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忘れっぽいおばあちゃんとの忘れられない思い出
病院で手術した夜、麻酔がきれてない僕は動けませんでした。
病室は4人部屋でカーテンに仕切られている消灯時間、皆静かに休んでいました。
シャーッ。
突然、カーテンが開きました。
点滴交換に来た看護師かと思いましたが、無言で立つ人。部屋は暗くて誰か分からない。ベッドの脇に置いていた僕のペットボトルを黙って手に取る。
どうやら看護師ではないようだけど、この人は誰なのか。まったく分からないまま、暗闇に立つ人を僕は寝ながら眺めてました。
「どうされましたか?」
ようやく僕は声を出せました。
その人は何も言わず、ペットボトルを持って部屋を出ていきました。
看護師ではないと確信した僕は、ようやくナースコールボタンを押しました。
かけつけた看護師さんたち。
「知らない人が僕のペットボトルを持っていきました」
慌てた看護師さんたち。
どうやら、隣の部屋の患者さんのようでした。
戻ってきたペットボトル。その患者さんが飲んだかもしれないと思うと、飲みたくありませんでしたが、麻酔で起き上がれない自分にとって飲み物はそれしかなく、仕方なくそれを飲んで夜を過ごしました。
後日、似たようなことが続きました。突然、カーテンを開けて入ってくるおばあちゃん。
どうやら隣の部屋で、僕と同じベッド位置に入院しているようです。
少しストレスになった僕は看護師さんに、どうにかなりませんかと相談しました。
「少し忘れっぽいおばあちゃんなんです。何とかしますね」
看護師さんのお返事。
おばあちゃんは、それからナースステーションで車椅子に座り、看護師さんたちに見守られていました。
おばあちゃんの自由な動きを奪ってしまったのかと思うと、申し訳ない気持ちになりました。
果たして言うべきでなかったのか。
病院を退院して半月。時々そのことを考えます。
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