自分の給与はどこからもらっていますか?
「自分の給与はどこから、もらっていますか?」
若手ビジネスパーソンに対してよく投げかけられるこの問いかけは、日本の企業に限らず、これからは、アジアの企業においても、特に教育の現場で頻繁に使われるようになるだろう。
当社は、日本だけではなくベトナムでも、企業経営のサポートをしている。
その中でも、創業時からお客様の社員研修サポートには力を入れてきた。
計画的、継続的な社員教育なくして、中長期に渡っての企業の繁栄はあり得ないと確信しているからだ。
最近は、ベトナムでも社員研修の依頼が急増している。
特に、マネージャークラスが相当数不足しているため、
幹部社員の育成は、ベトナム人経営者にとって大きな課題として認識されている。
背景には、会社経営や組織運営について、先進国の日本や欧米に学ぼうとするベトナム人経営者が、本気で組織作りに取り組み始めたことがあるからだ。
私もベトナムで何社か幹部研修を受け持ってきたが、社長の意外なほどの熱意に驚きと新鮮さを覚えた。
「会社とは何か? 働くとはどういうことか?をレクチャーの中に取りいれて欲しい」と要求してくるのだ。
その目的を確認すると、次のような言葉が返ってきた。
「ベトナムはビジネスに関して、未成熟な社会であり、ゆえに会社の存在、役割などが分かっていない社員が多くて苦労しているから」
なにも一年生社員だけではなく、幹部クラスでも似たようなものだという。
日本の経営と比較してみても、随分と骨の折れる経営環境だとつくづく思う。
ベトナムの若者にとって会社の存在は、日本に比べて軽い存在なのだろう。
これでは、会社への帰属意識など期待できないのも無理はない。
私は、日本でもベトナムでも新入社員クラスの研修では一部同じことを話している。
それが冒頭の質問である。
給与は会社からもらうと答える者がいる。
しかし、なかには「社長からもらってる」と答える社員もいる。
そこで、「自分の給与はお客様からもらっているんですよ」と話すと、
一様に驚きと納得の表情を浮かべる。
ベトナムや中国など顧客サービス品質は、先進国と比べるとまだまだ後進国の領域だ。
初めてこれらの国に訪れて、一番日本人がストレスを感じることの一つが、
そのサービスレベルの低さだろう。
現地で一流のホテルといえども、日本のそれに比べると格段にサービスレベルが違う。
彼らの発想の原点は、きめ細やかにお客様にサービスを提供することは余計な仕事なのだ。
会社で与えられた仕事をそれなりにこなすレベルからそんなに簡単に脱却できるとは思えない。
まして「顧客を見て仕事をしなさい」と教えるのは相当骨が折れる。
こんな教育は“砂漠に水をまくようなもの”と、あきらめモードの日本人経営者も結構多い。
しかし、こんな状況のベトナムでも、給与はお客様からもらうものという考え方が理解されるから不思議だ。
図で説明すればなおよく理解できる。
顧客 -> 会社 -> 自分
こんな簡単な図で十分足りる。
ベトナム人であろうとどこの国の人であろうが、原点に戻って説明し、「なぜそうなるのか?」と考えさせれば、大抵の人が気づくものだ。
一方、日本。
少なくともアジアのこれらの国よりも、お客様目線で仕事をしているといえるだろう。
特に、この10年は、お客様目線で仕事をする会社が増えた。
と同時に、大きく二極化が進んだように感じる。
例えば、役所などは変わった。
10年前は本当に酷かった。
市役所へ行けば、ストレスが溜まることこの上ない。
住民の事より自分たちを優先することが対面していてよく分かった。
それが、顧客である住民に『サービスを提供する』という姿勢が見られるようになった。
病院ですら、今や患者の満足度を考えるところが増えた。
ホテルやレストランなど、日々、サービスレベルの向上に向けて研鑽している。
ところが、一方では相変わらずの自分の会社しか見ずに仕事をしているビジネスパーソンも多い。
大企業の中にも一向に変化の兆しのないところもある。
銀行を筆頭に、IR上は顧客を大切にすると標榜しておきながら、自分たちの都合だけを優先している人は多いし、最悪のケースは、自分の上司しか見ていない“スーパー保身人間”も存在する。
こういう面々は、おそらく自分の給与は会社から支払われていると考えているのだろう。
酷い社員になると、自分にかかる人件費は、給与として支払われる分だけだ
と思っている勘違い族も多い。
当然、会社が社会保険や健康保険の半分近く支払っているし、福利厚生についても、別途会社が費用を負担している。
その他にも、教育や社員採用の費用なども相当な額に達する。
多くの人が、この程度の会社の仕組みすら知らないし、知ろうとしないのだ。
私は、時々、大企業から独立したての知人によく言われる。
“近藤さん、自分でやるって大変ですね。
何から何まで自分のお金で支払わないといけないから”と。
今までいわゆるサラリーマンとして会社にいると気づかなかった事が、よく見えてきたということだ。
こういう人は、まだ幸せと言える。
気づく機会があったのだから。
顧客に商品やサービスを提供して、満足して頂き、そして、その対価を頂く。
これで初めて商売が成立するわけだし、更に利益確保が会社の存続のためには必須だ。
本来は、それを達成して初めて、報酬が受け取れる。
商売の基本を身につければ、日本でもアジアでも、どんな激動の時代がやって来ようとも、有能なビジネスパーソンとして活躍できるだろう。
(本記事は、ブログ「近藤昇の会社は社会の入り口だ」に、2008年11月17日に投稿したものです。)