【二次創作】列強戦線IF物語~蓮一奮闘記、アルビーを笑わせ隊~
注意書き ※必読
・うるまなつこ様のポストの中で、寛大にも二次創作・ファンアート・コスプレなどを許可するポストを見かけたため、制作に取り掛かりました。
・列強戦線のネタバレを含みます。
・本編のある事件がなかったら、こんな物語があったかも? などと妄想しました。
・キャラ崩壊もあるし、思ったよりずっと長文になったので、寛大な心の持ち主に読んでいただけると幸いです。
・最後に……なんかいろいろすみませんでした!! でも、魅力的な登場人物たちの二次創作を書きたい気持ちに負けましたorz
プロローグ:邂逅
新宿駅構内の人だかりは特筆すべきものがある。
五社局・十一路線が乗り入れる大型ターミナルで、常に大量の人が行きかう。新宿西改札も例外なく人込みであふれていた。東西自由通路は賑やかだ。
そのくせ、人同士がぶつかる事は滅多にない。互いに素通りするのがうまいのだ。互いに興味を抱く事もなく、たまたま目が合っても、素知らぬ顔して忘れ去る。
そんな中で、集団の目を惹く人物が柱にもたれかかっていた。
中央部が紺色で腕の部分が白いツートンカラーのジャンパーを身に着け、ズボンは内側が灰色で外側が白というこれまたツートンカラーであった。
背格好は華奢と言って差し支えない。身長は高いが、遠目では性別が判然としない。
しかし、くせっけのある金髪は異国の人間であると確信させる。
興味本位で近くに寄る人間はいた。神話に出てきそうな美少年であると分かると同時に、誰もが青ざめた表情を浮かべて、一瞬で離れていく。コバルトブルーの瞳のぎらつきに気づいて、本能的に逃げ出していた。
一人の男が、金髪の少年を指さす。
「あいつ知っている! アイビーとかネイビーとかだよな」
ざわつきが起こる。微妙に間違っているのだが、認識は共有されているらしい。
「イギリスの代理英雄だよな!? なんでこんな所に」
金髪の少年は舌打ちをした。不愉快さを隠すつもりは無い。
その様子を察したのか、男は口元を押さえて走り去った。
「……雑音」
金髪の少年アルビー・ヒドルストンは呟いて、スマホの時間が刻まれるのを見つめていた。
事の始まりは一通の手紙だった。
亡国決定戦第一試合から数日後にA4サイズの封筒が届いた。差出人は西苑蓮一であった。蓮一は日本の代理英雄であり、祖国の勝利を導いた。
アルビーの対戦相手であった。
そんな彼がどのような意図があって、どのような経路を使って封筒を届けたのか定かでないが、宛名の傍に意味深な言葉が記されていた。
”アルビー以外の人間が開けたら呪われるから気を付けてくれ”
「俺が開封しろという事か」
アルビーは事も無げに封筒の中身を取り出す。
日本語がびっちりと書かれた手紙が入っていた。
ソファーに腰かけて、冒頭に目を通す。
”アルビーへ
この手紙を読んでくれる事に感謝する。本当は君の国の言葉で書きたかったが、時間が無いから俺の母国語で書く。分からない言葉があったら頑張って調べて欲しい。なお、この手紙は三秒後に爆発するという事はないから安心してゆっくり読んでくれ。”
「……こっちの忙しさはお構いなしか」
アルビーは舌打ちをして続きを読む。
”朝の十時に新宿西改札に集合してくれ。中央西改札でもなく、大江戸線新宿西口でもない。品川駅でもないから注意してくれ。日にちは任せるけど、今月中によろしく。”
「こいつ、断る権利を認めないつもりか? 今月はあと五日しかないし……」
眉間にしわが寄っていく。
イギリス首相が心配そうに見つめてくるが、まずは手紙の全文を把握する。
”ここからが大事だ。日本は銃も刃も持ち込みが認められていない。武器を持っていたらすぐに捕まってしまうから、気を付けてほしい。それと、変装はやめてくれ。君が忍者に扮したら俺は永遠に見つけられないだろう。”
アルビーは眉一つ動かさずに続きを見る。
”護衛を付けてもいいけど一人で来てくれると嬉しいな。日本に来る日にちが決まったら以下のアカウントにプライベートメッセージで連絡してほしい。迷惑なアカウントと区別するために、必ずアルビー・ヒドルストンと名乗ってほしい。名乗る前にヤッホーとか付けてくれるとありがたいな。逃げたら承知しないよ”
「ヒドルストン、なんて書いてあった?」
イギリス首相が恐る恐る尋ねる。
アルビーは舌打ちをする。
「日本に俺一人で来い、武器の持ち込みは認めないと書いてある」
「な……!? まさか、亡国決定戦で我々が日本の代理英雄の身柄を要求した仕返しか!?」
イギリス首相の顔が青ざめる。
「ヒドルストン、あなたは我が国の守りの要だ。今もイギリスの平穏は脅かされている。どうか賢明な判断を……」
「分かってる。断るつもりだ」
「連絡を入れる価値もないと思うが……分かった。好きにしてくれ」
心配そうなイギリス首相をよそに、アルビーはスマホを取り出す。
蓮一が何の考えもなく会いたいなんて言うはずはない。
指定されたアカウントにメッセージを入れる。
”ヤッホー、アルビー・ヒドルストンだ。要件は何だ?”
