またその他の獰悪な道具を見まわして、からかうように、つぶやくように言った。
「ねえ…今度、あれをやってみませんか」
今度?城戸はこめかみがぴくりと跳ねるのを感じた。
「勘弁してください、木島先生。今日の体験でなんとかしてたっぷり書いてください…」
「へえ、いやか?」
木島は城戸の胸にふわりと頭をもたせかけ、自分のぐったりした腹や足の付け根を撫でた城戸の熱い手を楽しんだ。結局、自分はこの優しくてきちんとした城戸がもっと好きか、それともあの残酷で冷淡な城戸に夢中か。木島は依然としてはっきりわかっていない。
「好きなんか…正直、差別ではないか、僕にはそういう趣味がないんよ。あんなことをするより、自分で解決したほうが好きなんだ」
城戸は呆れたように軽く笑った。
本当のことをそのまま言った城戸と比べて、木島は自分の細かいように見える思索が、ひどくきざでつまらないものに見えた。木島は嫉妬もしたが、歓びもした。やりすぎてくたくたになっていた体も、城戸の一言で急に締まった。
べつに美しい言葉でもあるまいと、心の中で自嘲しながらも、彼は思わず顔を上げて、惚れ惚れとしか言いようのない眼つきで、一心に、深く、好きな人を見つめこんだ。
二人の唇は、また、抵抗しようもない引力によってくっつきあった。部屋にあるすべての情欲の道具までも、沸き起こった愛の色に染まる。