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アジアで働くことが当たり前になる時代を見据えて

今年の当社の採用説明会も8月で終了した。
世の中の情勢にあわせて、今年はいつもより長めに採用活動を行った。
予定通りの採用人数に達しそうで、来年の春が待ち遠しい。
当社では、管理などの特定職種以外は、アジアで働くことを前提に応募してもらっている。
ここでいうアジアとは、もちろん日本も含んだアジアである。
勤務地でいえば、東京、神戸、名古屋、上海、ホーチミン、シンガポール、バンコク…。
毎年、こんな勤務地で働きたいという学生を募集してきた。
もちろん、転勤も前提にしている。


とはいえ、今の日本で『アジアで働きたい』と志向している学生はまだまだ少ない。
そもそも、アジアで働くと聞いても具体的にイメージできる学生は少ないのが現実だろう。
今の日本の中で生活し、日本の社会に慣れ親しんでいるのだから仕方がない。
少なくとも、日本国内で一時期だけの就職活動をする体験だけでは、よほどのことがない限り、アジアで働くことはイメージできないだろう。
それと同時に、海外志向の若者もまだまだ欧米志向で、アジア体験を持つ学生は稀だ。
アジアの大学に留学していたとか、アジアでインターンを半年経験しているなどの変わり者は少数派である。
中には、NPO、NGOでアジアに短期間、関わったことがある人もいるが、アジアの経験値としては物足りなさを感じる。
ボランティアそのものは立派ではあるが、アジアで働く体験としては、少し違うと思う。
いずれにしても、学生全体で見ればアジア体験をすでに持っている人は、数%に満たないだろう。


一方で、日本企業のアジア展開は、加速度を増している。
特に震災後は顕著である。
今後少なくとも半世紀は変わらない流れだと思う。
大なり小なり、企業が本格的にアジアに出る時代に突入したのだ。
それにつられて自ずと日本人がアジアで働くようになる時代が迫っている。
考え方次第だが、日本以外の国で働く場所が無限に広がりそうである。
日本人、とりわけ若者にとっては、喜ばしいことにも思える。


しかし、現実は厳しい。
日本企業がアジアに事業展開する際、必ずしも日本人を必要とするわけではないからである。
正確に言えば、現地での企業活動で必要なキーマンは日本人かもしれないが、組織を構成するスタッフは現地人を選択するほうがコスト面、現実のオペレーションの観点からも経営の理にかなっている。
さらに、進出企業が最終的に現地に根付くためには、社長などの経営陣も現地化するのがベストな選択だろう。
日本人が、今の日本をベースにして組織や仕組みを作り、活動している限り、日本の外で勝負するには世界一高い人件費が足枷(あしかせ)になる。
日本人の人件費は、アジア現地のそれと比べたら相当高い。
中堅クラスでも、コストパフォーマンスに見合うスキルを持ったビジネスパーソンの数は知れているし、いきなり大卒者がコストに見合った貢献をすることは到底無理なことである。


すでに、中国や世界に展開するユニクロなどでは、海外展開を見据えて、英語を社内公用語としている。
賛否あるにしても、アジアや世界で戦うためには、経営の仕組みや雇用形態、人事評価制度、教育制度などが、今までのように日本的では行き詰るのは目に見えている。
先手必勝の経営戦略への転換が必須だ。
また、仮に日本国内での仕事でも、必ずしも日本人でないと出来ない仕事の領域は日々狭まっている。
IT分野は言うまでもなく、中国人などの“優秀組”が、どんどんと日本人の仕事の領域に入り込んでいる。
これからは、日本に残るのも、アジアに出るのも大変であることは間違いないのだ。


では、これから、現代の若者はどうすればよいのだろうか?
答えはシンプルである。
個人にとっても先手必勝が大切である。
シニアに比べれば、まだまだ自己投資や勉強する時間がたっぷりある。
先を見て、見識やスキルを磨くことである。


日本の企業に就職して、日系企業の現地で働く。
いろいろなパターンがあるが、これが一番オーソドックスなアジアでの働き方だろう。
しかし、いつまでも、日本国内基準で報酬がもらえるかというとそれは難しい。
日本の企業はすでに、グローバルなコスト競争の中に巻き込まれている。
コスト面など経済合理性から考えても、現地の報酬体系に徐々に近づいていくだろう。
現地にある日本企業にダイレクトに就職する。
これは今でも現地の報酬体系による処遇となるのが一般的だ。
現地で生活することが前提の現地採用だから当たり前だ。
この2つのパターンはいずれもアジア現地で活動する日系企業で働くという構図である。


今後の日系企業にとって、現地で日本人を雇用する機会は、日本国内で雇用機会の減少を埋めるほどに増えることはない。
一方で、中国やベトナムの現地企業が日本人を採用したいニーズは徐々に増えるだろう。
従来の日本ブランドに依存した働き方ではなく、
日本ブランド浸透の実践者となるスキルを持っていれば、現地の企業に就職できる機会は無限に広がるはずだ。

(本記事は、ブログ「近藤昇の会社は社会の入り口だ」に、2011年8月31日に投稿したものです。)