菅谷怜子さんのベートーヴェン
今日、家に帰ると菅谷怜子さんの新作のCDが届いていた。ベートーヴェンのいわゆる三大ソナタが収録されたもの。2024年7月に,前作と同じ新潟県十日町市の越後妻有文化ホールで,公開形式で収録されたいわばライブ録音.前作同様,今回も録音の状態が大変によく,録音への不満は全くない.この点はまず強調しておきたい.
きちんと聞き込んでいるわけではないので、あくまでも最初の印象に過ぎないが、ここで聴ける「熱情」は希代の名演と断言できるものではないか。あらゆる瞬間が確信に満ちた理解に立ち、神経質な感じが微塵もなく、しかし前作のリストで聞かせたあの細かな美音と、一瞬たりとも崩れることのない見事な和声の維持がここでも実現されている。そして何より今まで全く聞いたことのない独創的な解釈が迫り、聞こうと思わなくても引き摺り込まれる圧倒的な説得力。幻のような完成度とも言いたくなる。
この耳馴染んだ名曲を、初めて聞くかのような感動に誘うのは異常な事態とも思える。かつて、小菅優さんのNYライブも圧巻と感じたが、これはさらに理解の格が上に感じる。正直、過去に聞いた大家の名演の数々を一足飛びに越えたような印象を得た。
小川榮太郎さんの言う「ピアノのフルトヴェングラー」が言い得て妙に感じられるのだから、本当に驚きとしか言いようがない。終楽章コーダの壮絶なクレッシェンドを伴うアッチェランドも含めて、19世紀的な感じすら覚える。これらの特徴が曲想と合致した、時代を超えた歴史的名演と言って差し支えないと思う。これを一度聞くと他が物足りなくなりそうなのが怖い。個人的には特に第一楽章のユニークな理解の見事さが光って見えた。