超短編小説「至誠」

被害者のふりを続けるのはやめたんだ。
自分の心は自分だけのもの。


ななみは、窓から差し込む光に顔を向けて横たわる。その光は春の柔らかさを感じさせ、一瞬だけ彼女の顔にも温かさをもたらした。しかし、部屋の隅に目を向ければ、そこには未開封の結婚式の招待状が重たく転がっていた。私の視線がそれに触れるたびに、胸はとても重く苦しくなる。


結婚を迫る家族からの期待は日増しに重くのしかかり、ななみはその重みに押しつぶされそうになっていた。彼女にとって、この結婚はただの形式でしかなかった。心から愛せる人と結婚することは、彼女には許されていなかった。愛する人、ゆいかの存在を誰にも打ち明ける勇気もなければ、その愛を自分自身で肯定する勇気もなかった。


ゆいかは、ななみにとって唯一の救いだった。彼女と過ごす時間だけが、ななみに真の自分でいることを許してくれた。しかし、ゆいかはななみの心の中にある強い熱情を知る由もなかった。ななみにとって、ゆいかへの感情は伝えてわならない秘めた宝石のようなもので、その輝きを誰にも見せることができなかった。


一方で、幼馴染の男性との結婚が迫っていることで、彼女の心は日に日に追い詰められていった。結婚式の準備が進むにつれて、ななみは自分が演じている役割に耐えられなくなってきた。彼女はその全てが嘘であることをわかっていた。愛も、幸せも、未来も、全てが偽りの塊だった。


そしてついに、結婚式の前夜、ななみは決断を下した。この偽りの生を続けることはできないと。彼女は一枚の手紙を残した。それはゆいか宛てのもので、ななみのすべての想いが綴られていた。家族、友人、そして幼馴染には何も語らず、ななみはこの世を去ることを選んだ。彼女の心の中にある唯一の真実、ゆいかへの愛だけが、最後の証として残された。


自室の机の上に置かれたその手紙は、ななみの存在全てを物語っていた。その文字は震えており、感情が込められていることが伝わってきた。彼女の心の叫びが、静かな夜の空気を震わせるかのようだった。


「ゆいかへ、

私はずっと自分の感情を抑えて生きてきました。
でも、もう限界がきてしまったみたいです。
ゆいかには私のこの愛がどれほどのものか、決して伝わらず終わるかもしれない。
でも、あなたへの愛だけが、私の生きた証です。
どうか幸せになってください。
そして時々でいい、私のことを思い出してください。

永遠にあなたを愛しています。

ななみより」


この手紙が家族や幼馴染に見つかることはなかった。ななみの家族は、彼女がどのような理由でこの選択をしたのか理解できずに残された。彼女の死は、多くの疑問を残し、同時に多くの心を痛めた。しかし、ななみにとっては、それが最も誠実な自己表現だったのかもしれない。彼女は最後に、自分の心を私に託したのだから。

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