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全体観を欠いたコスト削減は、小手先の効果しかもたらさない

 中小企業は今、どこの会社も同じようないくつかの経営課題を抱えている。その中でも、きちんと利益を出して金融機関の信頼をつなぎ止めることが、今や最大の課題と言える。これを実現するための方策の一つは売り上げを拡大することである。そして、もう一つがコストの削減である。
 仕事柄、多くの企業にヒアリングをする機会があるが、企業が経営・ITコンサルティングに求める成果は、はっきりと後者にシフトしつつある。結構なことだと思う。右肩上がりの経済成長が終わりを告げた現在、前者を実現するのは非常に困難だからだ。しかし、「コスト削減ならば手っ取り早くできるはず」という安易な思い込みにはご注意いただきたい。

 「コスト」は企業活動の多岐にわたって遍在しており、なおかつ経営そのものとも密接にかかわっている。即ち「コストを削減する」とは、とりもなおさず「経営をどうするか」ということにつながる。このことを取り違えているのは、私見だが、経営者よりもむしろ経営幹部(一般的には部長クラス)に多いように見受けられる。

●経営幹部ですら「コスト削減」の認識が甘い

 創業以来20年以上にわたって企業向けのサービス提供を手掛けてきた某社では、年々斬減していく売り上げを何とかすべく、新規事業・サービスの立ち上げを計画した。もちろん、そのために回せる資金は皆無に近い状態である。そこで私は、「組織改革や事業部そのものの見直しを図り、それによってコストを削減し、事業資金を捻出しましょう」と提案した。ところが、同社サービス部門の部長氏は、眉間に皺をよせて「それはコスト削減の話とは違う」と言い切った。

 この人にとっては、「コスト削減」というと、電気代やコピー代・消耗品などの節約や人件費の削減といったことしか浮かばなかったのだろう。しかしそんなことは、社会人一年生でも思い付くことではないか。一企業の要職にある人物ですら、その程度の認識でしかないことに驚かされたが、しかしその後、様々な企業を見聞きするうちに、これは決して特別な例ではないことを思い知った。

 世の中を見回せば「人件費の削減」も、コスト削減のための有力な一手法として定着してしまった観がある。もちろんそれ自体を否定するものではないが、特に中小企業の場合、そこから先に話が進むことは稀だ。これは少々問題であると思う。経営そのものの見直しを図る機会を逸するからである。既に述べた通り、コスト削減を考えるとは、経営そのものを考えることに等しいのだ。

●原価構成を常にイメージせよ

 コスト削減は、原価構成で考えるのが基本である。製造業・サービス業を問わず、材料費や人件費、施設費・設備費など、コストを構成する要素を一つ一つ検証し、企業活動の維持という全体観を持ちながら、無駄を省いていく作業が不可欠だ。そして、なるべく大きな費用項目から優先的に攻めるほうが、効果はあがりやすい。先の例で言えば、サービス会社の最大の費用項目はサービス原価のはずだ。ここにずばりと切り込むには、サービスの質を維持した上で人員削減を可能にする組織改革や部署の統廃合を考える必要がある。それと並行してITを活用すれば、さらに効果はあがるだろう。総務・経理部門などの販管費削減などは、本質的な対策にならないのだ。まして、一律に全社の賃金水準を下げたのでは、社員の士気が衰えてしまいかねない。

 ITは確かに業務の効率化・省力化を実現しコスト削減に寄与する。しかし企業活動の全体観を欠いたままで行なうIT化・コスト削減は、「意味がない」とまでは言わないが、小手先だけの改革で終ってしまいがちになる。どこかで根治治療をしない限りは、合理的・効率的な経営の実現は不可能なのだ。ITはどうせなら組織を改善するためのツールとして役立てたいものである。そして、組織体質が改善された結果として初めて、「ITがコスト削減に寄与した」と言えるのである。

(本記事は、「SmallBiz(スモールビズ)※」に寄稿したコラム「近藤昇の『こうして起こせ、社内情報革命』」に、「第15回 全体観を欠いたコスト削減は、小手先の効果しかもたらさない」として、2001年12月17日に掲載されたものです。)
※日経BP社が2001年から2004年まで運営していた中堅・中小企業向け情報サイト