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おろかものとおろかもの 22
東北のいわき市といっても8月の時期は暑い。
じりじりとした日差しが容赦なく照り付ける。
いわき市では、他の占領地域よりも復興計画が進んでいた。
軍用施設や工場施設の建設が急ピッチで進み、瓦礫の山だった難民キャンプの回りはだんだんと景色を変え始めていた。
佐藤は相変わらず、難民キャンプで悶々とした日々を過ごしていた。
児童・老齢者のボランティア、清掃活動、炊き出し…難民キャンプでやることはそれなりにあり、一日が終わるとぐったりと疲れてしまうが、それでも佐藤は自分の立場・仕事・本当にやりたいことが出来ない自分をのことをどこか蔑んだ眼で見ていた。
妻・子供に会いたい。探しに行きたい。
何か復興の役に立つ仕事がしたい。
自分が生産的でない人間に思えてきて、気分が落ち込む。
10年近く会社員生活を送っていた佐藤には、今の生活はとても悪いこと、世界から「役立たず」の人間だと言われているような気がしていた。
実際にそんなことはないのだろう。難民キャンプでボランティアをしている以上、誰かの役に立っているはずなのに。
ただ平穏だった、何も起きはせず会社組織の中で日々を送っていた佐藤にとっては、今の自分が置かれている状況が他の人以上に受け入れられないものだった。
自分の大切な人を守れない。一緒に過ごせない。
自分の人生で培ったスキルも生かせない。
(貨幣の価値は暴落してはいるが)お金も稼げない。
佐藤は夏の暑さにやられるように、じりじり、じりじりと自分の精神が焦れていくのを感じた。
佐藤の唯一の心の平穏は、横須賀で出会った女性医師、マギーと触れ合うことだけだった。
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