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おろかものとおろかもの 9
長岡市に到着するまでは早かった。と言っても、完全に朝になっていた。
加納は無骨な表情とは裏腹に、とても親切に、丁寧に接してくれた。
やはり写真に写っているのは自分の子供で、今年で3歳になるという。
海斗は道すがら、加納と様々な話をした。
お互いの家族のこと、自分たちの父親。母親はまだ東京にいること。
トラックにはラジオしかなく、時折ニュース原稿が読まれるが何か要領を得ない。
どうやら首都圏は壊滅状態で、東京を中心としたインフラ、マスメディアは機能停止状態のようだ。
加納の携帯電話を借りて、両親に電話をしてみたが繋がらない。加納も東京の会社や知り合いにかけていたが、全く繋がらないようだ。
新潟県に入り、地上ラジオ局からより詳しい情報が流れ込んできた。
加納も海斗も、にわかには信じられなかった。ラジオの音声を上げると、眠っていた惠と流がおもむろに体を起こした。
東京23区内、政治・経済機関を中心としたミサイル投下、同時に福島第一原発・北陸の美浜原発へのミサイル投下による放射能汚染。電子インフラへの物理攻撃と電子ジャック。
行政府の壊滅と放射能・サイバーテロ。朝鮮半島と中国からによる突然の攻撃だった。
ラジオからは繰り返し、東京・福島・福井からの避難が叫ばれている。しかし、そもそもの規模が分からないし、迎撃情報もない。情報が断片過ぎて、これでは誰も判断しようがない。iPadを取り出し、オンライン接続を試みるも繋がらない。加納の携帯電話もネット接続は一切出来なくなっていた。
この国は、いや、国家とはこんなにももろい存在なのだろうか。
加納と海斗は、上越自動車道を北上しながら今後の進路について議論をしたが、加納は自分の所属する会社と家族のいる三条市まで、その途中の長岡で海斗の叔父のところまで走ってもらうことで落ち着いた。
加納は一切の見返りを受け取らなかった。海斗が何度頭を下げて差し出そうとしても、やんわりとかわされてしまった。
自分も人の親だからな、恥ずかしいことはできないよ。加納はそう言って笑った。
海斗は東京を発ってから、初めて泣いた。
市内近郊で加納とお別れをした。惠と流は疲れ切ってはいたが、二人なりに感謝の気持ちを可能に伝えた。「おじさん、ありがとう!!」
加納は優しく微笑んでくれた。
彼のように、この非常事態の中で、助け合うことを何のためらいもなく出来る人間が一体どれだけいるのだろう。
加納は自分の勤める運送会社に行く前に、自宅を目指すと言って去った。
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