アフターケアから見えた課題とインケアのための施設改革
児童養護施設における子どもたちのケアは、インケアとアフターケアの両方が必要です。これまで私たちは、子どもたちが退所後に社会で孤立せず、安定した生活を送るために、多くのアフターケアを実施してきました。令和5年度には約1500件のアフターケアを実施し、子どもたちの生育歴や孤独感、家族関係がもたらすさまざまな問題に直面してきました。実施していくなかで直面したことは、詐欺被害や保護者からの金銭的搾取、就労の継続困難、早期妊娠といった問題が数多く見られ、アフターケアの重要性がますます明確になっています。また職員不足によりインケアに注ぐ時間やパフォーマンスは非常に少なく、十分なケアを受けられない中での自立はアフターケアへの依存度をさらに高めているのが現状だと考えています。
アフターケアの成功には、インケア時の支援が大きく関わっています。インケアの段階で特定の職員と深く信頼関係を築いた子どもたちは、問題が発生する前に相談することが多く、結果として問題を未然に防ぐことができています。逆に、信頼関係が十分に築けていない場合は、退所後に問題が起こった後、二次被害へ問題が発展してから相談を受ける傾向が見られています。これにより、インケアの質を向上させることが、長期的なアフターケアの効果を高めるために不可欠であることが分かりました。
そこで私は、より良いインケアを行うためにまずは施設の改革が必要だと感じました。子どもたちと職員が質の高い時間を過ごせるようにするため、まず、勤務体制の改革を行いました。職員一人ひとりの負担を減らすため、会議を縮小し、無駄な勤務を見直しました。また、1日に出勤する職員数のバランスを見直し、業務の効率化を図ることで、職員が子どもたちと過ごす時間を確保しました。さらに、事務作業の負担を軽減し、職員が直接的なケアに集中できるようにしました。
「知ってる人おらんから帰りにくい」これは退所児童からよく聞く言葉です。職員が長く勤めることも、子どもたちにとって重要です。長く働くことで、子どもたちとの信頼関係がより深まり、アフターケアにおいても相談しやすい環境が生まれます。そのため、職員が長く勤められる職場環境を整えることに取り組みました。具体的には、賞与の増額や危険勤務手当の導入、5年及び10年勤続の職員に対する特別な賞与制度を設けました。また、キャリアアップや昇給意欲を促進するため、階級が上がるごとに個別の研修費を増額し、自己研鑽と専門性を得る機会を提供しています。
アフターケアから見えた課題を踏まえインケアの重要性を再確認し、またインケアの充実のためには職員の働く環境の改善が必要でした。安全性の高い職場環境とそこで生まれる専門的で温かいインケアと継続して行えるアフターケアの仕組みを整えることが子どもの最善の利益であると考えています。
最後にインケアを行うための環境は少しずつ改善されていますが、インケアにおいて最も重要である子どもの理解と関わるための専門知識や理解がまだまだ足りていないことが今の課題だと考えております。「施設におるときにもっと信じてれば(私のことを)人生変わったのにな」これはアフターケアを行う中で退所児童から言われた言葉です。この児童とは14年の付き合いがあります。退所後も繋がり続けられるようになるまでには楽しいことばかりではなく、何度もこの仕事をやめて逃げ出したくなる場面があったり、こちらが手を離すと消えていってしまいそうな感覚を受けてしまう場面が幾度とありました。大学へ進学後、大阪から東京に就職しましたが引っ越しやその他の手続きは私が東京まで足を運ぶことで、一緒に行いました。人生のライフイベントを傍で一緒に歩んでいくこの経験が、上記の言葉につながったと思っております。このような経験を通じて、子どもたちにとって支援者としての「伴走」の意義を実感しています。私のこれまでの経験を経験論として伝えていくのではなく、専門的な知識を踏まえ施設内で伝えていきたいと考えております。それがインケアの質の向上とアフターケアへ繋がると考えております。しかし、私にはまだ専門的知識を深める必要があると感じており、今回の研修を通じて子どもたちや支援する職員に必要な知識を持ち帰りたいと考えています。インケア、アフターケア問わず子どものたちのため、また働く職員のために施設改革を行い且つ、専門性の高い施設としてモデルになることが社会的役割だと考えております。