【お仕事小説 AI時代の政治家の演説】ちがうんだよな(1)
1.AIの自動生成、なんだかなぁ
「違うんだよ」
衆議院議員の谷中二郎は、スマートフォンを眺めてそう言った。
スマホのアプリの中には、このような演説のテキストが踊っている。
「どれどれ、ちょっと見てあげようか」
そう言って二郎のスマホを取り上げたのは妻のアキエである。
「なおみちゃん! ちょっと来て! 手伝ってくれるかしら」
アキエが秘書のなおみに叫ぶのを聞いて、二郎はこう言った。
「なんだなんだ、君たちはまた寄ってたかって俺をやりこめようってのか」
と言いながらも、二郎の顔は笑っていた。
アキエは役所に勤めていた時の同僚である。なおみの夫も同じ役所の課長、官僚は一般的に堅いイメージがある。しかし、事務所は家庭的な雰囲気を醸し出していた。
「奥様」なおみが言った。
「これ、二郎さんの駅立ちのネタね」
「はい」
「ちょっとうちの旦那のキャラとは温度差があるので、磨いてもらっていい」
「はい」
「ざっくり、きざんでもらえればいいわね。旦那はお膳立てを組んであげれば、選ぶのはお上手なので、そこんところよろしくね」
「はーい」
二人がかりで真綿を締めるというか、イジり倒すとでも言うのか、いつも小気味よく言葉を回すアキエとなおみは実にいいコンビだというのが二郎の思いであった。
2.人間が三人集まりゃ最強じゃー
「先生」なおみの声である。
「ああ」二郎は目を覚ました。新幹線の座席である。
「原稿できました。チェックしていただいてよろしいですか?」
「ありがとう。ただ広島まであと3時間位かかるよね。声を出すと他の人に迷惑になるので、チャットでやり取りするか。アキエは寝てるのかな?」
なおみは、ぼんやりと富士山を眺めているアキエに目をやりながら言った
「いいえ、でもお疲れのようですね」
「仕方ないな。かわいそうだけど、目覚まし時計の代わりに派手に爆竹でも鳴らしてみるか……」
「……な」と言い終わるぐらいのタイミングで、アキエがこちらに目線を向けてきた。
(全部お見通しよ。わかっているわね)
そう思っているであろう彼女の目は笑っていた。
まず、直感で答えてちょうだい。
この内容、この選択、あなたの満足度でいえば何点かしら?
85点かな。
15点のマイナス要因は何かしら?
「🅰懐が寒い~」このネタは下手すると炎上するリスクもあるかもしれない。
🅱(この部分は割愛する)じゃダメなの?
ウィットをきかせることで、聴衆の心をつかみたい。
「谷中二郎って、こんなこともいうんだ」
極端に言えば、多少リスクをとってでも、新しい支持者からの人気を得たい。僕のニーズを言語化すれば、こんな表現になるのかな。
なおみちゃん。二郎さんの思いを踏まえて
「🅰懐が寒い~」
この部分の炎上リスクを抑える形で、磨いてくれるかしら。
はい!
自虐的なニュアンスで「私の懐が寒い」
これは、ユーモアではなく「ふざけ」と受け止められるかもしれません。
「みなさんの」懐具合、もし親しみやすさを演出するワードを盛り込むとすれば、これがギリギリのラインになるかと思います。
実はこんなエピソードを知ってるんだよね。
まぁ、それで「懐が寒い」とかっていう話を入れ込んだわけ。
いや、さっきの演説の原稿は、何年か前に僕がSNSの中で引用した上記の内容を読み込んで、AIがアレンジした内容をレコメンドで提案してきたと思う。
最近のAIチャット(2025年を想定)は、生成した文章のソースをかなり精度の高い形で返してくると思います。チェックが甘い形で、原稿をリライトしてしまったことは申し訳ありませんでした。
いいのよ、なおみちゃん。そのためにあたしたちがいるんだから。
二郎さんの「世間さまには言えない」ネタも、いずれ教えてあげるのでよろしくね。
はい! 楽しみにしています!
君たちは敵に回すと怖いな。
でも、面白いので許すw
3.本日のまとめ
今回ご紹介したのは、「きざむ文章(選択式文章法)」というテクニックです。
「自分の言いたいこと」を言ってしまい
「出来上がった文章」を見ただけで満足し、そこで考えを止めてしまう。
①もしかす(れば/ると)
②(この部分は割愛する)
私たちにも、(思い当たる節/心当たり)があるかもしれません。
この「きざむ文章(選択式文章法)」は、今(2023年9月28日)のAIチャットの技術では、今回紹介したレベルのコンテンツを生成することは(困難です/無理ゲーといえるでしょう)。
しかし、「子どものオモチャ」レベルの切り分けは、ChatGPTのプロンプトで生成可能ですので、ChatGPT Plusという有料版をご利用の方は一度試してみてください。
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お仕事小説「ちがうんだよな」次回もお楽しみに!