衆議院憲法審査会の「毎週開催」の問題について 【(3)議院自律権の濫用(オンライン出席)】

 衆院の憲法審査会の「毎週開催」の過ちに、憲法と立憲主義に違反する「本会議へのオンライン出席の容認議決」があります。56条「出席」の解釈を一切行わず、58条の議院自律権のみを根拠とし、衆参憲法審に招致の学者四名全員から議院自律権の濫用と批判されたという、議会政治上の大事件です。
 
 議院自律権とは三権分立にもとづき、国会のルールは内閣や裁判所には判断させず国会が決めることができるというものです。
 
 ところが、毎週開催によってさっさと改憲議論に進みたい衆院憲法審の改憲派は、この議院自律権の趣旨を全く理解せず、「国会のことは国会で決めれるのだから、議院自律権を使って本会議へのオンライン出席を可能と56条を解釈できる」という内容の文書の議決を主導しました。
 
 しかし、議院自律権とは、あくまでも憲法の個々の条文の解釈の範囲内で国会のルールを決めるための国会の権限です。どういう場合にどういう条件や手続きによって、国会議員が生身の出席の代わりにオンライン出席でも憲法56条の「出席」を満たすかの56条の『出席』という文言についての憲法解釈が先に必要なのです
 そして、その憲法解釈の枠内で、オンライン出席を円滑に実施するための議院規則などのルールを定めることが出来るのが議院自律権なのです。
 
 つまり、このような議院自律権の使い方が許されるのなら、憲法の第四章「国会」にある第41条から64条までの全ての条文を国会が勝手に議院自律権の名のもとに好きなように解釈することが出来るようになるのです。例えば、56条でもオンライン出席ではなく「代理出席」や「文書出席」なども可能になってしまいます。
 
 憲法の国会に関する条文はすべて国民のためのものです。国民のために国会はこうあるべきと定めているのが憲法の国会に関する条文なのです。
 つまり、国民のための憲法56条「出席」について具体的な憲法解釈を一切おこなわず、かつ、議院自律権を濫用した衆院憲法審のあり方は、憲法と立憲主義に明確に違反し、そして、将来における国民主権、議会制民主主義の破壊にもつながりかねない悪しき前例なのです
(端的に、憲法とは何か、憲法とはどのように扱わなければいけないものなのかが全く分かっていないという大事件です)
 
 こうした問題を、昨年の2月24日に衆院憲法審に招かれた高橋和之 東京大学名誉教授は、「議院自律権は運用の柔軟性を認める根拠とはなるとしても、憲法条文の解釈の柔軟性を認める根拠とはなりません」などと懸命に過ちを指摘して下さいましたが、改憲派の主導のもと「毎週開催」によるその一週間後に「議院自律権の濫用」によるオンライン出席容認を議決し、緊急事態条項の改憲議論に入って行ったのです。
 
 一方で、参院憲法審におけるオンライン出席の議論では、私が立憲民主会派の代表意見などで三度にわたって、衆院の議院自律権の濫用は「国を誤る行為」であり、その元凶である毎週開催は「憲法を軽んじる行為」などと批判した結果、参院自民党においては衆院自民党の議院自律権の濫用は行わないかたちでオンライン出席の会派見解を発表するに至りました
 こうしたことは異例のことですが、これこそ二院制、良識の府の参議院のあるべき姿であると、私は会派代表意見の中で自民党会派に敬意を表しました。
 
 なお、この間、衆院憲法審の自民党の新藤筆頭に対して、オンライン出席の容認と議院自律権の関係について問いただすために参院憲法審への出席要求がなされましたが、新藤筆頭はこれを拒否し、代わりの報告役の衆院法制局長の出席も認めませんでした。
 
 このように憲法も立憲主義もわきまえない、改憲ありきの「毎週開催」の衆議院の改憲派の動きは、我が国の国民主権と民主主義にとって非常に危ないものであり、こうした恐ろしい事態を一人でも多くの国民の皆さんに知って頂きたいと心から願います。
 
 長文をご覧いただき、有難うございました。
 
 
(参考1) 参院憲法審における毎週開催、議院自律権濫用の批判意見
 
■第210回国会 参議院 憲法審査会 令和4年11月9日
○小西洋之君 立憲民主・社民の小西洋之です。会派を代表して、憲法に対する考え方を述べます。(略)
 最後に、さきの通常国会において、衆参憲法審の四名の憲法学者の全員が、衆議院のオンライン出席の見解文書を憲法五十八条の議院自律権の濫用と指摘等されたように、衆議院の憲法審査会の改憲ありきの毎週開催は憲法を軽んじる行為と言わざるを得ませんこの点、本審査会の自民党会派の代表意見において、衆議院とは異なる議院自律権の考え方を表明されたことは深く敬意を表する次第です
 