返信は早かった。
”会った時に話すよ”
アルビーの片眉がピクリと上がる。
蓮一の思惑は気になるが、相手の掌で踊るわけにはいかないだろう。
日本に行く気はないと打ち込もうとした。
次の瞬間に思わぬメッセージが来る。
”怖かったら来なくていいよ”
「は?」
アルビーはスマホに向かって威圧した。
露骨に雰囲気が変わったのを察して、イギリス首相が声を掛ける。
「挑発されたのか?」
「……うるせぇよ」
全く怖くないと言えば嘘になる。しかし、そう思われたまま放置するのは癪だ。
「三十一日に日本に行く。それまでに、敵という敵は殲滅しておく」
「本気か!? 頼む、冷静になってくれ! あなたにもしもの事があったらイギリスの防衛が困難になる! そもそもどうやって日本に行くつもりだ!?」
「黙ってろ! 亡国決定戦で南極に行った方法で日本に行けるだろ!?」
コバルトブルーの瞳がぎらつく。有無を言わさない剣幕に、イギリス首相は冷や汗が止まらない。
こうなると、アルビーが意見を曲げないのを、イギリス首相は分かっていた。
「くれぐれも、くれぐれも気を付けてほしい」
「分かってる。いざって時には日本国民を全滅させてやる」
「ガイアが認めるだろうか……?」
「亡国決定戦でないから、俺の身に危険があれば日本にペナルティがあっていいだろ」
こうして、アルビーは新宿に行く事になった。
「……なんで俺が先に来ている?」
アルビーの口から不満がこぼれる。
時刻は十時を五分すぎた頃だ。
「蓮一が約束を破る子には見えなかったが……来ないなら仕方ない。帰るか」
そう口にして柱から離れると、慌ただしい足音が聞こえた。
足音のする方に目をやると、黒髪の少年が息せき切って走っていた。黒いシャツに、黒いズボンと全身黒ずくめなのだが、愛嬌のある瞳のおかげで親しみやすい雰囲気がある。
必死な形相で走っているが、どこか小動物のように可愛らしい。
その少年が西苑蓮一だとアルビーが認識するまで、時間を要しなかった。
蓮一はアルビーの前でパンッと勢いよく両手を合わせた。
「ごめん、迷った!」
「おまえが指定した場所なのに」
「鋭い所をついてくるね」
「当然の指摘だと思うが……」
アルビーは金髪をかいて、溜め息を吐く。
「無駄に時間をつぶすつもりは無い。さっさと要件を聞かせろ」
「そうだね、話す約束だったね」
蓮一は勢いよくアルビーを指さした。
「君のミッションはこうだ。今日は遊び倒す事! 以上!」
「……本気か?」
アルビーの瞳に、鋭い光が宿った。
前編:アルビーが笑わない
あれ?
おかしいな、盛大に滑ったのか?
俺、蓮一は受け入れがたい現実に直面している。男の子ならみんなミッション・イン〇ッシブルのネタは受けると思ったのだけど……。
アルビーの眼光が鋭いし、心なしか気温が下がっている。周囲の人も怯えているし、どうすれば彼の機嫌を直せるだろう?
