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中小企業は初心に戻り、“激安IT”を活用しよう

 <要約>メーカー、ベンダー各社の中堅・中小企業市場への攻勢が激化している。しかし、そのほとんどが従来の大手企業向け製品の機能を削いで価格を下げたものを供給することに留まっている。中堅・中小企業は、いきなりこうした製品を導入すべきではない。それよりも、本格的なIT化を検討できるだけのITリテラシーが身に付いているかを省みるべきだ。その目安として、“激安IT”の活用がどこまでできているかをチェックしてみよう。


 最近、理髪店のフランチャイズチェーンを急拡大させているベンチャー企業の社長の話を聞いた。この理髪店では、駅構内やちょっとした人が集まるスペースで、10分1000円のサービス価格で散髪ができる。消費者にお金と時間を有効活用してもらうことをコンセプトに掲げて急成長中だ。この企業の成功の秘訣は「理髪店を利用する顧客の何割かは、頭も洗わなくてもよい、ひげもそらなくてよい、髪の毛さえキレイに刈ってもらえれば良い」という、いたってシンプルなニーズに応えたことにあるという。

 ふと、ITサービスについても、こういうサービスはできないものかと考えた。IT投資には結構なコストが掛かる。バブルの頃ならともかく、ただでさえ資金繰りが厳しい昨今、無駄な投資や導入の失敗は誰しもしたくない。これは中堅・中小企業の経営者に限らず、IT担当者も同じ気持ちだろう。いきなり何百万円単位の投資を考える前に、まずはわずかの投資でできるIT活用法を、もう一度おさらいしてみよう。こうしたリーズナブルかつ基本的なIT活用がクリアできて、初めて次の段階に進めるのだと筆者は考えている。チェックリストのつもりで参照していただければ幸いだ。

●電子メールの徹底活用

 SFAやワークフローなど、専門機能に特化したソフトは多い。こういうソフトは値段もそこそこするし、習熟にも時間がかかる。「こうしたソフトに取り組む前に電子メールの活用の深堀を」…今までも何回かコラムに書いてきたことである。電子メールは習熟するのも簡単だし、無料もしくは値段も安い。

 テキストをタイピングできるスキルがあって、パソコンの操作が一通りこなせるような状態に社員がスキルアップできているならば、電子メールは大変格安の情報共有化ツールとして使える。電子メールを徹底して使う事で、情報共有化はかなりのレベルまで実現することが可能だし、使っていく過程でITスキルも鍛えることができる。SFAやワークフローなどのソフトは、電子メールを使いこなせるようになってから導入するのが成功確率も高いし、有効な使い方ができるようになる。

●携帯メールの活用

 地域密着型で住宅機器設備などの販売、修理などを行っているA社の事例。A社はサービスマンが営業も兼ねているが、彼らは、昼間は社外に出ずっぱりだ。サービスマンを統括する立場の店長は、夕方店に戻ってくるサービスマンの報告を聞いて翌日の指示を与えていたが、これではお客様からの苦情が有った時に後手に回ってしまうのが悩みの種だった。そこで店長が考えたのは、サービスマン全員に携帯電話を持たせ、何か問題が起こった時は、その場で店長に連絡を取らせて指示を与えることだ。

 実際に携帯電話を導入すると、サービスマンからの緊急連絡以外にも、サービスマンに檄を飛ばすために店長が携帯メールで一斉にコメントを発信したり、店長が気付いたことなどを個別でメール指示が行なえるなど、便利な使い方が色々と広がってきている。A社では携帯電話を使う事で、昼間は接点の無かった店長とサービスマンたちの円滑なコミュニケーションを実現した。

●EXCELのタフな活用

 EXCELの弊害については、第21回で少し触れた。企業内でのEXCELシートの乱発や管理不備は、実際、いまだに中小企業の現場でよく見かける問題だ。これは大企業でも事情はそんなに変わらないだろう。

 しかし、EXCELの活用では成功事例も多いことも事実である。中途半端にEXCELを使い始めると落とし穴にはまって行くが、システム構築の基本スタンスに則ってEXCELを使っていくと、これほど便利なものはないのも事実である。顧客データベースも作成できるし、データ登録フォームも作成できる。見積書、文書なども当たり前にできる。

 EXCELの活用のポイントは、“一元管理の思想”である。トータル的なシステムをイメージしながら、必要な機能をEXCELで作っていけばよい。そうすれば増改築は簡単だし、何よりもそれほどの専門知識が必要なわけではないので、比較的簡単にシステムを構築できる。

●フリーソフトの活用

 フリーソフトとは、無償で使用できるソフトウエアのことだ。IT関連の雑誌の付録に付いていたり、様々なホームページで無償でダウンロードできるものが多い。例えば、建築設計の分野ではJW-CADというソフトが有名だ。このソフトはいわゆるCADソフトで、建築図面を描くソフトである。

 JW-CADはフリーソフトだが、有償で販売しているCADソフトの向こうを張って、根強いファンが多い。実際に、中小の建築業や設計事務所での普及率はかなりのものである。フリーソフトでこのレベルまで普及しているものはそう多くはないが、中途半端なソフト開発を行うよりも、すぐれもののフリーソフトは実際に多い。表計算のテンプレートくらいだったらなおさらだ。ソフトを選択する時に、選択肢の1つに加えて損は無い。

●ASPの活用

 これは、第47回でも触れたテーマだが、もう一度確認しておきたいポイントだ。

 最近、新興企業としてIPO[initial public offering=株式公開]をして潤沢な資金を調達したB社の事例を紹介しよう。B社のIT導入の目的は顧客作り活動である。B社は毎年何億円もの利益を計上しており手持ち資金は潤沢だが、キャッシュフローの大切さを身にしみて理解している。そのため、IT活用については、投資対効果を厳しく評価して堅実な選択をした。様々な方法を比較検討した結果、SFA[sales force automation=営業力強化のためのITツール]のソフトをASP[application service provider]で導入したのだ。

 ASPとは、簡単に言えば「インターネットを通じたソフトウエアのレンタル」のことである。ASP事業者のサーバーのソフトをオンラインで借りて使うため、サーバーのメンテナンスに人員を割かずにすみ、なおかつ月払いの料金で常に最新バージョンのソフトが利用できる。B社の場合は初期投資で数万円、ランニングコストも毎月2万円程度である。ASPと言えども、ITツールとしての機能は必要十分なものが揃っており、中堅企業クラスが活用していくのに全く問題はない。B社では、もともと営業部隊が日報を通じた情報共有を徹底していたため、ASP導入はスムーズに進み、非常に効率の良い営業活動を展開している。

(本記事は、「SmallBiz(スモールビズ)※」に寄稿したコラム「近藤昇の『こうして起こせ、社内情報革命』」に、「第61回 中小企業は初心に戻り、“激安IT”を活用しよう」として、2003年11月4日に掲載されたものです。)
※日経BP社が2001年から2004年まで運営していた中堅・中小企業向け情報サイト