浦島太郎をなんとかしてハッピーエンドにする 3
浦島太郎は、これからのことを考えていました。竜宮城は美しいところで、乙姫様も親切。なにより、命を狙われる心配はない。しかし、何もすることがない。今まで、魚を釣ったり、母の畑を手伝ったりして、毎日過ごしてきた。特別なことはなかったが、幸せだった。ここでは、魚を釣っても誰も喜んでくれないし、畑もない。乙姫様も何不自由なく暮らしている。
「浦島さーん。浦島さーん。」
遠くから名前を呼ぶ声が心に響いてきます。それはこちらに向かっている亀の声でした。
「お母様は無事です。村も平和になりました。」
陸での出来事を聞き、浦島さんは村へ戻ることに決めました。たった数日離れただけだけれど、母親に会いたくてたまらなくなりました。
浦島さんは事情を乙姫様にに説明し、亀に陸まで送ってもらえるようお願いしました。乙姫様は、陸から来たものに必ず渡さなければならない玉手箱を渡しました。本当は、陸に着いてすぐこの箱を開けるように言うことが決まりとなっていました。しかし、乙姫様はこの箱を開けてはいけませんと言いました。浦島さんの母親は老女になっていた。会える可能性は低い。ならば、新しい人生を始めた方が幸せなのでは、と思ったのです。
乙姫様にお礼を言い、浦島さんは陸に帰りました。亀は、何も言わず、静かに海に戻りました。
静かな浜辺は、よく知った風景なのにどこかよその国に来たような感じがしました。数日家を空けただけなのに、懐かしいと思えてきました。
家に着くと、今までと違う空気が流れていました。
「ただいま」
扉を開けると、土間に見知らぬ男が立っていました。
「どちら様ですが?」
二人は同時に同じ言葉を言ってしまいました。
「この家には、女の人が住んでるはずですが」
「以前、この家にはおばあさんが一人で暮らしていました。」
男は、おばあさんのお世話をずっとしていて、おばあさんが亡くなった後はこの家に暮らしていると言いました。
「もし、おばあさんの息子さんが訪ねてきたら渡して欲しいと、手紙を預かっているのです。あなたは、もしかして、息子さんのご子息ですか?。もう随分おじいさんになっているかもしれませんが、お元気だったら、ここに来て欲しいと伝えてくれませんか。」
浦島さんは、首を縦に振って、ひとまず家を後にしました。頭はとても混乱しました。私は数日家を空けただけ。でも、今いる世界は数日前とは違う。つじつまを合わせるには、どう考えても、自分が何十年も家を空けていたと考えるしかありません。竜宮城へ行ったのだから、そういうこともあるだろう。浦島さんは、時間のずれを受け入れました。
「母は、もう、いないのか・・・。」
何の為に戻って来たのだろう。悲しみがじわじわ体に広がりました。
もう会えないと覚悟して家は出たものの、いざ本当に会えないと知ると力が抜けて地面にひざから崩れ落ちました。
「手紙を預かっている・・・。」とあの男は言っていた。母の言葉が知りたい。でも私は若いままだ。どうすればいいのだろう。
そのとき、今、手にしている不思議な箱を思い出しました。乙姫様は、なぜ開けてはいけない箱を私にわざわざ持たせたのだろう。亀はなせ、別れ際に何も言わなかったのだろう。この箱は、開けて欲しくないけれど、開けるべき箱なんじゃないだろうか?私に気を遣って、何も言わなかったんじゃないか。
浦島さんは、箱の紐に手をかけました。
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