考えても仕方ない。まずは尋ねてみよう。
「怒っているのか?」
「当たり前だ。くだらない用事で呼びやがって」
「くだらないかな? 考えてほしい。人は遊んでいる間は戦争ができない。遊びは世界を平和にするよ」
俺の言葉に、アルビーが露骨に舌打ちをする。
「ふざけるな。俺たちの国がいつ壊されてもおかしくないのに」
そうだ。
アルビーはイギリスの領土を守る要だったし、大切な人の世界を守る決意をしていた。しかし、亡国決定戦で俺に負けた事で、敵が勢いづいてしまったのかもしれない。
だが、それは想定内だ。
「君の言いたい事は分かった。安心してよ、対策済みだから」
「対策?」
アルビーが眉根を寄せる。
俺は努めて明るい声を発する。
「父さんに言って、君がこっちに来ている間に日本国内最高峰の特殊部隊を派遣してもらっている。君たちの国は安心だ」
「俺が信じると思うのか?」
「嘘だと思うなら、イギリス首相と連絡を取ってみるといい」
アルビーはすぐにスマホを耳に当てる。
怒りに満ちていた表情が、驚きに変わっている。
俺は堂々と胸を張った。
「信じてもらえたか?」
「……おまえはそれでいいのか? 日本の防衛が手薄になるのに」
「安心してよ。俺を誰だと思っている? 東・西・南……」
俺は勢いよく右、左、下と腕を振る。
「ボク、蓮一!」
「北はあっちだよな?」
俺自身を指す親指が虚しく震える。
「アルビー、ちょっといいか? 今のは北という意味のボクと、一人称のボクをかけたジョークなんだ。本気で北を指すものじゃないんだ」
「ああ、どおりで。おまえはいつも自分の事を俺というのに、おかしいと思った」
「真顔で言わないでくれ! 恥ずかしいから」
「恥ずかしいのか? 日本特有のジョークだろ。イギリスの一人称はI(アイ)一択だからな」
そうか。
彼の国は一人称が一つしかない。このジョークは高度すぎたのかもしれない。
だが、障害が固く高いほどに燃えるものだ。
今日中に絶対にアルビーを笑わせる!
それがアルビーを笑わせ隊の隊長兼エースである俺の使命だ!
「アルビー、今まで笑っていなかった人が笑ったら、どうなると思う?」
「いきなりなんだ?」
「空気が温まるだろう。例えば君の大切な人が微笑みかけるだけで、君の心は救われるはずだ。笑顔は人を、そして世界を救う。君は笑う義務がある。だから……」
俺は空気を吸い込んだ。
「にらめっこしましょ、あっぷっぷ!」
「落ち着け」
滑ったか!
アルビーが眉一つ動かしていない!
やはり、強いな。簡単には笑ってくれないか。
「この勝負はいつか決着をつけよう」
「どうでもいい」
「国家の代表同士の戦いなのに!?」
「遊びだろ」
論破された。
この子、想像以上に手ごわい。
だが、俺にはまだまだ作戦がある。最終兵器だって残っている。
「いつまでも西改札で駄弁るのも難だから、場所を変えよう」
笑いは雰囲気からだ。場所を変えて仕切り直しだ。
アルビーの表情が固いが、いつか絶対にほぐしてみせる!
「まずは南口を目指そう。運よくたどり着いたらいいな」
「行き先を調べろよ」
アルビーの視線が冷たい。
だが、これで屈するわけにはいかない。
スマホに頼るわけにはいかない。
理由は単純明快だ。
「通信料がヤバいんだ」
亡国決定戦に勝利した後でよく知らないたくさんの人からメッセージが来たから返信していたら、通信料がとんでもない事になっていた。オートチャージなんてするんじゃなかった。
俺はキョロキョロと辺りを見渡しながら歩く。駅構内の案内表示は矢印が多すぎて訳が分からない。みんなよく迷子にならないな。
「蓮一、同じ所を回っていないか?」
「ごめん、そうかも」
アルビーが露骨すぎる舌打ちをする。
「帰る」
「待って、作戦があるから」
仕方ない。
こんな事を本当はやりたくないけど、プライドを捨てるしかない。
「すみません、南口はどちらですか?」
通りすがりの親切そうな男性に尋ねてみた。
「ここから行くのは難しいぞ。急いでいるから他をあたってくれ」
男性が足早に歩き去るのを見守るしかなかった。
俺は乾いた笑いを浮かべるしかない。
「アルビー、悪いけど南口の行き方を調べてくれるか?」
「もう調べたけど……おまえ大丈夫か? 地元じゃないのか?」
「新宿はダンジョンだ。早く脱出しなければならない」
「そんな場所に集合を掛けたのか……」
ジト目を向けて来る。アルビーもたぶん迷ったんだな。
俺はお菓子の袋を取り出す。
「お詫びと言っては難だけど、あげるよ。ポテトチップスだ。嫌いじゃないだろ?」
「カ〇ビーか。有名だな」
よし、興味を惹いた。
俺は袋を開けて、アルビーに向ける。
「食べてくれ。気まずいままでいたくないから」
素直に手を伸ばしてくれる。
彼は気づかないだろうが、アルビーを笑わせ隊として勝利を確信した。
何を隠そう、このカ〇ビーのポテトチップスこそ最終兵器なのだから。
「ア~ルビーの~♪ポテトチップス♪」
「カ〇ビーだろ」
通じない!?
