ファンとプロデューサーの狭間で――アイドルマスターSideMと私
アイドルマスターSideMがソーシャルゲーム事業から撤退する。
今後はソーシャルゲーム版のアーカイブや8周年ライブの開催など別ラインでのコンテンツ継続を予定しているそうだ。
私は、それを聞いて
「私は、またプロデューサーからファンに戻っていくんだ」
と思った。
※今日は、アイドルマスターSideMへの気持ちを取り留めなく書きます。特にオチもなく、心情を整理するための記事になります。
私がアイドルマスターSideM、というかアイドルマスターに男のアイドルが存在すると知ったのは今年サービス終了したモバゲー版アイドルマスターSideMの事前登録か何かの時だった。
だから、2014年くらいのことではないだろうか。
当時はまだ男アイドルものが私の中では物珍しく、ゲームを始めたのを覚えている。
有名なアイドルマスターシリーズに男キャラがいたのか……(Jupiterや涼くんのことだ)とも。
しかし、よく知られている話だがSideMはサービス開始直後に長期間の改修か入り、提供が一時中断される。
私はその間に興味を失い、ゲームから離れていった。
そこから、再度興味を持つのは2019年のこと。
”アイドルマスターsideMのライブのライブビューイング、俺も行っていいですか?アイドルマスターsideMをまだ何も知らない身分ですが……”
その少し前からフォロワーに触発されてミリしらやったりはしていたものの、SideMのコンテンツ自体には触れていなかったが、突然「明日アイドルマスターSideMのライブビューイングが地元でやる」という情報を得る。
幸いにも映画館のチケットが予約できたため、興味本位で行こうと決めた。
アイドルマスターSideM 4th stage 「TRE@SURE GATE」の2日目だ。
2019年5月12日のことである。
本当に感動した。
私はあんまり知らないものでも楽しめるので大丈夫だろうと最初から思っていたが、そんなの関係ないくらい本当に楽しくて、すごくて、熱狂した。
ここでその時の感動を語るのは長くなりすぎるので一旦簡潔に済ませるのだが、本当に楽しくて公演時間が一瞬に思えたのをよく覚えている。
女性ファンばかりなのかな? と思ったらそうでもなかったことも。
近くの席にスーツ姿でアツくサイリウムを振る男の人がいた。(神速一魂Pだった)
「あ、これがプロデューサーってやつか」と思ったのを覚えている。
ただ、その人がわかりやすく”プロデューサー”の風貌をしていただけで、映画館や現地にいたほとんどの人はプロデューサーだったのだろう。
その日、私はこういう感想ツイートをした。
”どの声優さんが言ってたかもう忘れたんですが(痴呆か?)「今日ここから興味を持ってくれたプロデューサーも」て私みたいな「お…sideMのライビュまだ空席あるから行ってみるか……」みたいな人間にもありがとう、て言ってくれたのがなんかグッと来て……完全に号泣し、ワンピースみたいになった”
誰が言ったのか、本当にこういう言葉だったのか、今となってはよくわからない。
でもその日私はこういうメッセージを受け取ったのだ。
私は次の日、地元のTSUTAYAでとりあえずありったけのSideM楽曲CDを借りた。
ゲームが苦手だったから、まずは曲を聞こうと思った。
そして、私の前に現れたのが"FRAME"だった。
足を運んだ4thライブ2日目はFRAMEからの出演は一人(握野英雄役 熊谷健太郎さん)だったため、彼らのユニット曲の歌唱は存在しなかった。
なので、CDで曲を初めて聞いた。
力強い声、弾むような声、透き通った声。三者三様の声をしていた。
その中でひと際私の興味を引いたのが、透き通った声をしたそのアイドルだった。
握野英雄。
私は、初めてそこで握野英雄を”アイドル”として意識した。
あまり知らないゲームのあまり知らないキャラクターでしかなかった彼は、曲を聞いた瞬間私の中で一人の生きたアイドルになった。
曲を聞けば聞くほど、好きになった。
英雄だけでなく、信玄さんや龍や他のユニットのアイドルたちもみんな。
通勤の時や家事をする時、暇さえあればSideMの曲を。アイドルたちの歌を聞いた。
その頃にはもう、私はアイドルマスターSideMのことが好きになっていたと思う。
しかし、私にはひとつ彼らへの後ろめたさがあった。
私はいわゆる”本編”に当たるゲーム(当時はモバエムとエムステがあった)をあまり遊べていなかった。
ソシャゲに限った話ではないが元からゲームをする習慣がなく、また合成とか育成とかイベントとか苦手な要素が多かったためだ。
「ゲームをすることがプロデュース活動であり、己をプロデューサーたらしめるのではないか?」と私は考えていた。
だから、歌やドラマパートを聞いたりして応援するのは”ファン”で、”プロデューサー”ではないのではないか? と思ったのだ。
ファンであるのが悪いことだとは言わない。
当然だ。ファンがいて初めてアイドルは輝くのだから。
だが、私がアイドルマスターSideMを強く意識したあの日。2019年5月12日。
あの日聞いた「今日ここから興味を持ってくれたプロデューサーも」という言葉を受けて、私はプロデューサーになりたいと思っていた。
だから、ファンとして遠くから応援するのではなくて、もっと近くでアイドルを――英雄をプロデュースしたかった。
だが――これは全く私の努力不足だが――私は、上手にモバエムにもエムステにもなじめなかった。
そのうちにエムステはサービスが終了してしまった。
私は、次は間違えないとばかりにモバエムに慣れようと躍起になった。
もう、あの頃はほとんど目的と手段がめちゃくちゃになっていたと思う。
そこに現れたのが、サイスタだった。
新しく始まる音ゲーアプリ。
ここからなら、また仕切りなおせると思った。
実際、仕切りなおせた。
イベントを追いかけて、メインストーリーが更新されれば読んで、アイドルたちのカードを集めた。
運営のやり方に不満がないわけじゃなかったけど、私はそれ以上に、私をファンからプロデューサーにしてくれたこのアプリが好きだった。
遠くから見つめていた時、歌だけを聞いていた時より、もっとずっと英雄を近くで感じられた。
私はやっと、君の夢を応援してあげられる!
