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【短編小説】友達は留年していた

友達が留年した。


「今日発表やで。卒業できてる?笑笑」
「えまじwみてみるわwww」
「うんまじやで笑笑」

「え」

「卒業できてないんやけどwwww」

友達が留年した。

僕はひたすら笑っていた。
おばあちゃんの目の前で茶柱を吹いた。
面白すぎる。
友達の家は裕福で特にお金に困ることはない。
ただ僕はその事実だけでご飯が炊けるまでは笑っていた。

友達が留年した。

卒業式はどうするのだろうか。
もちろん参加しないのだろうか。
というかできないか。
でもそのあとの飲み会は来るのかな、
あいつプライド高いし言わんねやろうな。
卒業したフリをするのかな?
まあ確かにあいつは自分で買ったと散々言っていた車が親の物だったりしたしな。
明らかボロい車を新車やゆーて運転してたしな。

友達が留年した。

僕やったらどうしてるだろう。
まず親に電話か。
そのあとどうするだろう。
親にかける迷惑を棚にあげたら、
こんなに美味しいネタはない。
特上のネタが仕込まれている。
あとは綺麗に盛り付けて常連に出すだけだ。

友達が留年した。

成績発表から数日後後輩何人かと友達と飲みに行った。
卒業おめでとうございますと言われ乾杯をした。
友達はありがとうと言いながらしっかり1番上から乾杯した。
こういうところなんだよな。
僕は本当にしきたり的なものが苦手で、後輩と乾杯する時はテーブルにジョッキの底面を接しさせたままスライドする。先輩後輩なんて親のセックスが早かったか遅かったかだけじゃないか。そう思ってる。

友達が乾杯をした。

やっぱり言わない。
卒業式の後どこで飲むかの話をしている。
なんなら音頭をとっている。
僕はなんだか気持ち悪くなってきた。
何故言わないのだろう。
今後も大学にいる奴らにどうやってばれずに行けると思っているのだろう。
前から思っていたがこいつは元からそういうやつだったじゃないか。

友達が歌を歌った。

2次会になった。
さくらんぼでスイスイしだした。
自分の歌で楽しく飲んでいる。
そうか。
こいつは1年生から何も変わってない。
僕はここ2年ぐらい大学生っぽいことが苦手になった。
大人数でガシャガシャしているとこの時間はなんなんだろう。そう考えてしまう。
今もそういう気持ちだ。
早く帰りたい。猫に会いたい。

友達が酩酊した。

気持ちよさそうだ。
どうやら幸せらしい。
留年して、親に迷惑かけて、親の会社の世話になって、確か浪人もしてたぞこいつ。
なんなんだこの人は。
なんでこんなに人を引き寄せるんだ。
なんで僕もこの人のことが好きなんだ。
わからない。
勝手にふるえてろと言ってしまえばそれまでだ。

こんなにいい人なんだから
こんなに面白い人なんだから
留年なんてしてないんじゃないか、
そう思っていた。
卒業式はみんなで出れるんじゃないか。
そう思えてきた。
朝だ。
卒業式は2週間後だ。
どうなるのだろう。

ふと隣から寝言が聞こえた。

「あーー卒業してぇーー」


笑笑

やっぱり

友達は留年していた。

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