ザ・プラトニックラブ
2ヵ月ぶりに会う
ご飯をするのはクリスマスデート以来だった
もうあれから3ヵ月近く経ったのかと思いながら
待ち合わせ場所に急ぐ
最近はお店で落ち合うことが増えた
人目も気にしてるからかな
世の中は卒業式シーズン
門出をお祝いする人たちの間をぬうようにして
足早に私はチェーン店の居酒屋に向かった
いつも早めに来る彼は
変わらず早めにきていた
とりあえず、飲み放題で
って言うから飲む気満々なんやなあって
私は可愛くレモン酎ハイで乾杯
少しお腹も満たされてきた時
「自分史上最大に追い詰められた2か月でした」と…
聞くと、通常業務に加えて年始から始まった
災害支援のこともまだ引き続いていた。
それより、驚いたのは
「上席と相性が合わなかったみたい」と。
しかも、女性。
思わず「女性の扱いなんてちょろいと思っているあなたがなぜ・・・」と心の声がそのまま出てしまった。
彼も「そうやねん。」って。(笑い)
彼自身が悩んでいたこと、仕事のやり方で工夫したりさらに上席に助けを求めたけどダメだったり…
「俺、何があかんのやろって思ってさ。ずっと考えてたら、明け方に目は覚めてしまうし、職場に12時間くらいいることになってるし。なのに問題は解決しないどころか、増えていくし。ここまで仕事で追い詰められたのは初めてでさ・・・」って。
どんどんジョッキが増えていくのが切なくて
思わず私がさ
「それってパワハラじゃない?」
って言ったら、びっくりした表情してさ。
「パワハラってね、受け取った人がそう感じたらパワハラなんやで」
なんか妙な間合いがあったけど、彼がくしゃっと笑いながらさ
「じゃあパワハラだねぇ・・あいつ・・・」って。
そう、それでいいの。
そうやって距離をこの時間だけでも取れたらそれでいいのよ
「まあこの苦しみも実は昨日で終わったねん」
「春から異動になる。このパワハラBBAともおさらばやねん」
よかったやん~!って思わず乾杯
「だから、春からまた会いやすくなるね」
・・・こういうところやねん、ほんま・・・
さっきまで仕事でメンタルやられまくってて連絡も途切れるし会う日も決まらなくて私は別れまで予期していてたのにさ。
こういう一言で全部チャラにさせちゃうのよ、あの人は・・・
お席は二時間制なのでラストオーダーです
と声をかけられるまで話が途切れずいてた2人
ラストオーダーはせずお店を出る
まだ時計は20時を過ぎたあたりだった
「そこのBar、行っていい?」
もちろん。二軒目、行くつもりだったしOK
あれ?手を繋いでこないな
今日はそんな日か…
雑居ビルの5階
狭いエレベーターに乗って向かう
彼が顔を近づけてキスする
いつもソフトな感じなのに
離れてもすぐくるし
ちょっとディープさもある
思わず、声が漏れてしまった時に
5階です のアナウンスで一旦唇を離す
しっぽりとした雰囲気のバー
「子ども産まれてからこんなイイ雰囲気のバー来るの久しぶり」
って思わず言ってしまう
日常から一歩超えた非・日常
薄暗いバーのカウンターは
革張りの一人用ソファー席
ゆったりと座りながら2人で乾杯
私は仕事の話ばかりしていた
でもだんだん話しているうちに
「あなたがペアだった時はこんな風に助けてくれた」とか
「あのケースはどうなるかと思ったけど裏で動いてくれてたんだよね」とか
「あなたが動かせたあのケースはすごかった」とか
べた褒めばっかしてた
彼が嬉しそうに笑いながら
「金さえ用意してくれたら、戻ろうっかなあ」って。
ふと、胸が苦しくなってしまって
「ねえ、なんで退職したの…?」ってちょっとおセンチになってしまったのね。恥ずかしいけどね。
まあ理由はいろいろあったけども
私が「飽きやすいんだね」というと
「仕事に関してはね!仕事に関してだけ」と
やたら繰り返してた
「さっきのパワハラの話もだったし、部下とのやりとりで指摘を受けた話も出てたけど、私はあなたの仕事のスタンスは好きだったし同じ職種の先輩として尊敬してるよ。一緒に仕事できて楽しかったよ。」って伝えた時に
ふと表情が柔らかくなって、何かを隠すかのようにタバコに火をつけた
気づけばもう終電の時間
私が「わざと逃してタクシーで帰ろうかな」って言ったら
「春からまた会うんだしここは早めに帰っておいたほうがいいんじゃない」
「そのほうが次、出やすいでしょ」って。
ありがとうございました
バーのマスターの見送られ狭いエレベーターに乗り込む
閉まるや否やキスを重ねる
止めてほしくない
扉があかなければいいのにと願うほど
本当に甘い、一瞬の時間
キス以上はすすまない私たち
プラトニックな関係
守るべき最後の砦なのか
それも結局は都合のいい解釈なのは百も承知だけど、そんなことは今はどうでもいい
駅に向かう時は手をつないだ
別れる時も珍しくキスをする
少し離れたところとはいえ完全に隠れていない中で
あちこちにキスをする彼
「誰かに見られたらマズイ!」って言いながらも
やめてとは言えない私
「もう我慢するんやめたねん。だってしたいんやもん。」
普通に聞いたら冷めてしまうような言葉でも
どうして許してしまうんだろうね
ぎゅっと抱きしめて「大好き」って言えた
催促したら「好きやで」って返してくれた(強制w)
終電に乗り、ほどなくして連絡がくる
「今日はありがとう、美味しかったね」
「バーの雰囲気イイでしょ~」
「春からまた会えるのが嬉しい」
彼は他の人に比べると連絡不精だしメンタル弱いし
お酒もタバコもする
でも、やっぱり彼じゃないとダメなことの方が多いことに気付いて
分散をやめ、サイトもあれから再登録していない
アンビバレントな感情を抱くことは
度々あると思う
幸せな時間はものの数時間しかなくて
会えない時間が圧倒的に多い関係の中で
精神的に安定して過ごすのは
私にとって試練に近い
我慢し耐え忍ばないといけないくらい
苦行だと思っている
でも
やっぱり幸せだったし
やっぱり嬉しかったし
やっぱり楽しかった
やっぱり大好きだった
もうすぐ長く冷たかった冬が終わる
穏やかで暖かな春がすぐそこにいるはず
私たちの関係は儚い
いつ終わるかわからない
…
いつ終わるか分からないから
それまでは一緒にいよう
こんな長く、くだらない話に付き合ってくれる優しいあなたに感謝…🌼
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?