そんなバカな。
この歌を聞いた人間は、みんな笑ったのに。鉄面皮の父さんさえ噴き出すのをこらえきれなかったのに。
この子の笑いのツボはどこにあるんだ!?
アルビーは何食わぬ顔でポテトチップスを口にしていた。
「うまいな」
まあ、ポテトチップスを気にいってくれたのは良かったけど……。
カ〇ビーのおかげだな……。
俺の最終兵器は散った。両肩が重力に逆らえない。
仕方ない。最終防衛ラインに向かおう。
後編:最終防衛ライン
俺はトボトボと歩き出す。
「……南口に行こうか」
「そっちは正反対だ」
アルビーがスタスタと歩く。思ったより早い。
慌ててついていく。複雑な道順だったのに、南口まですぐだった。
俺は含み笑いが止まらなくなる。
新宿駅構内を出れば無敵だ!
「外の空気が美味しいな! ここからは任せてほしい」
「本当に大丈夫か?」
「心配はいらない。俺を誰だと思っている? 東・西・南・ボク、蓮一!」
「ネタはもういい。目的地はどこだ?」
アルビーの視線は痛いが、負けるわけにはいかない。
俺は自分を鼓舞するために、努めて明るい表情になる。
「新宿御苑だ」
「予約しないと入れないようだが……」
「俺の発言をいちいち調べるのはやめてもらっていいか?」
「信用できないから仕方ないだろ」
そんなにダイレクトに言わなくてもいいのに……。まあ、仕方ないけど。
俺は歩みを進める。
「安心しろよ。この日のために予約してあるから」
そう、君を笑わせるために。
俺が振りむきざまに微笑みかけると、アルビーは溜め息を吐いてついてくる。
「今度こそ正しい道順のようだな」
……俺は絶対に屈しない。
目から変な汗が出そうだけど、絶対に屈しない。
新宿御苑には長い行列ができていた。
だが、俺は対策をしている。
入り口に立つ警備員に声を掛ける。
「通してくれ」
警備員は頷いて道を開けた。これで行列はパスだ。
「時間を節約できて良かっただろ」
アルビーは不可解なものを見る目になっていたが、素直についてくる。わざわざ行列に並びたいとは思わないだろう。
さぁ、最終防衛ライン突入だ。
アルビーを笑わせ隊の真価を見せてやる!
俺は警備員にアイコンタクトをする。それに応えるように警備員は持ち場を離れた。
代わりに、大量の慌ただしい足音が聞こえだす。若い男女が拍手をしながら、俺たちを囲む。
「おめでとうございます! あなた方は一万人目の入場者です!」
行列から拍手が沸く。
よし、作戦どおりだ。
うまく自然に祝福ムードになった。
これならアルビーも思わず笑顔になるはず!
なるはずなのだが……。
なっていなかった。
真顔のまま、無言になっている。
俺は恐る恐る尋ねてみる。
「何か気に障ったか?」
「……逆に聞くが嬉しいか? ズルして行列をパスして祝福されて」
う……!