そう思った。
様々な前職を持つアイドルが登場することが売りのSideM。
その中でFRAMEは公務員出身者で構成されたユニットだ。
警察官、消防士、自衛官。
その中で握野英雄は、元警察官である。
彼は正義感が強くまっすぐな性格をしている。たまに情熱が行き過ぎて自分の身を危険に晒してしまうこともあるほど。
そんな英雄には夢がある。
歌を通して子どもたちに「君は一人じゃない」と伝えることだ。
壮大な夢だと思う。どこまでクリアすれば達成したとみなされるのかもわからない夢。
でも英雄は、そんな一見叶いっこなさそうな目標を、真剣に語っている。
そして一生懸命歌っている。
自分語りの中でさらに自分語りになるが、私の話を少し。
私は高校から短大にかけてかなり精神的に不安定で、家に帰りたくなくて友だちの家にずっと居たり時にはその辺の公園とか川辺とかで寝てはまぁまぁ危険な目に遭いかけたりしていた。
その時に、英雄の歌が私に寄り添っていてくれたらな……と存在しない日を思った。
英雄のソロ曲『ハートフル・パトローラー』の歌詞に
「キミが何を抱きしめて俯いた日でも 響くようなメロディ伝えてみせるから」
とあるように、英雄の歌が届いていたら。
少しか、裸足で外に駆け出して号泣していた少女時代の私も……と。
だからこそ、プロデューサーとして英雄を支えることでせめて過去の私みたいな子に彼の歌が届いたらいいなと強く思った。
英雄と出会えていなかった日々の分まで、英雄のことを……と本気で思った。
1キャラクターではなく、英雄のことを本気で私のアイドル――偶像、信仰の対象だと思っていた。
サイスタは私を英雄のファンではなくて、英雄のプロデューサーにしてくれた。
だから、終わってしまうのがかなしい。
うまく言葉にならない。
「私は英雄のプロデューサーだ」
そう胸を張って言えたのは、本当につい最近からのことだった。
アイドルマスターSideMが終わるわけではない。
これからもゲームではない別の形で続いていく。
そういう風に運営の人は言ったし、私もそう信じたい。
だけど、ソーシャルゲームとしてのアイドルマスターSideMは、サイスタは、終わってしまう。
こころがぐちゃぐちゃになっている。
ゲームを通して、私は初めてFRAMEの、そして英雄のプロデューサーになれたと感じた。
だから、他の人がどう感じるかは置いておいて私個人としては
「プロデュースが終わる」
という感覚で、いま虚脱感に襲われている。
ファンもプロデューサーも、どちらもアイドルにとって大切な一要素であることに違いはない。
そこに貴賤はない。それははっきりわかる。
でもプロデューサーじゃなくなる、ファンに戻る。
その感覚が、今はとても重くのしかかってくる。
それもまた否定しようのない事実で、人のこころとは一筋縄にはいかない。
「私は、またプロデューサーからファンに戻っていくんだ」
一報を聞いた時に頭に浮かんだその言葉がどうしても消えない。
英雄。
ずっと、英雄の夢を近くで見ていたかった。
もっともっと英雄のことをプロデュースし続けたかった。
英雄のプロデューサーでいたかった。
アプリが終わってほしくない。
世界中の神様に縋り付いて、なんで終わっちゃうんだと叫びたい。
私は、アイドルを近くでプロデュースするプロデューサーから一人のファンになる。
CDを買ってライブに行って、彼を遠くから応援する。
英雄は私のアイドルだ。
私の偶像。
そして私は、彼のファン。熱狂的な彼の信奉者だ。
英雄は、私がプロデューサーでもファンでも変わらない。
彼は私にとってのアイドルであり続ける。
これから先、私が私を何者であると形容しようとも、英雄がアイドルであることは変わらない。
アプリが終わっても。いつか、このコンテンツそのものが終わっても。
それだけが、今は私のこころを穏やかにしてくれる。
英雄、ずっとずっと英雄の夢を応援させてくれ。