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おろかものとおろかもの 19
人種としてはアジア系だろうか。人数は6人。前から4人。後ろから2人。
鋭い目つきのまま、海斗達が乗る軽トラックの運転座席に向かってくる。
海斗と圭吾は、金目の物を運転座席の後部に隠した。勿論iPadもケースに入れて。
男達が軽トラックを取り囲んだ。運転席のドアミラーごしに、自動小銃の銃口を向けている。
AK-47のノズルを左右に振りながら、男達は視線を海斗と圭吾に向ける。
降りろ、ということか。
このような場面は実は何度かあった。主に合衆国軍の臨時検問で、要は市街地に入るのに、荷台の検査と手数料をよこせ、という。兵隊の小遣い稼ぎだ。
ただ、今回は様子が違う。国籍が明らかにアジア系だし、聞こえてくる言葉は日本語でもない。北朝鮮軍のゲリラ兵か?しかしこんな市街地まで堂々と?
海斗と圭吾は顔を見合わせた。圭吾は降りることを選択しなかった。
まず、ウィンドウレバーを回して、ドアガラスを半分くらいまで開けた。
抗議・抵抗の意思を示すとしたら、出来ることはこれくらいだった。しかし甘かった。
すかさず屈強な男の両手が車内に入り込み、圭吾の胸倉をつかんだ。そのままドアに叩き付けられる。
海斗は抵抗しようとしたが、無駄だった。ドアロックを掛けるのが遅かった。
ドアが開けられ、一人の男に車から引きずり出され、側道のアスファルトに叩き付けられた。
今まで危険な目に遭うことはなかったのに。海斗は混乱しつつ、頭がかあっと熱くなるのを感じた。
海斗と圭吾は車から引きずり出された。不意に、二人の背中からカタコトの日本語が飛んできた。
「われわれはガッシュウコク軍だ。エリアに入る車をけんさしている。」
「嘘だ。軍のバッジや腕章を何も付けていないじゃないか」
「わたしたちは車で荷物を運んでいるだけだ。解放してくれ」
圭吾はそう抗議した。
しかし、相手は表情を変えずこう言い放った。最初から建前を通すつもりもないらしい。
「反抗的だ。はんらんぶんしのかのうせいがある。コウソクする。」
海斗と圭吾は後ろ手にされ、結束バンドを両腕に巻かれ、抵抗出来ない状態になった。
軍属風の男達が何かの言葉で会話をしている。ハングルのようだ。一通りやりとりが終わって、男達はこう告げた。
「こっちのわかいおとこはくわしく取り調べる。お前はもういい。」
あっという間だった。
海斗だけが前方のジープの後部座席に押し込められ、車は走り去った。
圭吾は後ろ手のまま走って追いかけようとした。しかし、後ろから走りだした車からAKの銃口が突き出てきて、威嚇射撃が圭吾を襲った。
弾痕は足元に散らばり、砂煙を立てた。
ジープはその奥に、霞に消えるように過ぎ去ってしまった。
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