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グループウエアが中小企業に根付かない理由

 日々、さまざまな企業のシステム化をお手伝いしていて気づくのは、昨今は中小企業であっても既にグループウエアを導入しているところが少なくないということだ。ひところに比べてグループウエアの値段が大幅に下がったということもあるだろうし、「グループウエア導入は情報共有化の第一歩」といった認識が進んだこともあるのだろう。いずれにせよ結構なことではある。
 私が実感するところでは、グループウエアを導入した企業は、まずはその掲示板機能とスケジュール管理機能とを試してみようとする傾向にあるようだ。何といってもこの2つの機能は情報共有の基本中の基本でもあるし、かつどんなグループウエアにも備わっているからだ。

 導入後、大抵の経営者はこんなことを考える。「社長からのメッセージや社内の伝達事項を掲示板に掲載すれば、大いに時間の節約になるだろう。それに各自の行動予定を共有して連携がスムーズになれば、さぞかし仕事も効率化することだろう」…。夢がどんどん広がるのはいいが、本当にそんな思惑通りに事が進んでいるのかというと、はなはだ心もとないのが現実だ。

 なぜだろうか。導入しただけでつい安心してしまい、それを「社員にどう使わせるか」という発想まで至っていないからである。グループウエアは「グループ」という名前がいみじくも示すようにグループで、つまりは部門なり社内なりの全員で使ってこそ効果を発揮するものだ。

●中小企業は二つのネックを抱えている

 社員のパソコン習熟度は様々なのだから、経営者としては当然、初心者でもグループウエアを自発的に利用してくれるような工夫を凝らさなくてはならない。ITリテラシーのない集団にグループウエアを持ってきたところで、それは従来の板書(ホワイトボード)にすら劣るだろう。少なくとも「ホワイトボードの使い方がわからない」という人間はいないからだ。

 加えて、在来型の中小企業は、社員同士の“報告・連絡・相談のリテラシー”も高くない。よく“大企業病”という言葉を使うが、社員間の連絡の悪さ、職種の違いによるセクショナリズムは、実は中小企業のほうがはるかに深刻なのである。この中小企業の“大企業病”に対して有効なてだてを考えないと、どんなよいツールも宝の持ち腐れになる。

 では、どうしたら自発的に使ってもらえるようになるのか。一つには、言葉は悪いが何かしらの「ニンジン」を社員の鼻先にブラ下げることだと思う。掲示板を使わせたいのであれば、賞金付きのコンペ形式で商品開発のアイデアを募集してみるとか、書き込み数に応じてポイントを与えてそれを人事査定に反映させるとかいったことを試してみるといい。

 あるいは、「管理人」(というよりは、何でも相談できる世話役)のような立場の人間を置いて社員をフォローアップし、利用を促してもいいだろう。例えば、一つの案件に対して数名のチームを作って実際にスケジュールを共有させ、メンバー同士のスケジュールが共有されているのといないのとでは、どれだけ効率に差が出るかを実感させてみるのだ。

 中小企業の現実は、システムプロバイダーの方々が思っているほどには進んでいない。現に、目下私の会社であるブレインワークスでは「いかにして中小企業のクライアントのコンピューター・アレルギーを和らげるか」「全員は無理としても、せめて半数の人間をコンピューターに親しめるようにするにはどうしたらいいか」といった問題が大まじめに論じられているのだ。

 もともと存在する“報告・連絡・相談リテラシー”の低さに加え、大企業とは比較にならないパソコンリテラシーの低さ…この現実からスタートしないと情報共有ツールの普及は進まない。現に、グループウエアが主要製品であるITベンダーの顧客構成を見ると、いまだに圧倒的に大企業が中心である。元々ノーツを全社的に使っていた大企業ユーザーが、部署単位で気軽に使える安価なツールとしてグループウエアを導入しているというのが現状なのだ。機能を削ぎ落として価格を下げれば、中小企業でも導入・活用が進むというほど、事は簡単ではない。

●“ベタな方法”を軽視してはならない

 だから、中小企業相手のIT導入支援では、「ベタな」方策を軽視してはいけない。登山でいえば、いきなり頂上を目指すのが無謀であるのと同様に、コンピューターに関する何の素養もないところからいきなり高度な使い方ができるはずもないのは当然だろう。地道な努力・ささやかな工夫の積み重ねによって徐々に克服していくしかないのだ。

 要は、社員のモチベーションをいかにして高め、それを維持していくかというメンタルな問題のほうが、技術論より優先度がはるかに高いということだ。「モチベーション」というと、えてして古風な精神論が連想され、システムの専門家からは何かと忌避される傾向にある。冷静になって考えれば、これはあらゆる企業活動の根幹に位置づけられるものだと私は思う。

 前述の通り、確かにグループウエアは安くなっている。だから経営者にしてみれば、導入に失敗したところで「ああ、いい勉強になった」で済ますこともできるだろう。しかし、「いい勉強」を二度、三度と繰り返すのは愚か者の所業である。愚か者にならないためにはどうするか…。それは、古典的な中小企業経営論ではあるが、社員のモチベーションを高め、その結果としてグループウエアを有効に使い切ることに尽きるのである。

(本記事は、「SmallBiz(スモールビズ)※」に寄稿したコラム「近藤昇の『こうして起こせ、社内情報革命』」に、「第31回 グループウエアが中小企業に根付かない理由」として、2002年8月26日に掲載されたものです。)
※日経BP社が2001年から2004年まで運営していた中堅・中小企業向け情報サイト