そんな風に考えた事はなかった。
アルビーを笑わせ隊のメンバーはそそくさと逃げ去り、周囲の人たちの表情が固まる。
アルビーはこれ見よがしに溜め息を吐いた。
「蓮一、これ以上無理はよせ」
「……無理しているように見えるか?」
「手紙の内容から不自然だと思っていた。迷子になるような場所を集合場所に選ぶのも変だった。何よりおまえの態度がおかしかった。ドン引きするほどに」
そこまで言わなくてもいいのに……。
「……反論できないけど」
「何を考えている? 簡潔に答えろ」
アルビーの真っ直ぐな視線を、俺は受けきれない。
視線をそらして両手で髪をかきむしる。
「あー、そこまで見抜いていたなんて。完敗だよ。互いに楽しい想いをすれば、少しは世界が救われると思ったのに。君の大切な世界を守る事につながると思ったのに」
負け惜しみに過ぎないのは分かっている。
「確かに無理をしたけど、楽しかったよ。俺だけだろうけど」
静かな笑い声が聞こえた。
周囲の人たちのものではない。
「いい子だな、本当に」
アルビーが笑っていた。バカにするような笑みではなく、心の底から笑っている。
信じられなかった。
俺が立ち尽くしていると、アルビーはしばらく笑っていた。
ひとしきり笑った後で、かすかに口の端を上げる。
「久しぶりにいい想いをした」
「君に笑いのツボなんて無いと絶望していたよ」
「まあ、おまえは頑張っていたな。なんで必死だったのか分かったし」
「分かっていたなら少しは笑ってくれよ!」
怒ろうと思っても、ついつい俺の口から笑い声がもれる。笑いすぎて腹が痛い。
「せっかくここまで来たんだ。桜を見てくれ」
「亡国決定戦で散々俺を痛めつけた樹か」
「そ、それは……忘れてくれとは言えないけど……とにかく、この季節しか見れない景色があるんだ! 見てくれ!」
今月中に日本に来てほしかった理由を明かせる。
アルビーは何も言わずに頷いた。
新宿御苑の桜は満開になっていた。
日の光にきらめく桜は、穏やかな風に揺れながら、強く咲いている。
「母さんから聞いたけど、昔は海外の人もたくさん来ていたらしい。今は日本人ばかりだけど」
手を伸ばせば届く枝も、天に向かって伸びようとする幹も、生命の強さを感じさせる。
「この景色をまた、みんなが楽しむといいな」
明日には散るかもしれないけど、今を精一杯に生きている。
アルビーはしばらく無言で桜を眺めていた。
強い風が吹いて、枝葉が揺れ、花びらが舞う。ヒラヒラと舞う花びらは、光を浴びて輝いていた。
「……美しいな」
アルビーがポツリと呟いた。
俺は胸を張る。
「そうだろ! 世界にはこんな景色もあるんだ」
俺は両手を広げる。
「君の国も美しいものがあるはずだ。いつか見せてほしいな」
「……そうだな。早く状況を落ち着かせて、見てもらいたい」
アルビーは踵を返す。
「帰る。一日中遊んでいられない」
「分かったよ。無理を言って悪かった」
多くの言葉はいらない。
彼は祖国防衛のために、俺は次の亡国決定戦のために、戦う代理英雄だ。
俺が軽く手を振ると、ほんの少しだけアルビーが笑ったように見えた。
エピローグ:アルビーを笑わせ隊反省会
「アルビーを笑わせ隊は辛くも勝利を収めたよ」
父さんにいい報告ができた。
俺は大満足だ。
「手ごわい相手だったけど、なんとか笑顔にできた」
「……そうか、笑わせてくれる」
「全然笑ってないな」
父さんの雰囲気がなんだか怖い。
怪しい雰囲気で含み笑いをしている。
「イギリスの代理英雄を日本に誘いこめたのに、ただ笑わせただけで終わったのか」
「そのための作戦だと説明したはずだけど……」
「本気でそれだけだったのか……」
父さんはガックシとうなだれた。
「日本最高峰の特殊部隊まで使ってなんてザマだ」
「大丈夫だよ。間違いなく世界は平和に近づいたから」
「……おまえはまだ現実を知らないようだが、まあいい。次の亡国決定戦も勝てるようにしよう」
この後で、イギリス防衛のために派遣された日本最高峰の特殊部隊の皆さんが、全員涙目になっていたと聞かされた。発狂している人もいたという。
「笑わせ隊の出番はまだありそうだな」
「次の亡国決定戦に集中しろ」
父さんの目は冷たかった。
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