プロフェッショナルサービスのビジネスモデルと矛盾の克服

こんにちは。七転八倒しながら当社グループももうじき100名を超える体制となってきました。今後のさらなる成長を考えるために、ビジネスモデルや組織体制の「そもそも論」を考えるタイミングかなと感じています。

書籍紹介

そんな中で読んだのが高橋 千枝子『プロフェッショナルサービスのビジネスモデル』です。著者の博士論文がベースとなっているため、先行研究が丁寧に参照されており、こういう分野はこの研究を参照すればいいんだ、というのがとても良くわかりました。サービス工業化モデルや接点重視モデルは今後の僕の研究テーマとしても重要だと感じています。いい本です。

本書では、過去の研究をレビューしながら、プロフェッショナルサービスのビジネスモデルが抱える課題を事例を通じて検証しています。挙げられる事例としては、頭脳型サービスの代表的な企業であるマッキンゼー、経験型・効率型の代表的な企業であるアクセンチュアです。

課題としては4つ挙げられていますが、今回はそのうちの2つについて触れたいと思います。一つは、標準化戦略と顧客との協調的な関係の構築という一見相反する方向性をどう両立させているのか(課題①)。もうひとつは、テイラーメードな顧客対応と工業化という、こちらも一見相反する方向性をどう両立させているのか(課題②)、という点です。
順番に説明すると、コストダウンのためにはサービスの標準化が必要となります。しかし、標準化するというのは、ある意味顧客の要望や状況を無視して、こちらの標準的なサービスを押し付けることになります。また、特に買い手の力が強い場合には、標準化が通らないこととなります(相手の要求を飲まざるをえない)。これをどう克服するのか。もうひとつは、知識集約型のプロフェッショナルサービスはテイラーメードに提供されることが一般的であると想定されますが、工業化による効率性アップというのはこれと矛盾する概念です。これをどのように克服するのか、ということです。

本書ではこの課題に対して、アクセンチュアの事例をもとに検証しています。アクセンチュアは、単にコンサルティングを行うだけでなく、効率化したうえで同社へのアウトソーシングサービスを提供します。これにより顧客と同社への依存関係を作り出すことに成功しているのです。一般的には、受注企業は継続的に発注をしてもらいたいので、発注側が力を持ち、標準化しにくい(受け入れてもらいにくい)という問題があります。しかし、アクセンチュアはBPOまで提供することにより、アクセンチュアへの依存関係を構築します(アクセンチュアがいないと業務が成り立たなくなる)。そうすることにより、アクセンチュアが力を持ち、標準的な手法の導入に対して推進力をもつのです。この依存関係を用いたパワーバランスの調整というのが、標準化と協調関係の両立(課題①)の答えとなっています。
また、課題②のテイラーメードと工業化の両立については、顧客と接点を持つ担当者だけテイラーメードに対応し、裏側では工業化・標準化で対応するというのが答えになっています。これもBPOという特性上、依存関係があるのと、裏側がどう動いているかについての関心が顧客側で低いということが要因であると分析されています。

インプリメンテーション

会計事務所は、阿比留先生の先行noteにもあるとおり、多くの場合、経験型・効率型のサービスがメインとなります(頭脳型で売ってる先生もいますが、ごくごく少数だと感じています)。

そのため、アクセンチュアの事例が参考になると思います。会計事務所は、国家資格という正当性、専門的な内容による情報の非対称性、記帳代行や申告業務というBPO業務によりクライアントとのパワーバランスを保っていると言えるでしょう。某会計ソフトメーカーが自計化をいくら謳っても、記帳代行業務が減らないのは会計事務所側のこんな事情があるかもしれません。記帳代行による依存関係が会計事務所の生命線なのかもしれませんね。また、MAS業務(MAS監査)がなかなか流行らないのも、このフレームワークから外れるビジネスとなるため、組織構造やスタッフとアンマッチなのかなと思っています。会計事務所がなにかアップセルをやるとすれば、正当性、専門性、依存関係の構築を活用できるようなモデルがいいのではないかと思います。

製販分離もまさにこのアクセンチュアの事例と相似形だと思います。顧客の相談に乗ったり信頼関係を構築するフロントの業務はテイラーメードに対応し、バックの業務は標準化・工業化することにより、テイラーメードと工業化を両立できているんだろうと思います。阿比留さんの指摘にもあるように、士業の業務は段々と頭脳型=>経験型=>効率型へと向かっていきます。標準化・工業化の要素を入れていくことはマストだと思います。直近だと案件が急増したことにより、相続申告が効率型へ向かっていると感じています。標準化・工業化されたサービスは、後戻りしません。それに合わせた体制にしていく必要があると思います。

おわりに

クライアントとのパワーバランスや工業化・標準化問題、依存関係、正当性、このあたりは今後のサービス内容を考える上で概念として重要だと感じました。さらに研究していきたいと思います。

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