〇〇荘1K3.8万円と台風
立川市〇〇町〇〇荘。はじめて自力で借りた部屋。4畳のキッチンと6畳の部屋。風呂トイレ別。風呂は追い炊き。かなり古い木造住宅。一軒家を改築して部屋貸ししているのか、1階部分は1世帯のみ借りていて家族が住んでいた。2階には2部屋だけ。
大学を卒業し、社会人1年目。社会人といっても美大予備校の講師バイト。とにかく安い物件を探して巡り合ったのがここだった。3万円台なのに風呂トイレ別!(風呂は追い炊きトイレは和式だけど)ってところが大きかった。部屋の作りも単純な四角形で、レイアウトしやすそうだった。
そしてなにより、部屋の目の前に共有のベランダがあった。1階部分の屋根の上に設置された4畳くらいはありそうなそのスペースは洗濯物を干したり、テーブルでも置けばいい感じにアレンジできそうだった。
結果的には共有部分なので自由にはできないし、夜な夜なミスチルを熱唱する隣人が出て行ったあとはなんやかんやあって事実上独占できたけど最後は物置になった。
ベランダにまつわる話を思い出す。
ある夏の日。大型の台風が近づいていた。台風の夜はわくわくするもので、友達と飲んでいて遅くなった。夜中に家に着く。ドアを開けるとなにやら部屋の中に気配がした。
玄関からキッチンの先に6畳間がある。キッチンと6畳間の間の引き戸は部屋を広く使うために取っ払っていた。その6畳間からガソ...ゴソ...と物音が聞こえるのだ。暗闇の6畳間から物音がするなんてホラーでしかない。
恐怖をこらえながら、キッチン部分の電気をつけた瞬間。ものすごいスピードで6畳間から黒いなにものかが玄関のドアに向かってきてそのままドアにぶつかってバーーーン!と音を上げてまた6畳間に戻っていった。なんなんだ!?刹那、6畳間からけたたましい音が鳴り響いた。
ニャー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
猫!?
どこから入ったのか(たぶん開けっ放しにしていたキッチンの小窓)。
猫はうちで雨宿りをしていたのだ。
猫に近づくと猫はパニック状態で、部屋の中で暴れた。棚に置いてあった物という物をなぎ倒し、壁という壁にぶつかりながら部屋を何周もした。
散々部屋を荒らし、最終的にブラウン管のテレビ台の横にできたスペースに収まってこちらを睨みつけた。黒に近い灰色の毛。病気なのか怪我なのか片目がない猫だった。
ひとまず玄関を解放し、ソファに腰をかけるとそいつは一目散に玄関から逃げて行った。そんなに慌てなくてもいいのに。取って食いやしない。
驚いたけど、片付けもほどほどにその日はそのまま寝た。
台風の影響はさほどなく、翌日はカラっと晴天だった。窓を開け、ベランダに目をやると物置状態になったベランダの粗大ゴミの上に昨日の片目猫がいた。昨日のパニックが嘘みたいに別人のようにあくびなんかしている。
そこに泊まったのね。
しばらくそいつはちょくちょくベランダにやってきた。ほぼ住み着いていた。親しみを込めて「台風」と呼んでいたけど、引っ越してからはもう会っていない。
部屋の話じゃなくて猫の話になったけど、ここにはほぼ5年住んでいた。この部屋でもいろんなことがあったなあ。アルコール抜きでは到底話せないことばかりだけれど。