■第208回国会 参議院 憲法審査会 令和4年4月27日
○小西洋之君 立憲民主・社民の小西洋之です。
会派を代表して、国会におけるオンライン出席と憲法第五十六条との関係について見解を述べます。(略)
 他方、衆議院憲法審においては、憲法五十六条出席の具体的解釈を何ら示すことなく、憲法五十八条の議院自律権のみを根拠にオンライン出席を容認する文書を多数決で議決し、議長、副議長に報告しています。
 前回の私の発言で申し上げましたように、我が審査会の参考人の赤坂幸一先生は、議院自律権によるルール形成は、憲法典の定めるルールの枠内でしか認められませんとの見解を示され、衆院憲法審の高橋和之先生は、議院自律権は運用の柔軟性を認める根拠とはなるとしても、憲法条文の解釈の柔軟性を認める根拠とはなりませんとの見解を陳述され、結果として、衆参の憲法審査会に招かれた四名の憲法学者の全員が衆議院憲法審の報告文書の議院自律権の扱いは憲法上の問題があると述べられています。すなわち、議院自律権の濫用であるとの旨を述べているのであります
 まさに、最高法規憲法にこのような扱いを行うことは国を誤る行為であり、その元凶たる衆議院憲法審の改憲ありきの毎週開催は、憲法を軽んじる行為であると言わざるを得ません。
 また、最高法規憲法の議論は、文字どおり政治家が政治生命を背負って行うべきであるにもかかわらず、我が憲法審からの当該文書の説明の出席要求を拒否するなどした衆議院憲法審の自民党は、立憲民主や一部野党会派による毎週開催への慎重、反対の見解を重く受け止めるべきであります。
 また、衆院憲法審の緊急事態条項の議論も、二院制における参議院の存在意義の一つである参議院緊急集会の権能などの在り方を勝手に議論しているものであり、到底容認できません。
 良識の府の立場から、衆院憲法審の在り方に警鐘を鳴らし、深い憂慮の念を表明して、今後とも立憲主義に基づく憲法論議を全うする決意を申し上げ、私の代表意見といたします。
 一言、先ほど西田幹事の見解表明を伺いまして、衆議院の自民党とは違う議院自律権の考え方を表明されていることは、良識府の在り方として、もう本当に心から敬意を表する次第でございます
 
■第208回国会 参議院 憲法審査会 令和4年4月13日
○小西洋之君 
(略)  すなわち、衆参の憲法審査会に参考人としてお招きした四名の憲法学者の皆様が、衆議院の憲法審査会のこのオンライン出席の考え方、五十六条一項の出席の考え方について憲法上問題があると、そのようにおっしゃられていることでございます。私の思いといたしましては、このような文書を多数決により採決し、議長や副議長にまで提出したこの衆議院のありようというのは、国を誤る行為ではないかとの懸念を表明せざるを得ないところでございます。我が憲法審査会においては、こうした過ちを犯すことがないように、法理に基づいた審査を行うべきと考えます。
 なお、この衆議院の文書の内容の説明を求めるために、私からは新藤筆頭幹事、自民党、また、それが無理であれば衆議院法制局長あるいは衆議院の事務局長の本審査会への本日の出席を前回の幹事会の決定に基づいて求めたところでございますが、それがかなわなかったこと、これは我が参議院を軽視する行為であるということも申し上げさせていただかなければいけません。
 思うに、全ての元凶は、衆議院の憲法審査会の毎週開催でございます。このような文書を作成する、あるいはこのような文書をあのような用い方をする毎週開催こそ、憲法を軽視する行為であると言わざるを得ません
 我が参議院憲法審査会におきましては、良識の府の名に値するような憲法論議を行うために、大義があり真に必要性がある場合にのみ憲法審査会を開いてしっかりと議論をする、そのような運営に努めさせていただきたいと思います。
 
(略) 先ほどは、二院制の使命であるこの衆議院の過ち、またそれに基づく参議院のあるべき審議のための発言をさせていただきました。
 なお、付言させていただきますが、我が会派は衆議院において毎週開催については反対、あるいは他の会派の方々も反対、少なくとも慎重な意見をおっしゃっております。にもかかわらず、政治目的の毎週開催、そのことが目も当てられないような、はっきりと申し上げて国を誤る行為とも言わざるを得ないような失態を生じていることはもう誰の目にも明らかでございますので、各会派の先生方におかれましては、それぞれの党で憲法審査会のあるべき、衆議院の憲法審査会のあるべきについてきちんとした御見識をお示しいただくことをお願いをしたいと思います
 
■第208回国会 参議院 憲法審査会 令和4年3月23日
○小西洋之君 立憲民主・社民の小西洋之です。会派を代表して、憲法に対する考え方を述べます。
(略)
 さて、与党や一部野党の改憲提案は、憲法の基本原理そのものを毀損してしまう、政策的に不要と思われる、法律で対処できるものなどに属するのではと考えておりますが、立憲民主党は、立憲主義に基づく論憲との方針に基づき、種々の憲法問題について主体的な検証を重ね、必要と考えるものは本審査会での議論を求めてまいります。
 具体的にはオンライン国会がありますが、衆院憲法審の議論の大勢の報告は、与党や一部野党による不合理な毎週開催の要求のためと解されますが、国民主権原理などとの関係や根拠とした議院自律権に係る論究がうかがえず、慎重な精査が必要と解されます。
 
 
(参考2)
衆院憲法審の改憲派が全く行わなかったオンライン出席を容認する憲法56条「出席」の解釈とはどのようなレベルものが必要かについて、私の立憲民主会派代表意見をご参考下さい。
https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=120814183X00420220427&spkNum=4&current=3

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